作品タイトル不明
第324話「人類の愚かさ」
第324話「人類の愚かさ」
人類のドローンによる逆襲は成功した。世界各国は、ひとまず一息ついた形となった。
もちろん、依然として厳しい状況にある国もある。だが余裕が生まれたことで、他国が協調介入できる体制が整った。
自衛隊も時には協調してダンジョンから氾濫するモンスターに対峙した。そうして人類は一階層~三階層、すなわち浅層の氾濫を押し返した。世界はこれで平和になったかに見えた。
――だが。
余裕が生まれることは必ずしも良いことばかりではない。
世界中で慢心、 驕りが生まれていったのだ。
「ダンジョンくらいどうってことない」
「人類の新兵器に勝てるはずがない」
「更に強いモンスターが出てきたとしてもドローン性能を上げれば問題ない」
そんな空気が、世界に蔓延し始めていた。
そして、いくつかの国では、再び内乱や他国とのいざこざが表面化していくことになった。
それまでは、世界各国はこれまではダンジョン対策に全力を注いでいた。他者と争う余裕すらなかった。
だが、ダンジョン対策がドローン運用対策で一息ついたことで――
人類は再び、人類同士で争い始めたのだ。
地位、お金などを求めて多くの人間がうごめき、その結果として様々な場面で争いが起きた。
個人と個人の対立、組織と組織の対立、そして大きなところでは国同士の対立などが表面化していった。
独裁国家は反抗する国民を一方的に弾圧した。大国は軍を使って、核開発を進める国へ圧力をかけ、時には攻撃をしかけた。
ダンジョンという共通の脅威があった間は抑制されていた動きが、再び活発化していったのだ。
争いが更なる争いを生み、攻撃を受けた側は攻撃した側を憎む。そうして復讐の連鎖が起きていった。
共通の敵がいなくなると人類など脆いものである。あっと言うまにダンジョンによる問題が起きる前の状況に戻っていった。
各国首脳は頭を抱えた。せっかく人類はダンジョンへの対抗に成功したというのに。
今度は人同士、組織同士、そして国同士の争いだ。何のためにダンジョンに対抗する努力をしてきたのか。
そうなると裏組織も息を吹き返すことになる。
裏は、表が平和で輝いている時ほど動きやすい。人間同士、組織同士の対立が増えたことで様々な依頼も入るようになった。
これまでオレオレ詐欺、マルチ商法、投資詐欺などで細々と資金を稼いでいた組織は、表からの依頼で大金が入ることになった。
そのお金で武器を調達し勢力を拡大。
表向きはクリーンな仕事をしながらライバル会社を裏組織などを使って嫌がらせをしたり、政治家とつるんで国を含む行政の補助金をせしめるなどしていった。
そして裏組織は“秘密の戦力”の調査も続けていた。まずはいくつかの国のスパイから断片的な情報を掴む。
だがそこで決定的な証拠はない。
情報をまとめたところでは、北海道鹿部町の駒ヶ岳ダンジョンの氾濫は表向きには小規模氾濫だったとされるが、現実には大規模反乱だった可能性が高いことが推測された。
それを鎮圧するために自衛隊が戦力を結集して対抗したという情報までは得ていた。
すなわち駒ヶ岳ダンジョンの氾濫は大規模で自衛隊が総出動、かなりの危機的状況だったにも関わらず”圧倒的な戦力”が鎮圧したというところまでは掴んでいたわけだ。
しかし、その”圧倒的な戦力”についての情報が全く出てこず分からない。
もしかしたら、最近、ダンジョン氾濫対策として有効と認められたドローンのような兵器によって鎮圧されたのかも?
日本はその情報を出し惜しみしていたのかもしれない。
そう推測する者もいた。
だが辻褄の合わない部分が多すぎる。ドローンなどによる爆撃で鎮圧したという形跡がほとんどないのだ。
裏組織は様々な方向から情報を探ったが真相には辿り着けない。それはそうだろう。現時点では与党の政治家、そして大臣クラスでさえ知らない情報だ。大臣では大泉放映大臣しか知らないトップシークレット。
裏組織がいくら探ったところで情報が出てくるはずもなかった。
そうして様々な思惑が交差し、世界は再び混沌へと傾いていった。だが今回の混沌の原因はダンジョンではない。
人類同士の対立が主要因だ。
結局のところ、人類は破滅の道しか選べないのかもしれない。
地球にダンジョンが生まれたことで一時は一丸となって対抗したが、それは本当にわずかな期間であった。再び対立が激化していった。
もちろんダンジョンが止まったわけではない。
次の段階があると警告する声もあった。
だが、それはほとんど無視された。
多くの人間は儲からない話には乗らないのだ。
より強いモンスターが氾濫しても、更なる人類の技術の発展で何とでもなるだろうという意見も多く、危機感が無かったからなおさらだ。
人類は本格的な危機が目の前に迫るまでは動かない。そして目の前の利益だけを考えて動き、時にはその私益ためにお互いに醜く争う。
人類は、どこまでも愚かだった。最大の敵はダンジョンではなく自分たち自身なのかもしれない。
そうして人類が呆けている間にダンジョンはその活動を少しずつ活発化させていったのだった。