作品タイトル不明
第274話「崩れゆく足場(司視点)」
#第274話「崩れゆく足場(司視点)」
俺はやや焦り始めた。なんとテレビの仕事がもうすぐ終わりそうなのだ。
テレビ局からの連絡があった――あと1か月で今の「アイドルもダンジョンで奮闘中!」の1クール目が終了。
とりあえずの放送が終わるということで俺との契約も終了になると告げられたのだ。
「御影君、今までありがとうね。あと1か月で番組の収録が終了なんだ。アイドルの護衛は大変だっただろうけど、ほんとありがとうね」
「えっ?終了。次のクールは?」
「うーん。次のクールはまだ決まっていないのだよね。いつになるかまだ未決定。だから契約は一旦、打ち切りになるよ」
「そこを何とかなりませんか?」
「そりゃ無理だよ。御影君。番組が終わったら契約も終了だよ。そういうものなんだ」
この野郎、淡々と告げてきやがった。テレビ局の社員の分際で何様だ。俺をそのまま契約しておけばいいだろうに。俺ほどの人材が他に流れたら取り返しがつかないことぐらい分かるだろうに。
契約延長さえしておけばいつでもまた護衛をしてやるんだぞ。
とは言え、困った。番組が終了となると仕事がなくなる。家に戻る必要がある。その先はどうなるんだ?
「でも大丈夫なはずだよな?」
俺はテレビでは毎回のように御影グループの名前を出してやったのだ。その功績は大きいはず。
宣伝効果は絶大、会社は喜んでいるに違いない。更に自分は番組の中で何度も「エクリプスのリーダーだ」と喧伝した。当然のことながら俺をクラン「エクリプス」のリーダーとして引き入れてくれるはずだ。
「これで俺の立場は盤石。石動だって俺を切れないはず」
――とは言え、不安は消えないんだよな。石動ははっきり言えばクズだ。仕事ができない奴にありがたちなワンマンプレイをしやすい。そして、おそらくあいつは俺のことが嫌いだ。
だから以前も身勝手に俺を切ろうとした。もしかしたら俺の今回の手柄に対して腹を立てているかもしれない。
そうなると理不尽に俺が切られる可能性はまだ残っているかもしれないか……?
ならばどうしたらいい?クラン「エクリプス」の現状をどうやったら確認できるのか?
そうだ、こんな時のために紗月がいるじゃないか。さすが俺。頭がいい。確認しよう。
俺はやや不安があったので紗月に尋ねた。
「なあ、紗月、俺のクランのクビ、さすがにもう無くなってるよな? テレビであれだけ宣伝した会社の功労者だし、石動さんももう分かっただろ?俺をリーダーとして戻すよな?」
だが、返ってきた答えは冷たかった。
「はぁ? 何言っているの? そんなわけないでしょ。司くんが勝手に会社の名前を出したせいで、石動さんは怒りまくってたわよ。きっと前より状況悪いから……下手すれば、もうすでにクビになっているかもしれないよ」
「だからこそ私たちは司くんを止めるために派遣されてきたんだから。もしかして知らなかった?」
「――なんだと?」
まさか石動はここまでクズだったのか?おそらくは俺の功績がまぶしかったのだろう。そして自分の出世の邪魔になった。だから今でも俺をクビにしようと画策してやがる。
なんで親父はこんな無能を俺に付けたんだ。くそあり得ねぇ。ならば、念のために紗月にもう一度念押ししてみるか?
「石動は馬鹿なのか? 俺があれだけ全国放送で名前を連呼して会社に貢献したのに、何を怒る必要があるんだ? 俺は功労者として感謝されるべきだろう! これじゃ石動の反逆じゃないか!」
「もう、ほんと司君は何を言っているの? 御影グループはテレビで宣伝しなくても勝手に伸びているわよ。司君の貢献なんて何もないわよ」
なんてこったい。紗月はどうやら石動に洗脳されているらしい。テレビCMの値段は数千万だぞ。
俺が番組内で宣伝したことでどれだけ貢献したと思っているんだ。世間知らずとはいえ簡単に騙されすぎだろうに。そんなことでは今に宗教に騙されるぞ。
くそっ、でも現実的にはクランの実権は石動にあり俺の立場は厳しい。本当にクビになるかもしれん。どうしたらいい?
「いや……そうだ、鷹見なら分かってくれるはずだ!」
そうだ。御影グループの中でも、若くて理解のある鷹見ならば、俺の行動を正当に評価してくれるはずだ。
名刺には電話番号だけでなくSNSの連絡先もある。
「よし、こっそり鷹見に連絡してみるか。あいつは俺の才能を分かってる。取り立ててくれるはずだ。」
よし、これで盤石だ。俺のクランリーダーへの返り咲きは確定だ。
そして、いずれ俺が会社の実権を握ったら……石動は即クビだな。やっぱり若い人間が必要なんだよ。俺や鷹見みたいにな。
よし。今日の仕事が終わったら鷹見に連絡だ。とりあえず軽くLINE入れておくか。
それにしても最近の紗月はやや様子がおかしいな。俺のことを即座に否定ばかりしやがる。
しかも、話もやたらと事務的だ。必要最低限の返事しかしない。あいつはこんなに愛想がない人間だったか?
最近は自分から話しかけてくることもない。時には視線さえ合わせようとしない。
もしかしたら体調でも悪いのか?まったく、プロ意識が足りないんだよ。俺を見習えっての。
そう思っていたらSNSに鷹見からの返信が届いた。さすがだな。俺のことを理解している人間は仕事も早い。
鷹見ならば俺を取り立てるはずだ。その後は石動め。どうしてくれようか?まあその辺りは鷹見にも確認しよう。あいつならば良い方法を考えくれるかもしれない。
先日のコロナ休暇戦略もあいつの戦略だったからな。俺のためにいろいろと考えてくれるだろう。
そして将来的にはそれなりの地位につけてやってもいいな。もちろんその時は石動はクビだ。
よし、これで戦略は完璧だ。とりあえず鷹見からのSNSメッセージに返事でもするかな。
しかしながら――俺は鷹見からのメッセージを見て驚愕した。まさか鷹見もおかしくなったのか?