作品タイトル不明
第225話「アイドルがダンジョンへ」
#第225話「アイドルがダンジョンへ」
政府はCMや情報番組でハンターの情報を積極的に拡散した。情報番組などではアイドルも活用してハンターの仕事は素晴らしいと熱弁させる。ハンターを番組に出すこともあった。
それによって単純な男性は女性アイドル憧れの職業のハンターを目指すものも出てきた。作戦通りだ。
しかしまだまだ心もとない。
ハンターになる人間をもっと増やしたい。更には引退したハンターを戻したいと。そこで政府は次なる手を打った。それは戦うアイドルを生み出すことだった。
アイドルの厳しい現場に目を付けたのだ。
***
日本には JPGP69と呼ばれる大所帯アイドルグループがある。
アイドルオーディションを勝ち抜いた総勢六十九名――かつては国民的存在として一世を風靡したが、最近はその勢いも落ち込みつつあった。
それでも “選抜十五名” に入れれば状況は違う。アルバムや番組に名前が載り、最低限の露出は確保できる。とは言えその十五名でさえも安泰ではなくなってきたのが現実だ。名前が売れるのは、その中でもほんの1人か2人程度。選抜メンバーでも過酷な競争となっている。
更にそこから下――研究生扱いに近いメンバーになると話は更に厳しくなる。
所属事務所もここまで厳しい状況になると六十九名全員を平等に売り出すつもりはない。
頭の回転が速ければ情報番組へ、スポーツに詳しければスポーツコーナーへ。外国語が堪能なものは他国のオークション番組に出る人も。何か“尖った強み”があればそこを切り取って売り出すようにもなった。
本来はアイドルとして売り出そうとしたメンバー達。不本意な部分もあるがそうでもしなければ事務所としてもやっていけない。アイドル達にどのような形でもいい、何とか売れて欲しいという気持ちでの精いっぱいの手法である。
だが、その強みさえもない者は事務所側もどうすることもできず容赦なく埋もれていく。
選抜にも入れず、更には個別の特技での売り出しもできないメンバーはJPGP69ファンの記憶にも残らず、ただむなしく時間だけが過ぎていく。
このままでは“引退”が現実味を帯びてくる者も多かった。それはそうだろう。アイドルは20歳を過ぎれば既に賞味期限切れという言葉があるぐらいだ。その年齢までに何らかの形では光らなければいくら頑張ってもあとは時間が流れるだけ。夢を見るだけでは落ちぶれるだけなのだ。時間はない。
25歳ぐらいまで懸命に頑張っている先輩もいたが、ずっと状況は変わらず悪化していくだけだった。売れずに悲しみ陰で泣いている先輩たちの涙を何度も見た。
最後に引退式で多少は露出があるがそれを過ぎれば完全に一般人に戻ってしまうのが現実。メンバーの危機感も増していった。
もちろんその年齢以上でも売れるケースもある。しかしそのケースが凄いとして目立つぐらいにほとんど存在しないというのが実情だ。
「晩年になって売れ始めた」というのは誉め言葉であると同時に珍しい人の代名詞。もちろん諦めなければゲームセットではないという言葉もあるにはあるのだが現実は相当に厳しい。
夢の実現ために高校や大学にも通わず、その世界の中だけで生きてきた人間は一応「元アイドル」という肩書きだけは付くがその程度。大抵はバイトあたりの仕事に行き着く。どれだけ努力しても同じだ。あとは幸せな結婚ができれば御の字。
そんな状況は嫌だ、何とかしたいと日々のトレーニングなどに励む彼女たち。しかし現実は本当に厳しい。誰も助けてはくれない。
そしてアイドルになりたい人間は多い、抜けても次の希望者が入るだけ。誰も止めることはない。競争率が激しく厳しい世界だ。時間と共に夢だけが擦り切れていく人間が多数。
そんな中、事務所に一本の要請が届いた。
――政府からの依頼だった。
「ハンター募集キャンペーンに協力する女性アイドル五名を出してほしい。その五名には実際にハンターになってもらう」
事務所としては当然、その話に飛びついた。
とは言え不安もあった。売り出しのチャンスであるがそれと同時にリスクも大きいのでアイドル達には無理強いはできない。
ハンター業界は危険で、厳しく、華やかさとは程遠い世界。
立候補する人間がいなかったらどうしようかと事務所側も悩んだのだが、そこに飛び込んで売れなければ、もう後がないという現実もあり五人がすぐに立候補してくれた。他のアイドルが悩んでいるうちに即座に決断した五人。
政府からの仕事だけに迷わず決めてくれたことは事務所としても本当にありがたい。事務所としてもその心意気を買いそれ以上の募集は行わずに即決、すぐにこの五人に決定し手厚いバックアップを約束した。
そこで出てきたのは「桐谷ひかり、白石みこと、有村こはね、桜井りな、真中りあ」だった。五人とも二十歳。
正直なところ五人の人気は低迷していた、いや低迷と言う言葉では生ぬるい。存在さえもほとんど知られていなかった。そりゃそうだろう。このJPGP69だけでも六十九人。そして他にもアイドルグループは多数。覚えてもらうことさえも困難なのだ。
懸命に努力はしていたのだが過酷な競争に埋もれていた。もちろん普通の女の子よりも容姿は圧倒的に綺麗でかわいいが……やはり綺麗どころを集めたグループの中では埋もれてしまうのだ。
アイドルとしてはすでにぎりぎりの年齢に差し掛かっていると自覚していた。それでもまだ夢を諦められない。ハンターとしての危険、リスクよりも勝負を取った五人。
彼女たちはそろそろ諦めた方がいいのでは?次のメンバーを入れた方がいいという無言の圧力を感じることもあった。
疑心暗鬼なケースもあるがそれが現実かもしれない。今のメンバーが駄目ならば次を入れた方がまだ可能性はあるのだ。
そんな状況で、もう迷ってなどいられなかった。
「ここで何か掴まないとこのまま終わる。目立つためには、売れるためには何でもやってやる!」
五人の本音は一致していた。
こうして五人は 「トライ・スピア」 と言う名の派生ユニットを結成し再出発を切ったのだった。