軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第155話「クラン・エクリプスの影」

#第155話「クラン・エクリプスの影」

本田が加入したことで、クラン『エクリプス』のメンバーは先を見据え、夢を見ていた。このままいけばリーダーの佐藤はレベル4に届く。

そして他のメンバーも順に上がっていくだろう。そうなれば、クラン『エクリプス』単独での4階層への進出も夢ではない。場合によっては他クランとの合同討伐もあり得るかもしれない。有名クランとの合同討伐ならば、そこで頑張ればクランとしての名声も上がるだろう。

そして4階層に挑めるようになれば、年収1000万円も現実味を帯びてくると聞いている。5階層に進めれば年収数千万円の可能性が見えてくる。

そういった会話も増え、誰もが夢を見た。ハンターとして一人立ちできる可能性があるのだ。そうすれば地位も名声もお金も得られる。

「本当に……俺たちもレベル4、レベル5、そして年収数千万円、そこに届くかもしれないな」

「ああ、そんなことになったら何でもできるぜ、女だって寄ってくるだろう」

「選べる立場になれるかもな。綺麗な女の子でもいけるかもよ。夢みたいだ」

今は厳しくても、希望があれば耐えられる。夢を語る声が絶えず、定期的な会議は熱気で満ちていた。活動にも本気度が増していった。

そうして少しずつながらもクラン『エクリプス』のメンバーは前を向いて進んでいた。

――だが、その中で。

誰も肝心なことに気づいていなかった。当たり前のことなのに見えていなかった。

どうして、みんなが認め、あれほど優秀と思われる本田が“レベル4止まり”なのか。

どうして、現実世界ではレベル5に到達する者が、わずか6人に1人程度しかいないのか。億近いお金を使いレベリングという手段を用いてレベル5に到達する司のような人間がそれなりにいるにも関わらずだ。

――そこには、現実にレベル4になって4階層で戦ってみないと見えない壁がある。

努力や根性では越えられない何かがあるのだ。

本田自身はそれを痛感していた。自力でレベル5に到達するのは確実に無理だと感じていた。だからこそ本田は単独で4階層の討伐を諦めて3階層でちまちまやっていたのだ。

例えば、どこかのクランに入ってレベル5を目指すのはありだ。しかし新人には厳しい。経験値の分け前は少ないのに危険な役割を分担させられる可能性が高い。大してリターンもないのにリスクは高い、そして怪我でもしたら収入は途絶えるという厳しい現実が待っている。すぐに借金生活になるだろう。そんなリスクは簡単には負えない。

どれだけ良いクランでもそういった状況になる。それはそうだ。みんな自分たちが上がるので必死。新人に平等に経験値を分け与えるはずがないのである。

そもそも良いクランは競争率も高い。簡単には入ることさえもできない。

たまに気の良いレベル4の仲間と一緒に4階層で討伐を進めることもある。しかしそれでは危険なだけでなかなか経験値は貯まらない。4階層は死と隣り合わせなのだ。慎重に慎重を重ねる必要がある。しかし慎重になるほど経験値の増加スピードは落ちる。レベル5なんて何年かかるかも分からない。その前に何らかの形で脱落するだろう。

だからこそ、クラン『エクリプス』の仲間たちにはその現実を話さなかった。

自分は専業でやっているにも関わらずレベル5はまだまだ遠い。

兼業でやっているクラン『エクリプス』のメンバーが1人としてレベル5になれるはずはないだろうと思っていた。レベル4がせいぜい。そして現実を見れば4階層ではなく3階層でちまちまやった方がいい。収入は少ないが安全マージンを取っての討伐の方がいいのだ。

才能があるならまだしもクラン『エクリプス』のメンバーは普通の人達の集まり。

特段、武術を習っているわけでもなさそうだ。それなりにやっている人間もいそうではあるがまだまだ未熟なものばかり。空いている時間で習っているのだろう。でも、その程度の気持ちでは兼業どころか専業でもレベル5になれるはずもない。

本当はレベル4の現実を話した方がいいのだろう。でも本田はそれはしなかった。せっかくのクランの熱気を奪うことは明白だったからだ。

「今は夢を見させてやる方がいい」

静かにそう呟き、笑顔で皆を励ましながらも――その目だけは、どこか遠くを見ていた。

いつかは自分もこのクランで用なしになる日が来るかもしれない。それまでに少しでもお金をためておいた方がいいだろうな。

今度、社長の息子とされる司とコンタクトを取ることになっている。その司がどう動くのかその動きによって先々のことを考えていく必要がある。

もちろん紹介してくれた鷹見の顔も立てる必要もあるだろう。

1日数時間で月15万は悪くない。それ以外の時間は3階層でちまちまやれば生活には困らない。お金も少しは貯まる。

面倒なことにならないように今の状況を少しでも長く保ち続けることが最善だと考えていた。