作品タイトル不明
第374話「切り札クアン」
#第374話「切り札クアン」
恩方ダンジョンの氾濫は、レンだけでなく自衛隊特殊部隊、自衛隊のトップ、朝倉らにとって完全に想定外だった。
普段はレンたちが活動している場所だ。氾濫が起きてもすぐに対応できる。
そのため常時監視体制は夜間のみ。日中はレンたちがいることが前提での対応だったのだ。
だが今日は違った。
山梨県、青木ヶ原樹海ダンジョンの氾濫対応でレンたちは全員が出払っていた。そして常時監視のハンターもいない。
まさか、そのタイミングで恩方が氾濫するとは誰も思っていなかったのだ。盲点だったと言えよう。
その情報を聞いてすぐに動いたのは自衛隊トップ、高倉だった。
青木ヶ原樹海ダンジョンに向かった自衛隊特殊部隊はすでに戦闘中。
もちろん今すぐに戻すことは不可能だ。樹海の周辺にはいくつもの市がある。放置すれば数十万人の命が危ない。
一方で八王子市の人口も多い。こちらは50万人以上。どちらでモンスターが暴れても大惨事になる。
レンたちという、いつもの頼れる戦力がない状況。何とかレベル4モンスターが八王子市街地に到達する前に討伐しなければいけない。いや、レンたちが戻るまで時間稼ぎをするだけでもいい。何とかならないか?
高倉はすぐに判断した。まずは立川駐屯地へ指示を飛ばした。八王子市街地へ続く道路を封鎖。警察などに要請し恩方方面の住民は八王子市中心部へ避難させた。
そしてバリケードは二段構えとした。第一線はドローン部隊。八王子市の中心部より5km手前に配備。
そしてその1km後方に自衛隊部隊の物理的バリケードとした。
その二つで時間さえ稼げれば、レンたちが戻る。レンたちさえ戻れば何とかなる。その算段だった。
だが問題は明白だ。
レベル4モンスター相手にドローンでは勝てない。自衛隊でも厳しい。
時間稼ぎすらできない可能性があるのだ。
そこで高倉は、切り札を切った。元Q国の秘密の戦力クアンだ。
本当に彼女に任せていいのか?多少の葛藤はあったが背に腹は代えられない。そしてレンが「もうクアンとレイラを信頼しても大丈夫だと思いますよ」と言っていたのを思い出していた。ならば……自分も信じよう。
信じて裏切られたら自らが責任を取るしかないと割り切った。
そこで立川駐屯地付近にいるクアンに連絡をとった。
「クアン、君に頼みがある。恩方ダンジョンからレベル4のモンスターが氾濫した。君の実力では対応が厳しいのは分かっている。レンたちが戻るまで、何とか足止めだけでもできないだろうか?」
「無茶だ。レベル4を一人で相手するなんてあり得ない」
高倉の言葉にレイラが身を乗り出した。それは当然だろう。レベル4の人間がレベル4モンスターと戦うのは厳しい。レベル4モンスターがいる四階層での対応も5人以上が推奨されているのだ。
しかしクアンは返事をした。
「分かりました。やります。もちろん私の実力では難しいのは分かっています。でもレンさんたちが戻るまで足止めするだけなら何とかなるかもしれません。レンさんに恩を返すためにも頑張ります!」
「ありがたい」
高倉はレンの存在の大きさを知った。彼はハンターとして実力があるだけでなく人を惹きつける何かがあるのだろうと感じた。
しかし今はそんなことを考えている余裕はない。クアン投入のための準備を進めた。
まずは身バレの心配はあるのでレンたち用に開発された自衛隊の防護服を着せ、前線へ出てもらった。
もちろんレイラは待機。ダンジョン外では戦力にはならないからだ。だがクアンの「戻る場所」でもある。そういう意味ではレイラの存在も大きい。
そうして高倉がクアンに指令を出した。
「先ほど言ったように足止めだけで構わない。本格的な戦闘は不要。対応が厳しい場合はじりじり下がって良い。そこにはドローン部隊、自衛隊部隊が二段構えでいる。そこに到達したらバトンタッチして逃げて欲しい。無理せず時間稼ぎだけでいい。自分の命を最優先にしてくれていいからな」
「分かりました」
「レンたちは別のダンジョンで交戦中、戻るのは1時間後ぐらいになるだろう。それまで少しでも時間稼ぎしてもらえたら助かる」
「分かりました。何とかやってみます」
レベル4のクアンにとって、自分1人だけであれば同格のレベル4モンスターは格上となる。
正面から倒すのは厳しい。だが足止めや攪乱ならば、ぎりぎり可能だろう。
そして何より、レンが戻るまでの時間だ。自分とレイラを救ってくれた恩人のために動くことを決意した。
そうして緊急の防衛、三段構えが完成した。
最前線はクアン、その次に八王子市から5kmの距離にドローン部隊、そしてそこから更に1km後方に自衛隊バリケード。
打てる手はすべて打った。これで駄目ならばどうしようもない。
ほどなくしてクアンが恩方ダンジョンから溢れ出たモンスターたちと対峙した。レベル1~レベル3のモンスターが群れを作り、その奥にまるで指揮官のように居座るレベル4のモンスター、ウルフが前方を見据えた。
そうして八王子市を守る戦い。クアンの戦闘が今、始まったのだった。