軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37話『エピローグ:強さ』

戦いが決着してから、数分後。

クリスへの報告を済ませ、熱を帯びた身体を夜風で冷やしていると、足元に横たわっている人影から呻き声が聞こえた。

「目が覚めたか」

「……ああ」

地面に横たわるバレンは、星空を眺めながら答えた。

「強ぇな……まさか、同じ学生に負けるとは思わなかったぜ」

ゆっくりと上体を起こしながら、バレンは言う。

「そんなに強ぇなら、俺の考えも分からねぇだろうな」

「……お前も十分、強いだろう」

「俺は強く なった(・・・) んだ。……大事なものを失ってからな」

なんとなく、その大事なものというのがフラウ=デュライトであると察することができた。

だからこの男は、危機感を大切にしているのだ。

大事なものを失った危機感で、この男は漸く戦場でも負けない強さを得ることができた。けれど今更それを手に入れても、失われたものは返ってこない。そんな自分と同じ目に遭う者が少しでも減るよう、この男は国中の人間に危機感を振りまこうとしていた。――次こそは間に合うように。

「……分かってないな」

「あん?」

「お前の言葉をそのまま返してやる」

溜息を零して、俺は告げる。

「バレン。お前は強いから、弱い人間の考え方を理解していない。……この国の誰もが、お前のように戦い続けられると思うな。常在戦場を誓うことができるのは、ほんの一握りの者だけだ。殆どは疲弊して、やがて押し潰されてしまう」

腕っ節の強さだけではない。

心の強さ。或いは精神の強さ。どんなものであろうと――己の強さを他者へ押しつけてはならない。

「だから、平和が必要なんだ。たとえ仮初めだったとしても……それを必要とする人たちは存在する」

それはどこにでもいる平凡な人間かもしれないし、クラスメイトかもしれないし……俺かもしれない。

俺も、延々と続く戦いの中に虚しさを感じていた。あのまま大戦が続いていれば、今頃は気が狂っていたかもしれない。学園に通わず、クリスと共に今も"裏"の人間として戦い続けていれば、きっとオズのように淡々と敵を殺す兵器と化していただろう。

「まだ、納得はしてねぇ」

小さな声で呟くようにバレンは言う。

「けど……まあ、真剣に考えてやる」

そう告げるバレンに、俺は深く息を吐き出した。

一先ず、これでルーシア帝国の工作員が学園に侵入することはなくなるだろう。

しかし気になることは――。

――あの生徒会長は、どこまで知っている?

会長はバレンの不満に気づいている様子だった。俺とバレンが戦うよう誘導した節すらある。

あの男は今もどこかで、俺たちの様子を窺っているのかもしれない。

「……終わったみたいだね」

学園の屋上で、二人の戦いをずっと眺めていたイクスは呟いた。

隣にいる薄紫色の髪をした少女シェリアも、事態の収拾を見届けて胸を撫で下ろす。

「会長。彼にはどこまで説明したの~?」

「殆ど何も。でも察してくれていると思うよ」

「あんまりいい方法とは思えないわね~。狂犬のガス抜きを、ピッカピカの新入生にやらせるなんて~……」

「仕方ないよ。バレンは僕の言うことを全く聞いてくれないからね。僕以外に彼と正面からぶつかれる相手が、どうしても必要だったんだ」

ぼんやりと校庭にいる二人を見つめながらイクスは言った。

地面に横たわるバレンは、穏やかな表情をしていた。あのような顔を見たのは久々だ。

「それに、このタイミングでガス抜きしておかないと後が怖いしね」

「まあ確かに、競技祭の本番中に暴れられるよりかは、マシかもしれないわね~」

納得したシェリアに、イクスは微笑した。

「それじゃあ僕は行ってくるよ」

「行くって、何処にかしら~?」

「騎士団の駐屯地。緩めていた警備を元に戻さなきゃ」

それに、校門の前で待機させていたミラにも任務終了を伝えなければならない。何やら校門の前にも複数の人影が集まっていたことを思い出す。

「でも、工作員の残党がまだ学園にいるみたいだけれど~……」

「ん? ああ、そう言えば処理を忘れてたな。ええと、どこに設置してたっけ……」

イクスは眉間に指をあて、敵の気配を感知した。

トゥエイトとバレンが戦闘している間に、工作員たちは再び学園に侵入していた。その数は十人。学園に複数ある倉庫と、各地の見張りに分散している。

工作員の位置情報を把握したイクスは、軽く右手を持ち上げた。

親指と人差し指に小さな魔法陣が灯る。それを素早く擦り合わせ――パチン、と指を鳴らした。

「はい、これで全滅」

あらかじめ設置していた罠が起動し、十人の工作員が一斉に気絶する。

イクスは顔色ひとつ変えることなく階段を下りた。

バレンとの戦いから二週間が経過した頃。

遂に、魔法競技祭が始まった。