作品タイトル不明
第302話「もう一つの秘密」
#第302話「もう一つの秘密」
世界会議は紛糾しながらも進んでいた。そして一つの大きな議題が浮上していた。
「被害が明らかに少ない国がいくつかある」というものだ。
それは単なる偶然では片付けられないレベルだった。
ダンジョン氾濫は世界各地で発生している。規模の大小はあれど、発生しない国などほぼ存在しない。
当然、日本も例外ではない。日本も世界の中ではイレギュラーな部類になる。被害があまりにも少ない国のうちの1つだ。
だが日本には理由があった。それは先に朝倉が説明した通りだ。
・早期にハンター制度を確立したこと
・高レベルハンターが自己強化よりも育成に力を注いだこと
・アイドルなどを活用した動員モデルを構築したこと
・増加したハンターを活用した常時監視体制の整備をつくりあげたこと
・AIシステムなどを活用した防衛重点地域の設定をしたこと
それらが積み重なり、結果としてダンジョン氾濫による被害は抑えられている。
各国はその説明を驚きをもって聞いた。完全な再現は難しい。だが真似できる部分は確実にある。真似が可能な部分は取り入れる方針を固めた。
ただし日本の軽微な被害報告を聞いても納得はできない、他にも理由があるのでは?と思う国もあった。
しかし日本からは他国への自衛隊の出動を含め様々な援助がある。これ以上問い詰めるのは得策ではないとほとんどの国が判断していた。
下手に問い詰めて自衛隊の派遣を見送られたらたまったものではないのだ。
その辺りの追及は比較的少なく、朝倉は楽ができている部分もあった。高泉首相、大泉防衛大臣の様々な戦略がうまくいっている状況だった。
——だが。
問題は日本ではなかった。
日本とは明らかに事情が違うのに、被害が軽微な国がいくつか存在していた。
ダンジョンの氾濫がないわけではない。日本のような常時監視体制が確立しておらず、氾濫が何度か発生している。
だが——
それらの国に共通するのは、とにかく収束が早いのだ。ダンジョンからのモンスター氾濫後の鎮圧が異様に早い。
一般的な国では少なくとも半日から数日かかるはずの氾濫の制圧が、数時間程度という、わずかな時間で収束している。
しかも継続的にだ。
話をしているうちに会議室の空気が変わっていった。
「説明を求めたい。何か秘密があるのだろう!」
各国代表がいくつかの当該国へ質問を投げかけた。
・特別な武器を使ったのではないのか?
・何か特別な鎮圧作戦があるのか?
しかしながら帰ってきた返答は全て他国では使えない、曖昧なものばかりだった。
「偶然小規模のダンジョン氾濫だった」
「ダンジョンからモンスターが多数氾濫したが、軍の初動が早く早期に鎮圧できた」
「地理的条件が幸いした。軍が待ち受けるだけでなんとかなった。」
どうしても納得できず様々な質問がなされた。しかし回答はのらりくらりと要領を得ないものばかりだった。
日本の説明時のように具体性は全くなく曖昧、そして自国で応用できそうなものは何もない。
朝倉は異常な討伐スピードに関する各国の質問と回答などを画面越しに見つめながら、わずかに目を細めた。
——これは、もしかしたら偶然ではないのかもしれないな。
真っ先に頭に浮かんだのは一つの可能性だ……レンのような存在が数は少ないながらも他国にもいるのかもしれない。
すなわち使役モンスターのFS遷移による異常な成長が他国でもあったのでは?
もし、そうであればいくつかの国の常識外のモンスター制圧速度は何ら不思議でもなく理解できる。レンならば簡単な話だろう。
とりあえず日本ではレンのように使役モンスターを育て上げたケースは確認できる限りでは1件しかない、極めて稀な状況と言える。
だが世界は広い。レンと同様の“例外”が他国にいてもおかしくはない。世界の人口は日本の人口の数十倍だ。
単純に見積もって数十人のレンのような存在がいてもおかしくはないのだ。
またレンと違う形で使役モンスターを育てた可能性もあるかもしれない。日本が知らない秘密もあるのかもしれない。
もしそうなら——その国は当然、隠すだろう。日本が切り札として隠すように。
秘密が明らかになれば世界で取り合いになるのは必至だからだ。
世界各国にわずかながらレンと同じようなケースがある……可能性としては十分に考えられるところだ。
世界各国は困惑していた。
ダンジョン氾濫の早期収束の理由を問うても答えは濁される。疑念だけは広がるが、全く確証はない。それはそうだろう。
朝倉のようにある程度の予想が付いているわけでもないのだ。具体的な質問もできないから、聞いてもはぐらかされるだけだ。
そうして朝倉は内心で決めていた。
これは早期に報告すべき案件だ。
高泉首相と大泉防衛大臣に伝える必要がある。
日本だけが特異点ではない可能性。
それが何らかの形で世界に伝わるかもしれない。その場合は、今の世界の均衡が崩れる可能性もある。
すなわち日本優位の今の状況が続かない可能性があるのだ。
その後は会議は最終議題へと進んだ。
軍に比較的余裕のある国——日本を中心に、国際救援体制を再構築することが決まった。
派遣の優先順位は世界会議で決定する。そのために直接交渉は禁止。
もちろん各国それぞれに不満はある。だがそれが現実的な落とし所だった。
何もないよりははるかにましなのだ。文句を言っても枠組みから外されるだけで何もいいことはない。
多くの国はその決定に従うしかなかった。
そうして会議は閉じられた。
だが朝倉の思考は止まらなかった。
もし他国にも“レン”がいるのだとすれば、世界は静かに次の段階へ進み始めているのかもしれない。
国際協調の形が変わる可能性がある。