作品タイトル不明
第301話「世界会議の焦燥」
#第301話「世界会議の焦燥」
ダンジョン対策世界会議は、今回も紛糾していた。
オンラインと対面を組み合わせた形式。各国の代表が画面越しに並んでいる。その中には日本代表としてハンター協会の朝倉の姿もあった。
会議が紛糾するのはもはや毎回のことだ。どの国も手が足りない。
各国共に都市部を守るだけでも精一杯。地方は切り捨てざるを得ない国もある。本来はダンジョン氾濫後に軍を投入しても遅い。
その前に継続的な常時監視体制がなければ根本解決にはならないのは常識になりつつあった。とはいえそれも難しい。
現状ではダンジョン常時監視体制が整備されていて、国外に戦力を出せる余裕があるのは世界の中でも日本くらいだ。
当然のように日本への自衛隊要請の直接依頼が増えていく。
「我が国の北部で緊急支援をお願いしたい」
「二週間だけでいい、部隊を貸してほしい」
だが日本は明確な方針を示していた。
——直接交渉は受けない。
あくまで世界会議で合意が形成された案件についてのみ自衛隊を派遣している。
このルールを破れば外交バランスは一瞬で崩れる。
特定国への優遇は他国の反発を生む。我が国こそは先にと動いてくるのはどの国も同じなのだ。
もちろん日本と関係の深い大国Aの意見は重視された。それでも露骨な優先はしない。それはA国も認めていた。
結果として、日本の自衛隊による討伐はまるで順番待ちのような状況になっていた。
各国は必死だ。だが日本にも限界がある。
ただ、当然のことながら自衛隊の派遣能力は無限ではない。そもそも国内防衛を犠牲にするわけにもいかない。
会議は次第に、別の議題へと移っていった。
「なぜ日本はダンジョンが氾濫せず安定しているのか? 氾濫してもすぐの討伐が可能なのはどうしてか?」
その問いは、ここ数回の会議で必ず出てくる案件だ。これについての回答も基本的には毎回同じだ。朝倉は静かに説明する。
政府が初期段階から前面に立ち、反対の声がありつつもハンター協会を作ったこと。
その後はハンター登録制度を早期に全国展開したこと。先行して高レベルになったハンターたちが自分の攻略を優先せず、国の防衛を最優先に考えて育成に協力してくれたこと。
そして直近では各種協力を得て常時監視システムを構築したことなどだ。
他国では高レベルハンターは自分の攻略を優先するケースが多かったが日本はその多くが育成に力を注いでくれた。それがまずは大きかった。日本ならではの自己犠牲の精神だ。
そして——
最近ではアイドルを活用したプロモーション、動員モデルも作ったことも大きかった。
画面越しに、何人かの首脳が困惑した顔を見せる。
「アイドル……?」
「娯楽産業ではないのか?」
多くの国では、アーティストは完成された存在だ。中途半端で売り出すことはあまりない。日本のアイドル文化のような成長過程を応援する要素は薄い。
まだ完成されていないアーティスト、未熟な存在を見守る。
応援することで共に成長する。
その概念自体が理解しづらい国も多かった。
だが日本では違う。
アイドルがハンターに挑戦するとなれば、その姿を国民が手に汗を握り応援する人が多い。
応援する側も“推しと価値を共有する”ためだけにハンターになって努力する。時には推しに褒められることもある。そうなれば有頂天だ。更に頑張る。
推しを応援する人数やレベルを競い合うこともある。そうなると応援する側は友達を誘う人間も出てくる。アイドルを中心としてハンターになる人間が増えた。そしてアイドルは自然と成功する。
そうなると自分も成功したいとして他のアイドル、地下アイドル、ユーチューバーなどもハンター挑戦に名乗りを上げる。それぞれを応援している人達も参加し飛躍的にハンターは増えていった。
その循環が、ハンター人口を押し上げた。会議室は静まり返る。
納得できない国も多くあった。それはそうだ。アイドル文化がない国では真似ができない。
「それだけで説明がつくとは思えない」
「もっと根本的な何かがあるのではないか?」
もちろん他の要素もある。朝倉は淡々と説明していった。制度の詳細。常時監視のアルゴリズムやシステム。AIを利用した危険度判定の精度などだ。
それぞれにおいて質問は細部に及んだ。
中には、すでに日本にスパイを送り込んでいる国もあることを朝倉は知っている。
だが日本は基本的な制度について特に隠してはいない。公開できる部分は全て説明している。
それでも、どこかに“決定的な差”があるはずだと、各国は疑っている。朝倉は内心で息を吐いた。確かに本当の秘密は他にもまだある。
だが、それは絶対に口にできない。
レンたちの存在。
使役モンスターのFS遷移。
あれこそが日本の最大の切り札だ。だがそれは日本国内でもトップシークレット。
知る者は日本国内でもごくわずか。会議などで話できるはずがない。
仮にこれが世界に漏れれば、レンたちは守る対象から奪い合う対象へと変わるだろう。
会議は続く。各国の焦燥の色は濃い。日本には期待だけでなく疑念も向けられていた。
画面越しに交わされる視線の裏で、様々な思惑が渦巻いている。その中で朝倉は静かに姿勢を正した。
守るべきは国、そして世界だけではない。レンたちの秘密も守る必要がある。
秘密もまた防衛対象だ。
そしてその重圧はまだ終わる気配を見せなかった。朝倉の苦労はまだまだ続くことになる。