軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第222話「秘密の本題」

#第222話「秘密の本題」

ハンター協会ビル高層階。朝倉のオフィスにはまだ緊張の余韻が残っていた。

レンの使役モンスターが人化し、ダンジョンの外でも桁外れの力を発揮するという事実。黒澤はその話を聞いた時には驚愕した。

まさかそんなことがあり得るのか?しかしそこにある映像にはとんでもない力を発揮する女性がいる。それは紛れもない事実。

そしてそれが使役モンスターの人化した姿とすれば辻褄は合う。とは言え、もちろんすぐには納得はできない。

混乱した黒澤、しかし時間がそれを解決していく。少しずつ落ち着きを取り戻していった。

黒澤は腕を組み深呼吸するかのように大きく息を吐いた。そして改めて二人を見た。

「……まあ、確かに隠したくなる話ではあるな。だが、何で俺に伝える必要があった? レンの使役モンスターはとんでもない力を持ちダンジョンの外にも出れる。それは凄い話ではあるが黙ってればいいだけの話だろう。俺に伝える必要はあったのか?」

その疑問に、エリナが静かに息を吸って答えた。

「ここからが本題よ。むしろ、今までのは前置き」

「……まだあるのかよ。十分すぎるほどの秘密だったが?」

黒澤は身構えた。これまでが前置きとなると更にとんでもない話が出てくる可能性がある。

その反応を見て、エリナはタブレットを操作し、別の資料を表示した。

「まず、使役モンスターのステータスに“FS”という項目があるのは知っている?」

「FS? いや、知らん。そもそもモンスターのステータスなんてじっくり見たことがない。人間と同じもんだと思ってたが?」

「普通はそうよ。知らないわよね。でもね使役モンスターには“FS”という人間にはない項目があって……最初はFS1。その後、条件を満たすと数字が上がっていくようなの」

「条件を満たすと……遷移するってことか?つまり、人化や外での行動はその遷移の過程ということか?」

「察しが早くて助かるわ。その通りよ」

黒澤は眉をひそめた。

「だが……FSの上げ方なんて研究されているのか? 聞いたことがないぞ」

「研究課の透子主任が研究しているけど、分かっているのは“FS2までの遷移方法”だけ。それ以上は再現できないわ」

そこで朝倉が続けた。

「だが、レンの使役モンスターは全員、FS6に到達しているんだ」

「FS6……? 研究課でFS3さえも分かっていないのにFS6まで進んでいるってことか?」

黒澤は息をのむ。

使役モンスターの人化、ダンジョン外に出れる能力──すべてが繋がっていく。

「つまり……あの力はFSが上がった結果か?」

「そういうことね。レンの育て方が特殊すぎて研究課でも分からないの。FS2以降は現時点で一度たりとも実現さえもできていないの。再現性の確認以前の問題ね」

「そう言えばあいつは特殊だったな。1階層から3階層までそれぞれ自力で1万体倒したって話だったよな。普通に考えて頭おかしい。もしかして……レンの使役モンスターも同じようにそれぞれの階層で1万体倒したのか?」

「そういうことよ。だから誰も真似できない。一応はレベルアップがFS遷移の条件というのは分かっているけど研究課ではレベルアップだけではFS遷移しなかったの」

「人間でさえもできそうにないことを使役モンスターにやらせたのか……そりゃ再現は無茶苦茶難しいな。研究課で苦労するのも分かる。そしてFS遷移で人化するという結果だけを下手に公表したら大混乱だ。真似しようとして死ぬ奴も出るだろう」

「そう。だからこそ秘密にしている。でも、それだけじゃないの」

エリナは黒澤の目をしっかりと見据えた。

「ここから先が、本当の本題よ」

そう言うと、タブレットの画面が切り替わる。

映し出されたのは、街中で暴れるモンスターと、それを圧倒的な速度と力で撃破する“緑の髪の人物”。

「……これ、ネットでAI合成だって言われてる映像じゃないか? 陣馬高原ダンジョンの氾濫動画だけどフェイクだろう?」

「そう言われているわね。でも──」

エリナは再生ボタンを押した。

画面の女性がモンスターを瞬く間に殲滅していく。

黒澤は息を飲んだ。

「まさか……これはレンの使役モンスターのうちの1人か?」

「そのまさかよ。あの氾濫を治めたのはレンの使役モンスターのうちの1人。フェイクとされた映像は本当は事実だったの。バレないようにこの動画をAI加工したものをネットには流しているけどね。その辺りは国家レベルで隠蔽対応しているの」

「なるほどな……これは確かに国家レベルの機密だな」

黒澤の喉が鳴った。

世界中でダンジョン氾濫が起き騒がれているのは黒澤も知っている。これまでの常識では一階層から三階層のモンスターを間引きしてダンジョンのエネルギー上昇を管理すればダンジョンの氾濫は起きないとされてきたが、現実にはエネルギー管理をしても氾濫が起きるようになっている。

その辺りはまだ世間一般には知られていないが黒澤レベルになるとさすがに知っている話だ。

そしてそのダンジョンの氾濫に対抗できるのは自衛隊のみ。とは言えそれも三階層のモンスターの氾濫の場合だ。仮に四階層より下層のモンスターが氾濫したら自衛隊でも太刀打ちできるかは分からない。

そうなるとレンの使役モンスターが日本の切り札とも言えた。黒澤はそこで、ようやく話の全体像を理解した。

国が動く理由を、ようやく心の底から理解したのだ。

「……分かったかしら?これがトップシークレットの理由。そして──あなたに知ってほしかった理由よ」

エリナの声は静かで、しかし重い。

「レンたちは、ただの“ハンターとして強い将来有望な若者”じゃない。日本の、本当の切り札候補なのよ。だからこそ首相と防衛大臣が直で動き秘密を知っている人間を絞っているの」

黒澤は長い沈黙ののち、ゆっくりと頷いた。

「……そうか。なら──秘密を知っている人間で守らないとな。あいつらのことを、全力で」

朝倉も静かにうなずいた。

「そういうことだ。現時点ですぐに動くことは特にない。しかし将来的に何がどう動くか分からない。今は誰でもスマホを持っているから、いつでもどこでも動画撮影ができ秘密が漏れる可能性がある……その時には何らかの協力を要請する可能性があるかもしれない。それを知っておいて欲しかったんだ」

「ああ、分かった。俺にできる範囲のことは何でもする」黒澤はそう答えた。いや、そう答えざるを得ない状況とも言えた。国の切り札を失ってはたまったものではない。

情報量が多すぎて混乱はしているが、レンのことを守ることは日本のために必要ということは間違いない。少なくともそれだけは理解できた。

──そして話は次にレンの現状に移っていった。