軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第242話「司、全国デビュー」

#第242話「司、全国デビュー」

「トライ・スピア」の護衛兼レベリング補助として、司が正式に加わった。

やや鼻につく自慢癖はあったが――それすら気にならないほど、5人は心底ほっとしていた。

これまでの状況があまりにもつらすぎたからだ。

見た目も言葉も威圧的なハンターに囲まれながら活動するのは、男性でも緊張することだろう。仕事でもなければあり得ないシチュエーション。

ましてや、体力も経験もない女性アイドルにとっては精神的負担がとにかく大きかった。

その中で司の「普通さ」は5人にとっては光だった。

その護衛兼レベリング担当ハンターを遮るように一番近くに立ってくれるだけで安心できる。

実際には大した働きをしているわけでもないのだが、これまでの環境が酷すぎたせいで司の存在がまるで救いのようにさえ見えた。

そしてたまに漏れたモンスターがやってきても司は華麗に(?)討伐する。さすがに三階層のモンスターぐらいならば司でも問題ないのだ。

「司さんありがとうございます」

「いや、これぐらいたいしたことない。それよりも大丈夫だったか?」

たまに仕事する程度ではあったが5人からの信頼は日に日に高まった。

司としてもこの状況はかなりありがたかった。人気絶頂とまではいかないまでも綺麗でかわいいアイドル5人組と普通に会話できて尊敬もされる。有頂天になった。天職とさえ思えた。

司がここまでに人の役に立ったのは司が生まれて初めてのことかもしれない。もしかしたら人生の絶頂期を迎えたとも言えるかもしれない状況だ。

とは言え、当の司は「まあ俺だからな、当然のことだ。俺の凄さがようやく認められた」と胸を張っていた。もちろん現実には偶然が生んだ“適材適所”にすぎない。

少しでもボタンを掛け違えていれば大問題に発展していた可能性すらある。

だが司はそんな裏事情など露ほども知らない。

テレビ局から「司さんも映像に出してもいいですか?」と確認されると、

「来た! 計画通り!」と言わんばかりに満面の笑みでOKを出した。

こうして、司の“全国デビュー”が決まったのだ。

珍しく司の計算通り。完璧な(?)の計画が進んでいった。

撮影は順調に始まった……はずだった。

だが、すぐに問題が表面化した。テレビ局側の人達も頭を抱えた。

司が――うるさいのだ。とにかく騒がしい。

しゃべる必要のない場面でも「クラン『エクリプス』のリーダーの司です」と、やたらと自分の所属と名前を強調してくる。

その辺りは編集でカットすることはできたが問題は戦闘時である。

「クラン『エクリプス』のリーダーの一撃を受けよおおおお!!」

と大声を張り上げながら敵を押さえる司。

戦闘音声まで完全に消すわけにもいかずそのまま放送するしかなかった。何とも騒がしい。なんで大声をあげながら戦うのか?

テレビ局側も「もう少し静かにできませんか?」と要望したが司は「気合を入れるためには必要なんです!」と返してくる。

それを言われてしまうと強く言うことは難しい。それぞれに戦闘スタイルがあるだろう。

そこまで介入するのはさすがに問題があると思われた。声を上げずに戦って弱くなってしまったら目も当てられない。素人には介入できない領域だった。

しかも当の司はリーダーと喧伝できてかつ、本気でかっこいいと思っているのだから始末が悪かった。いろいろな意味で止めることは困難。

そして――。

司の計算通りに全国ネットで司が堂々と、『クラン・エクリプスのリーダー』として流れてしまった。

フロップにもレベル5、クラン「エクリプス」のリーダー、御影グループ社長の息子と出ていたがそれを司が声に出して繰り返すことで視聴者の頭の中にも定着していった。

司を知っている人間は「え、あの司が?」と驚き半分、面白半分。確かに少しうるさいが、映像上はそれなりに護衛役として形になっている。ぱっと見た目には問題はなさそうだ。

そして「やるな、あいつもやればできるんだ」というものもいたが「今にボロが出るぞ」と考えた人間が大半だった。

SNSや掲示板も少しざわついた。司は過去にルナとコラボ映像を撮っている。その映像を見たことがある人間が思い出したのだ。

「最低のレベル5と言われている司が全国デビュー」

「司って、レベル5なのに四階層のモンスター程度に苦戦した奴だよな」

「あいつレベル4のルナよりも明らかに格下だった」

その評判は散々だった。

しかし思い出した人はそれほどいない。せっかくルナとコラボ動画を撮ったのに、覚えてもらえないほどに司は相手にされていなかったのだ。

動画配信“さつきチャンネル”でしばらく頑張った紗月の方がまだ覚えている人がいるぐらいだった。

そのため司に対するネットの反応のほとんどは批判的でははあったが、炎上さえもしかなった。それは司にとっては幸いだったと言えるだろう。ここで悪い意味で炎上していたらテレビ局にも苦情が入ったことだろうがそうはならなかった。

何もかもが司に追い風で進んでいった。

だが、その一方で頭を抱えた者たちもいた。

石動と鷹見である。

「……なぜ司さんがそこにいるのか?」

「よりによって全国放送で“御影グループ社長の息子、そしてクランのリーダー”を名乗ってる」

特に石動はびっくりした。クビにしようと呼び出しをしていた最中のことだったからだ。

少なくとも現時点でクラン「エクリプス」、そして会社の評判を落とすようなことにはなっていない。

しかしながらこれまでの司の言動を考えれば問題が出る可能性は高い。

石動は鷹見に詰め寄られた。

「クランなど、どうでもいい。しかし会社の名前に傷が付いたらどうする?」

そう言われると石動も何も言えない。司が何かをしでかしたら会社の名前に傷が付くのは間違いない。そしてそれは有り得る未来だ。

そうして御影グループの会議室で、急遽、緊急ミーティングが開催されたのだった。