作品タイトル不明
第320話「遠回りという戦略」
#第320話「遠回りという戦略」
その後、正式な報告の場が設けられた。
I国首相ロマーニ氏、日本の高泉首相、大泉防衛大臣。そして両国の秘密の戦力を知る側近たちが集まった。
俺たちはジュリアとステラの現状、そして今後の実力アップについて説明した。
「(今のレベリング方法では、真の実力が付きません。この先は厳しいと思います)」
場は静まり返った。
でも、俺は率直に言いきった。このままでも、ぎりぎりレベル5には届く可能性はある。だが――確実にそこで止まる。
真の実力の積み上げが足りないからだ。
「(ダンジョンでレベリングするよりも、基礎鍛錬を優先した方がいいでしょう)」
そう続けた。短期的には経験値が上がらずに遠回りに見える。当面はレベルアップまでの速度は落ちるだろう。
だが真の実力がつけば、そこからはレベルアップするまでの速度が速くなり、更にはレベル5だけでなくその先のレベル6への道も広がる。
ロマーニ首相は最初、少し戸惑った表情を見せた。
しかしI国側の側近の一人が補足するように質問してきた。
「(基本的な戦闘訓練を積んだ方がいいということですね。自主的に考えて戦えるようになって欲しいといいうことでしょうか?)」
「(はい。それに近いと思います。今はおぜん立てしてもらって殴るだけ。それでは真の実力が付かない。それではこの先、強くなるのは厳しいでしょう)」
「(現状では戦闘になった時の咄嗟の判断さえもできません。戦いに入った時に戦況を見極め役割分担を自主的にして攻撃も防御も行う、そこまでやることで上が見えていきます)」
「(そのためには自分の攻撃力、防御力、そして判断力を高め、磨いていく必要があります。そのためにはどうしても基礎鍛錬が必要です)」
「(確かにその通りでしょう。今のままでは上に行くのは難しいでしょうね)」と側近の方が深く頷いた。おそらくはもともと理解している人なのだろうと思うが。
議論が進むにつれ、理解が深まっていく。ロマーニ首相はレベルアップこそが至上と思っていたかもしれないが、それは違うということを繰り返し説明した。
一方で高泉首相と大泉防衛大臣は、それは当然だと言わんばかりに頷いていた。さすがはレベル6の実力者だ。どうやったら強くなれるかは熟知していることだろう。
その後は話は違うところにも及んだ。何よりロマーニ首相が喜んだのは別の点だった。
「(二人の表情が、来た時と全然違う。明るくなりました)」
そう言って微笑んだ。国内では秘密の戦力を日本に来させることについて反対意見もあったらしい。無理にでも来させたことが正解だったと喜んでいる。
確かに来た時とは表情が全く違うと俺も思う。
今のジュリアとステラはやる気に満ちている。今までは先が見えない戦いだったけど、そこに光が見えてきたのが大きいのだろう。更に強くなれるという確信を持っている。
おそらくは向こうでの基礎鍛錬は、日本と同じ形にはならない。だけど、その大切さを理解したことが大きい。
正しい姿勢、正しい打ち込みをするだけで威力は大きく異なる。それを繰り返せば当たり前のように強くなれる。それを知っただけでも大きい。
これまでのお膳立てされた実戦だけでは限界が来るということを体で理解した。本当の意味で努力すべき方向性を理解したことがとにかく大きい。
そして、それは俺たちが証明してきた道でもある。
もちろん、I国でも議論はあったらしい。
レベルアップを急ぐべきだという勢力と、じっくりと実力を積むべきだという勢力。
しかしそのいずれも難しいという状況だった。その理由は本人たちのやる気だ。もちろん責任感はあるので頑張ってはいたのだろうが、それだけではモチベーションはなかなか続かない。
今までは目の前にある課題をこなすだけで背一杯だった。
でも、今後は違う。先々を見て楽しく戦えるようになっていくはずだ。これまでとは違う曲線で成長していくことだろう。
その点で少しでも役に立てたなら何よりだ。
話の最後、ロマーニ首相が言った。
「(ぜひ、あなた方にもI国へ来ていただきたい)」
ジュリアとステラも同じ言葉を重ねる。
「(ぜひI国にも来てください)」
……正直、行きたい。
だけど、俺たちは日本の戦力でもあるのだよね。
「(私の一存では決められません。ただ、許されるならぜひ伺いたいと思います)」
「(そもそも俺はパスポートさえも持っていないのでそこからです)」
そう答えた。するとみんなが笑った。
そしてロマーニ首相が冗談めかして言ってきた。
「あなた方なら、パスポートなしでもVIP待遇で迎えますよ。専用機も用意します」
俺は苦笑した。本気なのか冗談なのか分からないのが、そこまで言ってくれるのが嬉しいけど少し怖い。
まあ、いずれはパスポートも取ろう。それほど時間はかからないらしいし。
そうして、ジュリアとステラは帰国した。
きっと、彼女たちは強くなるだろう。だけど、俺たちも負けていられない。
彼女たちの目標であり続けられるように。遠回りを恐れず、地道に強くなり先へ進もうと思う。