作品タイトル不明
第61話
四十人以上の冒険者たち。
剣士と魔法師による、二重の包囲陣が形成されていた。
逃走を完全に封じるための捕縛陣形だ。
少しでも逃げる素振りを見せれば、後衛の魔法師たちが一斉に範囲魔法を叩き込んでくる。
「……本気で、その包囲陣を私相手に使うつもり?」
神代の視線が冷たく細まり、周囲を囲むギルドメンバーたちを見渡した。
「隊長……」
メンバーたちは羞恥に耐えきれないように俯き、誰一人として神代と目を合わせようとしない。
「彼女はもうお前たちの隊長じゃない。今の隊長は、この私よ」
金髪女が、ぱさりと扇子を広げる。
「神代凛華。今ここで跪いて、私の靴を舐めるなら……見逃してあげてもいいわよ?」
「へぇ?」
神代はくすりと笑った。
「……つまり、そっちのギルドはもう炎上とか気にしないってことね」
「ふん。ただの“覚醒したての新人配信者”が一人いる程度でしょう?」
金髪女が、軽蔑を隠そうともせず私を見下ろした。
……え?
この人、私のこと知ってたんだ。
配信中だって分かってるのに、この態度。
つまり、それだけ後ろ盾に自信があるってことか。
「配信者だからって、路上で人を殴っていい理由にはならないでしょ?」
「先に侮辱したのはそっち」神代が私を背後へ庇う。
「私はただ、本当のことを言っただけよ」
神代が目を細める。
金髪女も、同じように目を細めた。
空気が、ぴりっと張り詰める。
先に沈黙を破ったのは神代だった。
「今の時代、肉体の傷なんてすぐ治る。でも……心の傷は、そう簡単には治らない」
「そう考えるなら、よっぽど悪質なのはそっちでしょう?」
「もういいわ!」
金髪女が懐から水晶を取り出した。
「これ以上、あんたと口論する気はない。――賭けましょう? 受ける?」
「……何を賭けるの?」
パキィン――
水晶が握り潰される。
砕けた欠片の間から、淡い紫煙がゆらりと立ち昇った。
「……“遊戯神”!?」
青野が驚愕の声を上げる。
「遊戯神? なにそれ?」
学校で習ってない単語だったので、私は完全に置いていかれていた。
【ここ半年ほどで急速に普及した“ゲーム契約”です。ダンジョン内で遊戯神を召喚し、ゲームルールを設定することで、次回の迷宮構造そのものを書き換えます】
【これにより、ダンジョンが“対戦型ダンジョン”へ変化します】
ポチが即座に解説してくれた。
「対決の舞台は、ちょうどあんたたちの後ろにある迷宮に設定するわ
参加人数は六人限定。こっちの人数が多すぎるとか、あとで言い訳されたくないもの」
金髪女の言葉に合わせるように、紫色の煙が空中で文字へ変化していく。
そして、対決ルールが宙へ浮かび上がった。
その口元に、残忍で邪悪な笑みが浮かぶ。
「敗者は――相手の靴を、人前で食べること」
「……相手の靴を食べる?」
私はきょとんとして、金髪女の靴へ視線を落とした。
「……あれ? 今のって“ご褒美”の説明で、罰ゲームはまだだよね?」
「は?? ご褒美!? 誰がそんな話したのよ!?」
私はごくりと唾を飲み込む。
「……だって、その靴、すごく高そうだし……なんか美味しそう。私、そんな良い靴まだ食べたことなくて……」
「ぶっ――!」
神代と青野が壁に手をつき、そのまま崩れ落ちそうになりながら笑いを堪えていた。
コメント欄も完全にカオスになっている。
私は頭を掻きながら困惑した。
……え、また何か変なこと言った?
金髪女の口元がぴくぴく引き攣る。
「あなた何!? “靴食い妖怪”なの!?!? しかも“もっと安い靴なら食べたことある”みたいな言い方やめなさいよ!! っていうか、なんで靴を食べる発想になるのよ!!」
「ポチが言ってた。革靴って皮革製だから、理論上は肉類らしいって」
「…………」
金髪女は震える手で近くの木に掴まった。
「賭けの内容変更!!」
彼女が扇子を叩き閉じる。
「もしあんたたちが負けたら――神代凛華、あんたは十年間、無償で私の奴隷になりなさい!!」
「!?」
ちょ、ちょっと待って!?
さっきまで靴食べる話だったよね!?
急に人生賭け始めてない!?
「……いいわ」
神代が剣を抜き、空へ向けて突きつけた。
「その代わり、私たちが勝ったら――私の元隊員全員との所属契約を解除しなさい」
「そして、他ギルドへの移籍を妨害しないこと」
「――成立よ!」