作品タイトル不明
第235話「先人たちの決断と別れ」
#第235話「先人たちの決断と別れ」
黒澤さんに俺たちの秘密を伝えたということで、エリナさんのオフィスにエリナさん、黒澤さん、そして俺たち8人(3人+5体)が集まった。
最初は黒澤さんが全面的に俺たちのバックアップをしてくれるという話だったが、そこからダンジョン発現初期の話に移っていった。
まあ俺が何らかの参考になるかと思って聞いたのだが。
そしてダンジョン発現初期の日本でもダンジョン氾濫が起きたらしい。ちょっとびっくりした。以前にそのようなニュースは聞いた覚えが無かったからだ。海外だけだと思っていた。
「昔は俺やエリナとかの強ぇ奴らが地方に分散していた。そしてそれぞれが“準備運動”のつもりで浅層を狩ってた。だから浅層のエネルギー値は上がらなかった。氾濫も起きなかった」と黒澤さん。
「そうね。でもほとんどのハンターたちがソロでの深層攻略に限界を感じ、ソロをやめて集まるようになった。私たちは十五人のクランだったけど、もっと大所帯もあったでしょうね。そうして一か所に集まり手薄になるダンジョンが増えていった結果、ダンジョンの氾濫が起きてしまったの」とエリナさん。
「今よりも管理が甘すぎたこともあったからな。日本以外の氾濫情報しかなく半信半疑で管理していたこともあだになったんだ」と黒澤さんと続けた。
多くの人達が集まって深層を目指す一方で、地方の浅層の討伐が手薄になり、日本でもダンジョン氾濫が起きたらしい。
これは俺が知らない情報だ。
「ルナ、ひより、日本でのダンジョン氾濫があったって知っていたか?」
「いや、初耳だ。びっくりした」とルナ。
「私も知らなかったよ」とひより。
俺たち3人共に知らないということは一般には伏せていた情報なのだろう。
この前の横須賀ダンジョン、陣馬高原ダンジョンの氾濫のように、大問題が起きてもなるべく一般には伏せて混乱が起きないうちに対策するというのが日本のやり方なのだろうね。
それが良いのか悪いのかは分からないが……とんでもない事実を知ってしまった気分だ。まあ俺たちが今後、そのダンジョンの氾濫に備えるために特別に教えてくれた情報と思われる。他言無用だな。
「それはもちろん内密な話ですよね」とルナが発言した。
「ええ、もちろんそうよ。ここだけの秘密ということで考えてね。他には漏らしちゃ駄目よ」とエリナさんが続けた。
そしてその時の対応について黒澤さんがもう少し詳しく解説してくれた。
「日本での最初のダンジョンの氾濫は地方だった。その時は幸い浅層からしかモンスターが出なかった。そして人里に降りる前に自衛隊が何とか対応した。だからなんとか秘密にできたんだ。でも俺たちはトップハンターだから情報を知った。そして、こんなことが頻繁に起こったら、特に深層のモンスターが氾濫したら下手すりゃ日本は滅亡すると危機感を覚えることになった」と黒澤さん。
「そうね。そうして私達十五人の中からもトップの自分たちが率先して対応するべきという意見が出てきたの。一方で、逆にそれは他のハンターに任せた方がいい、政府に管理強化させよ、俺たちは更に深層を目指すべきだという意見もあったの。そうして内部で意見の対立が起こったの」
これは難しい話だな。トップハンターの人達の責任は大きいのは言うまでもない。黒澤さんとエリナさんのことだ。地方とは言えダンジョンの氾濫が起きたのは自分たちの責任だと感じたことだろう。
何らかの対応をすべきと言及した側だと俺は推測した。そしてその通りだった。
「で、俺とエリナは地方のダンジョンを何とかしようという意見だった。そしてそのためには自分たちが深層を目指すよりも戦えるハンターを増やすべき、すなわち後進を育成すべきだという話をしていた。もちろん本音を言えば俺もエリナも深層も行きたかったが……まずは国を守らねぇと話にならねぇからな」
「そうね。そうして意見の対立が深まり私と黒澤さん、そして何人かがクランを抜けたの。十五人でも七階層、八階層はぎりぎりだったからそこで実質的に日本の深層攻略は止まったの」
そうして二人はクランを抜けて地方を巡ったり後進を育て始めたらしい。夢を一度脇に置いて――国のために。
日本のためとはいえ、それまで死と隣り合わせでの冒険してきたわけだ。仲間と共に歩んだ道を外れるのはつらかっただろうな。
信頼できる仲間。今の俺で言えばひより、ルナ、使役モンスターと、別れ別の道を歩むとか考えられないことだ。そこにどんな理由があったとしても。
でも黒澤さんとエリナさんは仲間と別れた。その辛い状況を乗り越えてきたのだ。日本のための行動だったのだろう。本当に頭が下がる。
「育成側の人間は企業系クランに入ったのよ。私も黒澤さんもそうね。でも、その利益優先で、人を人とも思わない育成方針が気にいらなくて私と黒澤さんが抜けたの。あとは草クランで無茶をして死亡する事例も多かったのでそれを何とかしたいという事情もあったけどね」
「途中で一緒に草クランを立ち上げたのね。そこから私は再び抜けて新しくクランを作ったわ。おそらく最初の十五人はほとんどばらばらになっているんじゃないかな?なかなか複雑な道のりよ」
エリナさんが肩をすくめた。
「でも何でエリナさんは黒澤さんのクランを抜けたのですか?」とひよりが尋ねた。
確かに変だな。エリナさんと黒澤さんは日本を守る側ということで同じ方向性のはず。一緒のクランならば分かれる理由がない。
「あれ?前に言わなかったかしら?ハンター協会は企業系と公務員系に分かれているの。そして企業系がどうしても強いの。だから私は公務員側に付いているのよ」
「なるほど。そう言えば聞きました。そこまで深い話とは知らず忘れていました」と俺は答えた。
そうか。そう言えば以前にその話は聞いた。ハンター協会はダンジョンを管理しハンターを守るという名目があるが、内部では企業系クラン側と公務員側に分かれている。
企業系は規制を緩和しようと動いている。ざっくり言えば企業の利益、お金目的だ。しかしそうなると危険が伴うので公務員側が反発しているという構図で何とかバランスが取れている。
やはりお金の力は強い。ハンター協会の中であまりにも企業系クラン側の人達が強くなったのでそれを牽制するためにエリナさんは公務員側に付いたという話をしていたと思う。
もしかしたらエリナさんがいなかったら規制緩和は更に進んで発展はしたかもしれないけど多数の犠牲が出ていたかもしれない。
どちらの意見が正しいかなんて俺には言えないが、ハンター協会の発展に対するエリナさんの貢献は大きいのだろうと思う。
一方で黒澤さんも新人ハンターがなるべく犠牲にならないように草クランを作って応援している。
二人共に本当は深層攻略をしたかっただろうが、日本を守るために自己犠牲して動いてきたんだ。ほんと凄い人達だ。
そして今となっては強者は再び集まるのも困難になってしまったのだろう。それはそうか。それぞれ立場ができてしまった。それを全て捨てて「ダンジョン深層攻略再び!」なんてこともできないだろう。
俺はそんな凄い人たちに期待されている。本当に頑張る必要があると更に気が引き締まる思いになった。
そしてこの2人に対しては一生頭が上がらないと思う。先人たちが頑張ってきたからこそ今のハンター制度があり俺も何ら不自由なくハンターになれてここまで活動することがきたんだからな。
絶対に期待に答えなければならないだろう。