軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第272話「石動の誤算」

#第272話「石動の誤算」

石動のもとを紗月が訪れた。

その表情を見た瞬間、石動は悟った。

――これは、ただ事ではなさそうだ。かなり深刻な顔をしている。

石動は何度も紗月のことを見てきたがこれほどに深刻な顔をしているのを見るのは初めてだったのだ。

「高嶺君(紗月)、どうした? 随分と思いつめた顔をしているが?」

その声に紗月は小さく肩を震わせた。そして、紗月としては何とか冷静に話しようと思っていたのだが石動には通じないと悟った。

そこで紗月は……司についてのすべてを話し始めた。もう限界だということ。自分勝手な司の行動に振り回され続けて疲れてしまったと言うことを。

まずは自分の幼馴染に高レベルハンターがいることから話を始めた。

「私はレンというレベル6の幼馴染がいます。司くんは彼を仲間に引き入れたかったようです」

「なるほど、レベル6ともなれば力強いな。是非とも味方になって欲しいところだ。でも簡単ではないだろうね」

「はい。無理でした。誘いを断られました」

石動もハンター業界についてはそれなりに調べて知っている。レベル6ともなれば国のトップクラス。簡単に移動するはずがない。

クラン「エクリプス」はまだ弱小。普通に考えて、そんなクランにレベル6の人間が入るはずがないのだ。

「私は……レンと連絡とるために司くんに利用されました。幼馴染と言ってもすでに親しい間柄ではなかったのですが、私が間に入ったことで今回、完全に見限られたと思います」

「もちろん司くんの言う通りに動いた私が馬鹿だったのですけど……やはりそれが辛くて」

「それはひどいな。とんでもない話だ」

石動としても腹立たしい気持ちになった。他人を利用するということは褒められたことではないがまあそこまで問題にする必要もない。

ただしそれはその人に迷惑がかからないという大前提が必要なのだ。迷惑をかけたら単なる非道な人間でしかない。

「司くんはレンと接触するためにハンター協会ビル内で待ち伏せまでしました。まるでストーカーです。私も一緒にいたので同じように思われたことでしょう」

「それはひどいな」

待ち伏せまでするなら他人を巻き込むべきではないのは明白だ。迷惑がかかる。

しかし司がそこまで頭が回るとも思えない。石動は内心でため息をついた。

「そして司くんはレンの勧誘を始めました。そしてレンが断ると『俺のバックには御影グループがあるんだ』とか言い出して……」

「それはあり得ないな。最低な行為だな。まさかそこまで愚かとは」

石動としても司が駄目人間なのは知っていた。しかしここまでひどいとは。何度もそのひどさに驚かされたが、まだ甘かったと痛感した。

自分の実力で勝負ができないと見て会社を利用する。明かに人間として駄目だろう。信用されるはずがない。断られて当然だ。

「そこまでする司君と……一緒にいるのだけでも嫌になることがあります。私にはもう、アイドル護衛で司くんを抑える自信がありません」

「なるほどな」

その言葉に、石動は内心で失敗を悟った。

――不覚だった。紗月がここまで追い詰められているとは思わなかった。

石動は紗月のことを“計算高い人間”だと理解していた。

計算高いというのは一般的には悪口だ。友人同士なら基本的に褒められることはない。

しかし、その能力は社会ではむしろ必要な資質でもある。自らの損失を抑え、利益を拾い上げる――会社の中では光る力なのだ。

さらに紗月は、自分でチャンネルを立ち上げ、道を切り拓こうとしていると聞いている。たとえそれが成功していないとしても、その挑戦心は買う価値があった。

クラン「エクリプス」のメンバーの中では唯一、磨けば光る可能性がある――そう石動としては判断していたのだ。

そんな計算高い紗月のことだから司から離れることなど、あり得ないと読んでいた。社長の息子との接点に魅力を感じており、なんだかんだでうまくやっていくだろうと。

しかしその紗月がここまで思いつめている。相当に精神的に参っているのは間違いない。それほどのことを司はしたのだ。

石動にとって完全な誤算だった。自らの失態だと感じ取っていた。

「できれば頑張ってほしいが……君をアイドル護衛から外すことも考えるべきかな?」

そう問いかけると、紗月は強く首を振った。

「いえ、任された仕事なので、できる限りはやります。でも、本当に無理だと思ったら……その時はまた相談させてください」

その目は、覚悟と不安が入り混じっていた。石動は苦く息を吐いた。

間違いない。やはり司をすぐにでもクランメンバーから引き離す必要がある。

でも、どうするか?その筋の人間に頼んで一時的でも拘束すべきか?

だがそれは容易ではない。危険な手段を使えばこちら側のリスクも高い。

(アイドル護衛が終わる時が、動くタイミングか。数か月待つことになる、それまで高嶺君が持つといいが……)

今できることは、紗月に無理をさせないことだけだ。まずはいつでも相談に乗るようにしようと考えた。

「何かあればすぐに相談してくれ。できる限り対応する。会社としても君は必要な人材だ。あまり無茶をしないで欲しい」

「ありがとうございます」

ひとまず現状維持でいこう。そう結論づけた石動だったが――

まさか、この判断をのちに深く後悔することになるとは、この時点では想像もしていなかった。