作品タイトル不明
第271話「もう届かない場所(紗月視点)」
#第271話「もう届かない場所(紗月視点)」
司くんに言われて、私はレンにスマホで何度も連絡をした。けれど、画面はずっと無情なまま。呼び出し音だけが虚しく響いた。
「出ない」と司くんに伝えると、今度は――
「じゃあ直接レンの家に行くぞ」と言い出した。
本当に何を言っているのかな?この人は。
いきなり家に行くなんてトラブルになりかねない。
それでも、私自身がレンに会いたいという気持ちを完全には捨てきれず、司くんに押し切られる形で付いていった。
けれど――そこにレンはいなかった。
びっくりした。もう、そこに住んでさえいなかったのだ。
玄関前でその事実を知らされた瞬間、胸の奥がひんやりと凍りついた。あぁ、レンとの繋がりが……ひとつ、またひとつと消えていく。
自分が悪いとは言え、こんなにも簡単に、幼馴染でかつては最愛の人だったレンの世界は分かれてしまうんだ。そうして絶望感が襲ってきた。本当にもう、どうにもならないんだ。
呆然とする私をよそに司くんは、「くそっ、紗月はほんと使えねーな」とか言い出している。
はぁ?自分が何様だと思っているのだろう。本当に疲れるよ。こういう時の司くんは腹が立つけど相手をしても仕方がない。
これで諦めたのかと思った。
でも、その数日後に再び呼び出された……そして司くんは「レンと連絡する良い方法を見つけた」と言ってきたのだ。
私はその後ろ姿を見ながら、何となく嫌な予感がしていたけれど、それでも――やっぱりレンに会いたい気持ちもあって、付いて行くしかなかった。
たどり着いたのは、ハンター協会ビルだ。
なるほどね。確かにここでは何度かレンたちに会ったことがある。でもいつ来るかも分からないよね。どうするのだろう?
そう思っていたら司くんはとんでもないことを言い出した。
「レンたちは月に一度はここに報告に来るらしい」
それは、どういうこと?
まさか連絡を取ったわけではなく“待ち伏せ”をするつもりなの?
それはさすがにまずいよ……やりすぎだよ。それってストーカーそのものじゃない。
そうして待っていたら――レンたちが、本当に現れた。
全員で八人。
自信と落ち着きをまとって歩くその姿は、まるで物語の中の英雄みたいで私は息を飲んだ。
周囲の視線も釘付けだ。どうやらレンのことを知っている人も多いように見える。それはそうだよね。ハンターでレベル6になる人間なんてほとんどいない。注目されて当然だ。
憧れと尊敬が入り混じっているのが分かる。
私の隣にいたはずの人。
でも、今はもう完全に手の届かない場所の人なんだと実感して胸が苦しくなる。もしかしたらという気持ちをもつこともたまにはあるが……現実は無情だ。
何かが起きるたびにレンとの距離が遠くなり絶望感が増していくだけだった。
私が茫然としていた、その瞬間――司くんが飛び出した。
「おい、レン! 紗月からの電話にも出ないし、住所も変えてどこ行ったんだよ!」
――はぁ!?
なんでそこで私を使うの、なんで勝手に言うの!?私は頭を抱えたくなった。まるで私がレンのことを売ったかのような言い方。
本当にこの人は最低だ。ひどすぎる。でも現実にはそうなんだよね。間違いではないのが辛いところだ。
レンの冷たい視線が突き刺さる。
「何で俺が紗月と連絡しないといけないんだ?」
正論だ。何も言い返せない。でも、その言葉はあまりにも鋭くて、心の奥底をえぐられた。あぁ……完全に終わってるな、私。レンから見れば何から何まで最低の女だよね。
涙が滲んで視界が揺れる。
全部、私が悪い。でも――司くんがあまりにもひどすぎる。どうしていつも、余計なことばかりするのよ?私が何か司くんに酷いことをしたとでも?
その後、司くんは無理やりレンを喫茶スペースに連れ込んだ。私はその後ろをただ付いていくしかなかった。
そして、司くんがレンに言い出したのは――とんでもない話だった。本当に予想外のことばかりする。
「うちのクランに戻してやるよ。いい話だろ?」
……私は唖然とした。さすがにあり得ない。もう呆れを通り越して悲しくなった。
どんな思考回路をしていたら、レンが戻ってくるなんて考えられるのだろう。しかも「バックには御影グループがあるからな」なんて言い出した。
それはまさしく「虎の威を借る狐」だ。自分には何もないのに強がりだけは一人前。本当にどうにもならない。
レベル6のハンターにそんな安っぽいカードが通用するわけがない。ハンター協会からも大事にされ年収1億円以上とも言われているのに……。
案の定、レンは即座に断った。呆れ、そして怒っているようにも見える。
そりゃ、当然だよね。本当に私も横で聞いていて恥ずかしいぐらいだ。けれどその瞬間、司くんは逆に怒り出した。
そして「後から泣きついて来ても知らんからな!」 と言って去って行ってしまった。
本当に、もう……何もかもが辛い。なんでこんな最低なことをできるのだろうか。
私も席を立ち、司くんの背中を追うしかなかった。
けれどその前に――どうしても言いたい言葉があった。
「レン……本当に、ごめんなさい」
そんな言葉、何の意味もない。
許されるなんて思ってない。でも、言わずにはいられなかった。そして途中でひよりにも、お金を渡しながら小さく頭を下げた。
「ひより、ごめんね。これ、私の会計……お願い。レンに渡しておいて欲しいの」
もしかしたら、これが彼女と話す最後になるのかもしれない。その瞬間、胸が張り裂けそうになった。
私は司くんの後を追いながら、何度も後ろを振り返りたい衝動に駆られた。でも、戻れる場所なんてもう――どこにもない。
さすがに、もうレンとひよりには会わない方がいいだろう。
何もできない自分が情けなくて悲しくて……でも私にはどうしようもない。司くんの後を追った。