軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第37話

私は宿のベッドの上で目を覚ました。

目が覚めた瞬間、なぜか――何か大事なものを見落とした気がして、胸の奥に引っかかる。

「ポチ……私、何か忘れてない……?」

【思い出せないことが、必ずしも不幸とは限りません】

「それもそうだね……っていうか、お腹すいた……」

【G166ダンジョンの野外には、美味でありながら猛毒を持つ魔法植物が多数存在します。配信の開始を推奨します。タイトルは『見つけたものを全部食べる』が適切です】

「うわ、そのタイトル怖すぎるでしょ……」

ポチの提案は採用しなかったけど、結局私は外に出ることにした。だって、お腹が限界だから。

【口渇を防ぐため、錬金術師を一名携行することを推奨します】

「……携行って何? 私、装備品か何か?」

青野が露骨に不機嫌そうな目でポチを睨む。

【お二人でのコラボ配信を提案します。一人が『拾ったものを食べる』、もう一人が『拾ったものを錬成する』。ランダムチャレンジとして成立します。有用な薬剤が生成された場合、その場で配信内オークションも可能です】

青野の目が、ぱっと見開かれた。

「このAI、天才すぎない!? 私、どこに配置されればいい!? ぜひ私を携行してください!!」

「……」

「……というわけで、今日は二人でコラボ配信です。みんな、私に何を食べてほしい?」

一通り事情を説明したあと、私はコメント欄に視線を向けた。

さて、みんなが一番見たい“私が食べるもの”は――

「……ゾンビ?????」

「なんで急にそんな団結力発揮してるの!? あんなの絶対まずそうでしょ!?」

「いや、気にしてるのそこなの……? 論点ズレてない……?」 青野がぐったりした声で突っ込む。

「でもさ、ハムとか塩漬け魚とか熟成肉とか、微生物の発酵を利用した食文化ってあるじゃん? もしかしたらゾンビウイルスも、一種の発酵現象なのかも……」

私は首をかしげながら、真剣に考え込む。

[ちょっと待て、この子マジで考えてない??]

[“ゾンビを味わう”とか検討してる人間初めて見たんだけど??]

[ゾンビ追いかけてかじる人間とか、そんなホラー映像やめてくれえええ!!]

「あ、人間のゾンビはさすがに食べないよ? でもゾンビウイルスって、人間だけに感染するわけじゃないでしょ。家畜とか……牛とか鹿とか」

[ダメだ!話題変えろ!!本気だこの子!!]

[一生のうちで“ゾンビ食う人間”を見ることになるのかよ!?]

「まあ今日は無理だよ。ここG166ダンジョンだし。魔法ダンジョンであってゾンビダンジョンじゃないから。今日は魔法食材縛りね!」

[野外で魔法食材採取? 甘いな、少女よ。]

[G166で野外食材とか……初見だな?]

「え? どういうこと? G166の野外って何か問題あるの?」

[G166は魔力濃度が高すぎて、野生の植物や菌類は全部高級魔法素材扱いだ]

[採集パーティが常駐してるから、木と雑草以外は全部刈り尽くされてる]

「……それって、私、普通に餓死コースじゃない?」

正直、もう軽く低血糖っぽい。

朝ごはんも食べてないし……

……あ。

あれ?

ちょっと待って。

あの高級宿のビュッフェ……

一口も食べてない……?

「いやあああああああああ!!!!」

二重の絶望に頭がくらっとする。

【……やはり思い出しましたか……】

ポチがため息をついた。

「? 何を思い出したの?」

青野が首をかしげる。

【表情分析の結果、彼女は99.3%の確率で『今朝食べ損ねた朝食』を想起しました。残り0.7%は『未提出の大学志望届』であり、締切まで残り5日です】

「……」

「え? 締切、あと5日しかないの!?」

三重コンボ。

でも、物事って最悪まで落ちると、逆に変な転機が来るらしい。

私たちが曲がり角を曲がった、その瞬間だった。

遠くの空に、突如として号角が鳴り響いた。

雲海を切り裂くように、無数の帆を張った艦隊がこちらへ向かって進んでくる。

さっきまで空にあったはずのそれが――

次の瞬間、跡形もなく消えた。

そして。

気づけば、目の前には――

とんでもなく賑やかな市場が広がっていた。

入口には、仮面をつけた華やかな魔法使いが立っている。

彼は優雅に一礼し、私たちへと手を差し出した。

「……『古の魔法市は、最初に見つけた者にのみ門を開く』……」

青野が呆然と呟く。

「私たち……今回の“古代魔法市”の初見者になっちゃったってこと……?」