作品タイトル不明
第226話「アイドルとして輝くために」
#第226話「アイドルとして輝くために」
横須賀ダンジョン、陣馬高原ダンジョンの氾濫があり政府は忙しく動いた。まずは情報操作。とりあえずは “イレギュラー事故” な事故として処理。
とりあえずは国民の混乱を防いだ。後は状況を見て情報を小出しにしていく予定である。
いつの間にか「ダンジョンが氾濫するのは当たり前で仕方がないよな、でも24時間体制で常時監視対応をすれば問題は起きないのだからそれほど騒ぐ必要もない」というのが常識になればベストだ。
そのためにハンターの常駐制度を創設。まずは首都圏など絶対な対応が必要なところはは24時間体制。そして田舎は夜間の常時監視体制を引くことにした。これでダンジョンの氾濫を完全に封じる予定だ。
それが完全に、うまく嵌れば徐々に情報を解禁するのもありだろう。
しかしここで問題が起きた。慢性的なハンター不足。三階層にはレベル4以上の人間が必要だが、多少の予算を付けてもなかなか人が集まらない。このレベルになると絶対数が少ないうえに更に上を目指す人間が多いからだ。監視員などやってられないという人間が多い。
そこで政府が考えたのがCMや情報番組の活用。アイドル達にハンターは夢のある世界、レベル5にまで到達すれば年収数千万円も当たり前の素晴らしい世界と語らせた。それを更に世間一般に周知させようとした。
一定の効果はあった。
しかしまだ心もとない。そこで次の手を打った。アイドルたちにハンターになってもらうというものだ。
その政府の思惑とぴったり合致したのが昨今のアイドル業界の実情。
アイドルで成功する道は険しく飛びつく女性は多かった。そのうちの五人がJPGP69から出ている派生ユニット「トライ・スピア」 に所属する桐谷ひかり、白石みこと、有村こはね、桜井りな、真中りあ。
政府の後押しもあり「トライ・スピア」 はCM出演、朝の情報番組の特集、歌番組へのゲスト出演と、仕事は想像以上のスピードで増えていった。
これまでは表に出ることはほとんどなかったのに、なんとアルバムも出してもらえた。人生初の経験、快挙だ。田舎の両親、家族もすごく喜んでくれた。
チャンスを掴むことができた!と五人はすごく喜んだ。
この勢いのままならドラマ出演なども夢ではない。夢は大きく広がっていく。
だが彼女たちは同時に理解もしていた。すでに似たような状況を見たことがあったのだ。
全く同じ状況ではないが、同じような形で新企画として派生ユニットなどを組んで一時的に人気が出た人たちを過去に何度も見てきた。
しかし、そのほとんどの人気は一過性。ちょっと目立ったぐらいでは、そしてアルバムを1回だしたぐらいでは人気は継続しない。
まあ当たり前だろう。事務所もそのメンバーばかりをバックアップすることもできない。テレビ局などからの継続した指名がなければどうしようもない。
彼女たちは懸命に動いた。クライアントである政府の思惑を理解し、アイドル稼業の傍ら、先回りしてハンター活動も少しづつ始めその状況を広報した。それによってハンターの気持ちを掴むことにも成功しつつあった。
“今の人気は本当の実力ではない。あくまでハンター募集の一環だ”
勘違いしていては再び埋もれる、人気が落ちた過去のユニットと同じ道を歩むに違いない。
多少名前が売れている今のうちになんとかしなければいけない。キャンペーンが終われば彼女たちの名前が再び消える可能性が高いのだ。そんな不安が常につきまとった。新しい何かが必要。
常に先手を打たないと駄目だが何をしていいのかは分からない。
そのとき、新たな企画が持ち上がった。アイドルの中でも率先して公報に動く彼女らを政府が気に入り指名した形だ。きっとやってくれるに違いないという期待でもある。
「五人にはハンターレベル3にまで上がってほしい。その過程をドキュメンタリー番組にする」
歌って踊れて、そして更にはハンターとして一人前に“戦える”。
そんな唯一無二の存在になれれば、アイドルとしての未来が広がるだろう。ハンターとして活動すれば、現時点でハンターになっている人、ハンターを目指している人からの人気も更に出てくることだろう。年収数千万円の人達と知り合うことができれば上流階級の幸せな結婚ルートもあり得る。
また純粋なアイドルは無理でも、更に有名になればタレントになれる可能性はある。情報番組、クイズ番組などに出演できるかもしれない。
他の六十名以上のメンバー、そしてその他アイドルを出し抜く大チャンスが更に広がったと感じた。
しかしハンターについて勉強していくうちにすでに嫌というほどに知った。レベル3と言えばハンターとしてかなり本格的で危険だ。死ぬ人も多くいる階層での戦いになり、かなり恐ろしい。いくら夢を掴みたいとは言っても躊躇する気持ちもあった。
五人の中にも気持ちの濃淡が確実にあった。行くべきか?それとも無理せず引くべきか……。
しかし、そこでリーダー格の桐谷ひかりが言った。
「……これはもう、やるしかないよね。みんなの意思は分からないけど私は絶対に出る。ここで踏ん張らなきゃ、また元に戻ってしまうかもしれない」
白石みことは静かに頷き、有村こはねは涙目になりながらも拳を握りしめた。桜井りなは目を瞑って聞いていた、真中りあは突然立ち上がった。そして四人全員の言葉が重なった。
「「「「私もやる!!」」」」
気持ちが1つになった。こうして五人はハンターの道へと本格的に踏み出したのだ。
しかしながら実際のハンター訓練、活動は厳しい。
彼女たちは一般のハンターから見ればかなり恵まれている。資金の心配なく活動ができ、更には手厚いレベリングで上がれる。
とは言え一般人のダンジョンについて何も知らない女の子がいきなり飛び込んで簡単にできる作業でもない。
筋力不足、恐怖心、足の震え……。それでも五人は泣きながら歯を食いしばって耐えた。
“かよわい女性達、歌番組の中で微笑む裏で彼女たちは日本を守るためにハンターもして日々戦い続けている”
そのギャップが視聴者の心を掴んだ。
ドキュメンタリー番組は予想以上の反響を呼んだ。回を追うごとに視聴率が上り様々な問い合わせが殺到することに。
そしてついに五人はレベル2に到達した。やや、おおげさではあるが”日本中が涙した”として大きく喧伝された。もちろん政府の情報操作の部分が大きいのだが。
そうして彼女たちはレベル2になっただけでも日本中から称賛された。
1つの大きな階段を登ったと感じていた。でも当然のことながらここで止まるわけにはいかない。レベル2ぐらいは頑張れば誰にでもなれるのだ。
あの程度で売れるならば私もと同じように考えてハンター活動を始め追いついてくるアイドルもいるかもしれない。そうなれば、再びすぐに埋もれる可能性がある。
最低条件はレベル3だろう。可能であれば一般のハンターでも難しいと言われるレベル4にも到達したい。そしてそれを達成できれば、さらなる人気も今後の芸能活動の幅も一気に広がるかもしれない。
アイドルとして生き残るためには唯一無二の存在になることが必要だ。そしてそれが達成できれば引く手あまたになる。
――だから、彼女たちは次の段階に進むことを決めた。
この先何があるか分からない。でも今の状況において止まることだけは絶対に駄目だ。この道を究める必要がある。登れるところまで登ると決断した。
アイドルとしての夢を掴むために。
そして“ハンターとして生き残るため”に。その先の未来を信じて彼女たちは更に動き出した。