作品タイトル不明
第273話「御影グループ、予兆なき崩壊の足音」
#第273話「御影グループ、予兆なき崩壊の足音」
ある日、御影グループに異常事態が走った。
理由も分からぬまま、あらゆる仕事がうまくいかなくなり始めたのだ。
「すいません。A社から来季の取引を停止したいと連絡が入りました。状況確認に行ってきます」
そういった報告が相次いだ。
最初は小さな取引でのキャンセルが続いただけだった。その時にはまだそれほど深刻さは無かった。
誰もがいくつかの偶然続いただけだと思っていた。
しかし、そのおかしな契約キャンセルの連絡件数は雪だるま式に増え続けた。
更には大きな取引にまで波及している。さすがに偶然では済まないと全員が理解した。
御影グループのトップ層が招集され、緊急会議が開かれた。
今回の契約キャンセルの原因は何だ?誰かが何らかの引き金を引いたのか?どう対処するべきなのか?
だが会議では何一つ具体的な原因が見つからなかった。
全員が「思い当たる節がない」と首を振るばかりで、結局“何かあれば報告する”という曖昧な結論で解散となった。
原因が分からないので対策も取りようがない。
全員が思い当たることがないということは……おそらくは会社側に特に大きな失態はないはず。そもそも失態があったとしてもこれほど様々な取引キャンセルに広がるはずもない。
見えないところで何らかの大きな力が動いている可能性があると誰もが感じていた。しかしそれが何なのかはさっぱり分からない。
しかしながら、ただ一人だけ、石動だけは胸の奥に重い「心当たり」を抱えていた。
紗月からの報告。
――ハンター業界を怒らせたかもしれないという件だ。
ハンター業界は政府と密接なつながりを持つ。もし、レベル6クラスのハンターを不当に扱ったのだとしたら……
政府が御影グループに密かに圧力をかけても不思議ではない。今はまだ直接的な言及はないが、いつ来るかも分からない。
もしかしたら今のうちに気が付けという暗黙の伝達かもしれない。
となると手を打たず直接的な警告が入る時にはとんでもなく大きな損失になる可能性もある。
そこで石動は社長・御影宗一郎、そしてグループ企業の調整役を務める鷹見を呼び、緊急の三者会議を開いた。
そして紗月から聞いた話を余すことなく伝えた。
・司がレベル6の人物に失礼な勧誘をしたらしいこと
・その際、御影グループを勝手に後ろ盾として利用したこと
話を聞き終えた鷹見は、深く頭を抱えた。
「……最悪だな。ほぼ間違いなく原因は司さんだろう。他に原因は思い当たらない。そしてレベル6のハンターに失礼を働いたとなれば政府が動く可能性は十分にある。うちのクランと同世代、若い将来有望な人間ならば猶更だ」
「今回の取引停止には件数から考えて、相当に大きな力が動いている。しかし政府が動いたとなれば納得できる」
この三人の中でハンター業界に最も詳しいのは鷹見だ。
その鷹見が“ほぼ間違いない”と断言するレベルだった。
社長の御影宗一郎は険しい表情で「原因は司か……」と息子名を呟いた。親としての失望、そして企業トップとしての怒りが入り混じった声だった。
今まで手を打つタイミングは何度もあったのだ。それをしなかった自分の責任でもある。深い後悔も頭をよぎった。
そして石動は覚悟を決め、社長に意見を求めた。
「社長。……その筋の人間を使って、司さんを一時的に拘束する方法もあります。猶予はありません、すぐに動くべきでしょう」
しかし社長は即座に首を振った。
「失敗した時のリスクが大きすぎる。そのような形では動けん」
結局、石動が当初判断した通りに動くことになった。
すなわち“アイドル護衛の仕事が終わるタイミングで拘束に動く”という方針だ。
まずはテレビ局へ裏から働きかけて”できる限り早期に司を番組から降ろす”という処置を取ることにした。
その場ですぐにテレビ局に連絡したところあっさりと同意。最短でひと月以内には降板となる見込みだ。
本来はテレビに出演しているメンバーを簡単に変えることはない。そのテレビ局が
ここまであっさりと同意するとなると、テレビ局の方でも不要な人物だと思われていた可能性が高い。
よくよく考えてみれば当たり前の話でもあった。
司は番組内で自分のレベルを誇示したり会社の名前を叫んでいた。テレビ局としても苦々しく思っていたのだ。
そしてそれも既に分かっていた話だ。
その時にすぐに降ろす算段を始めれば良かったのだ。しかし今更嘆いても、もう後の祭り。
石動は胸中で強烈な後悔を覚えていた。ここまで影響が広がってからでは動いても遅いのは明白。
これからさらに会社の状況が悪化する可能性がある。本来であれば、もっと早い段階で独断でも動くべきだったのだ。
社長に判断を仰げば止められる可能性があるのは分かっていたはずなのに……。
しかし、いまさら社長の判断を覆すことは難しい。石動自身、動揺のあまり冷静さを欠いていたことも否定できなかった。
そうして、できる限り早く司の拘束に動くこと、更には政府筋に確認するなど原因の特定に動くという方針が決まった。
もし、政府筋の動きならば要求を受け入れれば被害を最小限に抑えることができる。
――しかしこの方針が司に時間を与えてしまった。
それがどれほど致命的な結果を招くのか、この時点では、まだ誰も知る由もなかった。