作品タイトル不明
第158話「陣馬高原ダンジョンの試練」
#第158話「陣馬高原ダンジョンの試練」
ある日、ルナから提案があった。
「陣馬高原ダンジョンを試してみないか?」
陣馬高原――どこかで聞いたことのある名前だ。
聞いてみると、やはり八王子にあるらしい。恩方ダンジョンとそう遠くはない距離だ。それで思い出した。朝倉さんに人が少ないダンジョンを教えて欲しいとお願いした時に聞いた名前だ。その時に駅からやや近い恩方ダンジョンの方を俺は選んだ。
過疎っているのは恩方ダンジョンとと同じでその点では問題はない。
どうやら陣馬高原ダンジョンは「技術系」と呼ばれるタイプで難易度が高く不人気なのだという。恩方ダンジョンは「スピード系」で難易度が高く不人気だが違う意味で難易度が高い。
「面白そうだろう?」とルナが言う。
「でも技術系ならば難しいんじゃないの?」とひよりが少し困惑したように言う。
「ああ難しい、だからいいんだよ。簡単だと思う場所でいつも戦っていると鈍るからな。さすがに5階層はまだ早いだろうが陣馬高原ダンジョンの4階層ならば問題ないだろう」
その言葉に俺も頷いた。未知のダンジョン、そして“技術系”。確かに今の実力を測るにはちょうどいいかもしれない。
そこで俺は朝倉さんには1日だけ陣馬高原ダンジョンに行くと連絡を入れておいた。あくまで“1日お試し”という形でダンジョンを変えることにしたのだ。
そうして、俺たちは陣馬高原ダンジョンの4階層に足を踏み入れた。
メンバーはいつもの8人(3人+使役モンスター5体)――俺、ルナ、ひより、そしてラム、リン、ロア、ルフ、クーだ。
恩方とはまた違う雰囲気が新鮮だ。気が引き締まる。
しばらくすると10体の敵が出てきた。いつもならば楽勝の相手だ。軽く倒していこう。
しかし最初のモンスターと対峙し剣を交えた瞬間、俺はすぐに違和感を覚えた。スピードは恩方よりも遅いのでその点は楽だ。だが――攻撃が重い。
さらに、こちらの一撃をうまく受け流してくる。まるで技を“知っている”かのようだ。
「これが技術系ってやつか…」と思わずつぶやいた。
楽勝かと思っていたが、どうやらそうはいかない。同じ4階層でもここまで感覚が違うとは。ちょっとびっくりだ。
ルナが低く呟く。「油断は禁物だ。いつもと同じ感覚での攻撃で倒したつもりになるなよ」
その言葉どおり倒れたと思った瞬間、反撃が来た。いつもならば倒れている攻撃のはずが倒れていない。
レベルが1段上のモンスターを相手にしている感覚だった。でもスピードが遅いので違和感がある。
となるとスピードで振り回して安全圏からの攻撃が一番問題無さそうだ。
俺たちは作戦を切り替えた。
まずは“早く倒す”よりも“反撃を受けない動き”を優先した。早く倒すのは相手の動きに慣れてからの方がいいだろう。
立ち回りを修正していく。そうして慣れてくると少しずつ感覚がつかめた。いつもの慣れがやや問題となったいたが今は大丈夫。もう戸惑うことはなさそうだ。
それにしてもびっくりしたな。同じモンスターのはずが同じでない。
「どうだ、レン」とルナが言ってくる。
「違和感が凄かった。同じモンスターのはずが全く違う」
「そうだろう。こういった違いも覚えておく必要がある。新宿ダンジョンなどのパワー系は違和感が少ないだろうがスピード系、技術系は違いが大きいので注意したほうがいい」
「これから違うダンジョンにも入ることは増えてくるはずだ。どの系統のダンジョンなのか頭に入れてから討伐するように」
「了解! 今回、実際に体験してみてよく分かったよ」
こうやって一度体験し、分かってしまえば対応は問題ない。ただし、それはもともと今の自分にとって4階層が余裕のある階層だからだ。これがぎりぎりの階層だったらこうはいかないだろう。
でも逆にこうやって違うダンジョンに慣れておけば上の階層に行った時に余裕を持って戦うことができる可能性がある。こちらのダンジョンにも慣れておく必要があるだろう。
そうして討伐を終えた。討伐数はいつもより少ない。だがそれでもいい。今日はそれよりも得るものが多かった。
討伐を終えたあと、ルナが軽く笑った。
「どうだ、分かっただろう? ここは単純な“力押しが通用しずらい”場所だ。」
俺も頷く。なるほど、これが“技術系”というわけか。難しいが自分のためになった。ここで付け焼刃の逆袈裟斬りなんて出したら、反撃をもらっていたかもしれない。ダンジョンの違いはしっかりと頭に入れておこう。
「たまにはこちらのダンジョンでも討伐をした方がいいだろう」とルナ。
「確かに、恩方ダンジョンとは違った意味での緊張感がここにはあるよな」
帰り道で少し考えて、ルナに言った。
「1週間に1回ぐらい、ここに来ようと思う。」
ルナはうなずいて微笑んだ。
「いい判断だと思う。ダンジョンの違いによる誤差を確認するのに丁度いい」
俺たちは新たな鍛錬の地を見つけた――そう感じた一日だった。