軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第387話「すれ違う視線」

#第387話「すれ違う視線」

司とエリがA国のスパイを案内していたその時だった。恩方ダンジョン付近を遠目に見ていた司の視界に、見覚えのある人間の姿が見えた。それはレンたちだった。

しかも、政府管理下のはずの恩方ダンジョンへ向かっている。司は思わず声を張り上げた。

「おいレンじゃないか! なんでお前が恩方ダンジョンに入れるんだよ! そこは政府管理ダンジョンだろう?」

だが。レンは一瞬、司を見ただけで何も言わずにそのまま中へ入っていった。無視と言って差し支えないだろう。

「……チッ、あの野郎、無視しやがって」

司は舌打ちした。司にとってはレンは昔から気に食わない人間だ。更にその態度には腹が立った。

一方で、スパイたちは司に視線を向ける。そして翻訳ソフトを通じて話しかけた。

「(彼と知り合いなのか?)」

「(昔の知り合いだ。学生時代のな)」

司は軽く答えた。レベル5のハンター同士なら顔見知りでも不思議ではない。スパイたちも一応納得した様子だった。

だがエリは違った。

政府管理ダンジョンに入れる人間と司が知り合い。この一点だけでも、裏組織にとっては価値がある話かもしれない。これは報告案件だろうと判断していた。

恩方ダンジョンにはどちらにしろ入れない。

そのために、その日の案内は一旦終了となった。明日は富士山麓の青木ヶ原樹海ダンジョン付近の案内がある。

エリはそこでもう一押し、司からの情報を引き出そうと考えた。

「司くん、今日はありがとう。お礼にご飯でもどう?」

その一言で、司の顔はぱっと明るくなった。エリとの距離を縮めるチャンスだ。現時点では軽くおさわりする程度までしか進んでいない。そこで怒るわけでもないので脈はあるはず。

そして何とか仕事が一緒になる今日明日でその距離を縮めたいと思っていたのだ。司にとってはエリからの誘いは渡りに船。そして、今日こそはうまくやろうと考えた。

「もちろん行きます」

有頂天とはこのことだ。食事の席。軽く酒も入って、司はよく喋った。

「ねぇ、司くん、あの恩方ダンジョンに入ろうとしていた人達と知り合いなの?」

「ああ。あいつが学生時代にリーダーだったクランを、俺がのっとってやったんだよ。女も一緒にな」

「へえ、すごいのね」

エリは呆れた。学生時代とは言えクランの乗っ取りとか酷いことをするものだ。しかも彼女まで奪ったのか?

心底軽蔑する話だが、それはどうでもいい。続きを催促しようと考えていたら司が勝手に話を続けた。

「だろ? そのあと追放してやった。ざまぁだ」

「へぇ、さすが司くんね。気に入らない人間は追放して当然よね」

エリは適当に相槌を打った。馬鹿馬鹿しい話にも感じるが今は司の機嫌を取り情報を取るのが先決だ。

「その後はどうなったの?」

「俺は一気にレベル5まで上り詰めたさ」

「さすが司くんね。そして彼は?」

司の話はどうでもいい。エリとしては話がずれようとするたびにレンの方に話を戻した。

それに対し、司は鼻で笑った。

「あいつ? 知らねぇよ。どっかの裏組織にでも引っかかって詐欺バイトでもしてたんじゃねぇのか? それで稼いでレベル上げたんだろ。汚いやつだ」

エリは内心、呆れた。現在進行形で裏組織に利用されているのはむしろ自分だというのに。

まあでも、これだけバカだと扱いやすい。エリとしては都合が良いので更に続きを促した。

「で、彼のレベルは?」

「たぶん俺と同じレベル5だな。俺は真面目に会社の金でレベルを上げたんだ。一方で、あいつは犯罪のようなことをして金を稼ぎレベルを上げた卑怯な奴だ」

エリとしては司の話は話半分に聞くべきだと感じ取っていた。相手の男、レンという名前の人間がどうやってレベルを上げたのか司は知らないのだろう。

だから適当に自分で自分の都合の良い話を作っている。

「そう言えば、仲間は女性ばかりだったわね」

「それがまた腹立つんだよ。あのハーレム野郎、いつの間にかルナまで引き入れやがって」

「えっ……ルナって、あの有名配信者の?」

「そうだ。むかつくだろ?」

「ええ、そうね……」

エリは、必要な情報を頭の中で整理する。レンはかつて司が追放した人間ではあるが、現時点ではレベル5以上。そして政府管理ダンジョンに入れる立場なので相当に認められている。更には有名配信者ルナとも関係がある。

これが何に繋がるかは分からない。

だが、価値はある情報かもしれない。裏組織に報告するべきだと判断した。

一方で司は調子に乗っていた。

「次はどこ行く? 俺はホテルでもいいぞ」

「ごめん。明日は仕事でしょう? 今日はもう帰るわ」

その言葉に、司はがっくりと肩を落とした。

「そ、そうか……確かに明日は仕事だ。ホテルに行っても厳しいよな」

エリは店を出ながら、静かに頭の中を再整理した。それは報告対象であるレンについてだ。

特に大きなことが分かったわけではない。断片的な情報ばかりだ。

しかし政府系ダンジョンに入れるならば相当凄いことだ。そして司の知り合いならば何らかの形で使える可能性はある。裏組織ならば接触することも可能であろう。

そうして、水面下で、別の歯車も回り始めていた。