作品タイトル不明
第386話「おいしい仕事の裏」
#第386話「おいしい仕事の裏」
裏組織には、前回の北海道駒ヶ岳ダンジョンの氾濫時よりも明らかに多くの依頼が入っていた。
やはり例の映像流出が大きい。
レベル4モンスターと、それに対峙する自衛隊服姿の人型の存在。あれは日本の秘密の戦力の可能性がある。
映像を解析したいくつかの国が動いた。その国々は様々なルートで動いていたが裏組織にも働きかけがあったのだ。
裏組織への依頼の内容は様々だった。
「何らかの追加情報はないか?」
「戦闘地点を案内してほしい」
「恩方ダンジョン周辺を確認したい」
裏組織は情報提供の依頼については、適当に対応した。すでに出回っている情報を整理し、焼き直し、体裁を整えてレポートにする。
それだけでも十分な金になる。
中身のない報告書でも、疑心暗鬼の国は買うのだ。おいしい仕事だった。
さらに現地案内。これも実においしい案件だった。司とエリに適当な報酬を渡し、案内役をさせる。
司は「また高額案件だ」と喜んでいるかもしれないが、とんでもない。
スパイから動く金は数百万円単位。
司に渡るのはその十分の一以下だった。
だが裏組織にとっては、司は優秀な“安価なダンジョン案内窓口”だ。レベル5ということで四階層ぐらいまでは案内ができる。それだけでも十分なのだ。
利益率は極めて高い。そして何より重要なのは、各国スパイがどこかでポロリする情報。
前回もそれで情報を入手した。各国スパイも最初は緊張して司とエリを警戒するが、司がエリにちょっかいをかけているのを見て、ただの馬鹿だと判断。油断してダンジョン関連情報をお互いに母国語で伝え合うこともあった。日本語ではないから分からないだろうとの判断だ。
それをエリがすかさず拾っていたのである。
今回もそれを待っていた。すなわち裏組織はスパイから多額の報酬をもらい、司やエリを安いお金で働かせて、更にはスパイからの情報を狙っていたのである。
裏組織にとっては何重にもおいしい話だ。
日本にいるという立地の有利。そしてダンジョンを案内できるという立場。裏組織は、その両方を最大限に活かして動いていた。
やがて、A国のスパイを受け入れる日が来た。同行するのは、司とエリになる。
最初に向かったのは、クアンが戦闘していたと推測される地点だった。復旧作業は早急に進められていたが、完全に戦闘の痕跡を消すことは難しい。
崩れた舗装。えぐれた地面。そこには、確かに“何らかの戦闘”があった痕跡が残っていた。
スパイたちは、レベル4モンスターと日本の秘密戦力が戦闘を行った可能性が高いと判断した。
しかしながら、それ以上は分からない。動画や画像の撮影。現地付近の石ころなどを収集した。
その後はモンスターが辿ったであろう恩方ダンジョンからの道筋も調べた。どこかでレベル4モンスターを倒した場所があるはずだ。
レベル4と対峙した人間は不利だったからおそらくは何らかの武器やドローンで対応したはず。
しかしながら、どこを見ても重火器、誘導弾の破片もない。そしてドローン戦闘が行われた形跡もない。ドローン戦闘が行われた場合はどうしても残骸が残るものなのだ。
戦闘があったであろう場所はいくつかは特定できた。しかしながらどうやってレベル4モンスターを撃退したのか?その決定的な証拠は一切、見つからなかった。
日本政府は「小規模」と発表している。しかし映像はレベル4モンスター。まずはそこに矛盾がある。
そして仮に小規模だったとしても火器やドローンによる戦闘の形跡がないのはどう考えてもおかしい。
まるでドローンも火器も、自衛隊戦力そのものが使用されていないかのようだった。
スパイたちは首を傾げた。一方で。
「おいエリ、ちょっと寄り添って歩こうぜ」
「めっ!」
ぺしっと軽く手を叩かれる司。スパイの付近ではまるで夫婦漫才のような風景が繰り広げられていた。
その緊張感のなさに、スパイたちは呆れた。
事前説明では「ダンジョンには潜れるが頭の弱い人間を同行させる」と聞いていた。
最初は罠を疑った。だが実際の様子を見ると――本当にただの軽い男と女にしか見えない。
警戒は、少しずつ緩む。そして。
「やはりレベル4モンスターが氾濫していた可能性は高い」
「戦闘が行われた形跡はあるが重火器やドローンによる戦闘の残骸が見られず不自然」
そんな言葉が、ぽろりと漏れる。それを、エリは聞き逃さない。無邪気な笑顔の裏で、確実に情報を拾っていった。
こうして調査を続けながら、一行は恩方ダンジョンへと到着した。政府管理下となった入口なのでダンジョンに入場することはできない。
その奥に、世界が疑う“何か”があるかもしれない。スパイたちの目は、さらに鋭さを増していった。
そして、その恩方ダンジョンに入っていく8人を見て司が叫んだ。
「おいレンじゃないか、なんでお前が恩方ダンジョンに入れるんだよ! そこは政府管理ダンジョンだろう?」
当然のことながら、エリはその言葉を聞き逃さなかった。
再び司がよからぬことをしでかした瞬間だったのかも……しれない。