軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

36話『偏才VS偏才』

「おいおい、まさかEランクの魔法で俺を倒せるとは――」

「――《 破裂(バースト) 》」

そう唱えた瞬間、放たれた弾丸が破裂し、激しい衝撃波がバレンを吹き飛ばした。

「ぐ、お……ッ!?」

地面を転がるバレンが、呻き声を漏らす。

実戦で使用するのは初めての魔法だが――どうやら上手くいったようだ。

「なんだ、今のは……!?」

起き上がるバレンへ、再び《魔弾》を放つ。

Eランクの魔法と馬鹿にしていたバレンは、先程の衝撃波を思い出し、焦燥に駆られた様子で大きく飛び退いた。しかし――。

「もう少し大きく避けないと、あたるぞ」

「が――っ!?」

弾丸が破裂し、不可視の衝撃が解き放たれる。

バレンは後方へ勢いよく吹き飛んだ。

「圧縮した魔力を、一気に解放してんのか……? 原理は分かるが、どんだけ高密度で圧縮すりゃあ、んな威力になるんだよ……!」

大戦に参加して場数を踏んでいるだけあって、バレンはすぐにこちらの技を分析してみせる。その分析は正しかった。

「ちっ……くそがッ!!」

舌打ちしたバレンは、全速力でこちらに肉薄してくる。

佩帯の力を最大まで発揮している今のバレンと、接近戦はするべきではない。しかし焦っているのか、今のバレンの動きは容易に先読みできる。

「これだけ近づけば、お得意の射撃もできねぇ――」

形勢逆転した気になっているバレンの腹に、俺は掌を添えた。

「――《 破裂(バースト) 》」

「ご――ッ!?」

掌に収束した魔力を一気に解放し、バレンを吹き飛ばす。

苦悶の表情を浮かべるバレンを見ながら、俺はこの新しい技が予想以上に便利であると確信していた。

シルフィア先生に教えてもらった、魔力の解放。これは俺の偏才と非常に相性がいい。魔力の圧縮率に比例して、解放時の衝撃はいくらでも大きくできるし、しかも圧縮したままの魔力と比べて殺傷力は低い。今回のような戦闘にはもってこいの武器だ。

「くそが……てめぇ、ふざけんな……ッ!!」

その時、バレンが怒りに満ちた表情で告げた。

「そいつは、 人を傷つけねぇ(・・・・・・・) ための技じゃねぇか……ッ!!」

その言葉を聞いて、俺は目を丸くする。

「気づいたか」

「当たり前だ……! そこまで魔力を圧縮できんなら……解放せずに、そのまま俺を撃ち抜きゃいいだろうがッ!!」

そう簡単に見抜けるものではない筈だが、バレンは瞬時にこの技の本質を理解した。身体の動かし方は単調なこともあるが、やはり頭が悪いわけではないのだろう。

実際、工作員たちはバレンが言った方法で倒している。あの時の光景と、この現状を比較して、自分が手加減されていることを悟ったのかもしれない。

「そう不機嫌になるな。俺も、これだけでお前を倒せるとは思っていない」

憤慨するバレンに俺は言う。

魔力解放による衝撃だけでは、バレンを吹き飛ばすことはできても、意識を奪うほどのダメージにはならない。

今のバレンに攻撃を通すには、まずあの佩帯を解除しなくてはならない。

そのための武器を――俺は持っている。

「確かに、俺が習得した魔法は大抵、手加減のためだが――これだけは違う」

右手に意識を集中する。

シルフィア先生のアドバイスによって、幾度となく練習した魔法《 障壁(バリア) 》。これを極限まで圧縮し、更にその形状を整える。

透明な魔力が極限まで圧縮された結果、その空間が陽炎の如く歪んだ。

歪みは、一振りの剣の形をしている。

「圧縮刀――《 拒絶障壁の刃(リジェクト・ブレード) 》」

怪訝な目をするバレンに、俺は透明な剣の鋒を向けた。

「この剣は、魔法を弾く」

一瞬でバレンに肉薄する。

そして剣を振るった直後、バレンは本能で回避した。

「く――ッ!?」

バレンは紙一重で斬撃を避ける。

その際、バレンの身体を覆う炎と雷が剣に掠り――弾けるように霧散した。

「なッ!?」

驚愕したバレンが、素早く後退する。

「てめぇ……なんだ、その魔法は」

「そうだな、佩帯の使い手であるお前に分かりやすく説明するとしたら――」

考えながら、俺は答えた。

「――この剣には、《障壁》を二百枚ほど凝縮している」

実際にはもっと多いかもしれないが、概ねその程度だろう。

この魔法は、シルフィア先生に教わった《 障壁(バリア) 》という魔法に、俺が日頃から使用している《物質化》という魔法を組み合わせたものだ。《障壁》を圧縮する際、その形状を《物質化》と同じ要領で操作できないかと考えたところ、このような形になった。

「二百、だと……!?」

バレンが目を見開いて驚く。

やがて何かに思い至ったのか、眦鋭くこちらを睨んだ。

「そうか……! てめぇ、圧縮の偏才を……ッ!!」

「そういうことだ、同類」

まさか自分以外に偏才を習得している人間と出会うとは思わなかったが、それは向こうも同じだろう。バレンは目を点にするほど驚き――やがて、笑い声をあげた。

「はは……くはははははははッ!!」

吹っ切れたかのように、バレンが笑う。

「加減なんて、微塵もしているつもりはなかったが……何もかもが予想外過ぎて笑えてきたぜ。てめぇ、マジで強ぇんだな」

「最初にそう言っただろ」

「真に受ける馬鹿がいるかよ。……普通科の一年生が、偏才まで習得しているなんて、この目で見てもまだ信じられねぇぜ」

そう告げるバレンの表情はどこか爽やかで、先程までと比べて憑き物が落ちたかのようだった。

焦りや恐怖が消えている。

多分、勝敗を悟ったのだろう。その上で、己の成すべきことを見据えている。

「決着をダラダラと引き延ばすのは、性に合わねぇんでな。――最後くらい、殺す気でやらせてもらうぜ」

「……好きにしろ」

答えた直後、バレンは微笑を浮かべ、その姿を消す。

一瞬で高く跳躍したバレンは、頭上から拳を突き出してきた。

「おおぉおおおぉぉおぉおぉおおぉおぉぉお――――ッッ!!!!!」

炎と雷を纏った拳が、大気を押し潰しながら迫る。その衝撃だけで足元の地面には亀裂が走り、遠くにある木々の枝葉が砕け散った。

「言っただろ」

右手の剣を軽く引きながら告げる。

「この剣は――魔法を弾く」

ゆらりと、陽炎の如き歪みの剣を一閃した。

刹那――バチン! と弾ける音が響くと同時に、バレンの身体を覆っていた魔力が全て弾かれる。

「……くそ」

短く、バレンは悪態を吐く。

やれよ。そう言いたげなバレンの目を見て、俺は掌を突き出した。

「――《 破裂(バースト) 》」

バレンの身体が、強く地面に叩き付けられた。