作品タイトル不明
第270話「司くんの企み(紗月視点)」
#第270話「司くんの企み(紗月視点)」
また司くんが、良からぬことを考えているようだ。
「レンと連絡を取れ」と、しつこく言ってくる。
なんなんだこの人は。今さら連絡なんて取ってどうするつもりなのだろう。そう思いながらも、私は少しだけ胸をざわつかせていた。
――本当は、私もレンに連絡したい気持ちがあるのだ。
レンはすでにレベル5、そしてレベル6目前だと聞く。私もハンターやダンジョンについて勉強したから知っているがレベル6なんて、本当にトップレベルのプロ。
日本に300人ぐらいしかいないとされる。しかも初期にレベル6になった人が多く、ここ数年はレベル6に上がれる人はかなり少ないらしい。
すなわちレンはハンターとなる人全てから見て憧れのトッププロなのだ。昨今のハンターフィーバーから考えると日本中の憧れと言ってもいいかもしれない。
そのレベルの人と“知り合い”でいれば、いろいろと自慢できるしあらゆることで有利になる。
私も知り合いとして誇りたいし今からでも連絡を取りたいところだ。でも、自分から冷たく突き放した手前、気まずくて連絡なんてできそうにない。
だから司くんが「連絡しろ」と背中を押してくれるのは、正直ありがたかったんだ。
深呼吸してスマホを準備。そして祈るような気持ちで勇気を出して何度かスマホをかけてみた。
でも……レンは電話に出なかった。
前にルナさんに繋いでもらった時もそっけなかったし、私が悪いのだから嫌われても仕方ないけど……やっぱり辛い。たまには連絡ぐらいしてもいいでしょうに。
「連絡したけど駄目だったよ。スマホに出てくれない」と司くんに報告すると、
「じゃあレンの家に行くぞ」
と、言い出した。あぁ、本当にこの人は駄目だな。動き出したら止まらない。そしてその行動がおかしいことが多い。
ろくに連絡もせずに会いにいったらトラブルになるのは目に見えている。どうしたものか……でも司くんに押し切られて会いに行くことにした。
やはり自分でも会いたいという気持ちは多少なりともあるから断れなかった。
そうして私は司君と一緒にレンが住んでいたアパートにやってきた。あまりここには来なかったけど懐かしいアパートだ。以前とほとんど変わっていないように見える。あの頃の思い出が少し蘇る。私はあの頃、確かに、そして間違いなくレンと一緒に笑っていたんだ。心臓が大きく跳ねるのが分かった。
でも……私が気が付かなかった大きな変化がそこにはあった。
――レンはもう、そこに住んでいなかったのだ。
すでに引っ越しをしたらしい。それはそうか。レベル6ともなればスポンサーも引く手あまただ。
年収1億をも超すと言われているらしい。私には信じられないような驚くような大金も入ってきているだろう。
考えてみればすぐに分かることだ。こんなアパートにいつまでも住んでいるはずはないのだ。
その瞬間、胸の奥がすっと冷えた。レンはもう完全に違う世界の人間。本当に会えないのかも。繋がりが1つ1つ消えていく。
スマホも出てくれない。住所も分からない。
私にとってレンは完全に「過去の人」「赤の他人」になってしまったのかもしれない。今や、すがるものが何もない。
高校の時、私は司くんを選んでレンを捨てた。
いまから考えるとあれは完全な——取り返しのつかない大失敗だったみたいだ。
レンはレベル6になって日本中から期待され憧れの存在になるだろう。もしかしたらレベル7も目指すのかもしれない。
とんでもない人、日本のヒーローだ。
私はその隣に立てる可能性があったのに、多くの人に祝福される未来があったかもしれないのに、その時の自分の欲求に負けてあっさりと捨ててしまったのだ。
今ではひよりがその場所にいる。悔しいけれど、それがどうしようもない事実だ。覆そうにも、最早どうしようもない。
一方で司くんと言えば……正直、もう限界が見えている。レベル5になったのはすごいけど、結局お金を積んでレベリングしただけ。
その動きを見るとレベル4以下にしか見えない。私から見ても、本田さん以下だと思う。
比較するのもおこがましいぐらいの、とんでもない差が付いている。もともと人間的には尊敬する部分は特にない。お金と地位だけの存在だった。それでも一緒になれば幸せになれる可能性が高い。
だから司くんを選んだのに、最近はそれさえも揺らいでいるように思える。このままでは、さぼってばかりで何もしない典型的な駄目人間だよ。
「レンは本当に凄いな。どうしてこうなったんだろう……」
後悔しても時間は戻らないのに、気づけばそんなことばかり考えていた。おっとやばい、こんなことを言っているのがバレたら司くんがまた激怒する。
独り言を聞かれるだけでもなずい。注意しよう。
そんな時、司くんが言った。
「おい紗月、レンと連絡を取る方法を思いついたぞ、ついて来い」
嫌な予感はした。でも……私はその提案に乗ってしまった。もしかしたら、まだレンと接触する“わずかな可能性”が残っているかもしれない。
その可能性に、私は縋ってしまったのだ。
もちろん、会えたとして何が起きるとも言えない。もとに戻る可能性はほぼないだろう。
私にとって良い何かが起きる可能性はほとんどゼロに近いと分かっているのだけれど——わずかな可能性に賭けて付いていくことにした。