作品タイトル不明
第106話「黒澤さんと田嶋さんへの報告」
#第106話「黒澤さんと田嶋さんへの報告」
今日は月イチの定期報告の日だ。ハンター協会に顔を出す前に、久しぶりに会いに来いと声をかけてもらっていたクラン『暁の牙』の拠点へ向かった――。
確かに言われてみればかなり久しぶりだ。お世話になったから、たまには行こうとは思うが、さすがに用もないのにあの高層マンションの一室に行くのも気が引けるんだよな。
ひよりも一緒にいるので「ハンター協会の天川さんと一緒でもいいですか?」と聞いたら、「なんで一緒に? まあいいか。ぜひ連れてこい」とのことだったので二人で向かった。
高層マンションの一室。ホテルみたいに静かで廊下には絨毯みたいなものまであってそれが柔らかい。避けて端を歩こうかと思ったけどそれじゃ意味ないし恐る恐るその上を歩いていく。
こういう高級なのは何度来ても慣れないんだよな。きっと死ぬまで慣れないんじゃないかと思う。
俺は軽く深呼吸し緊張しながらインターホンを押すとすぐにドアが開いた。
「あっ、田嶋さん、ご無沙汰してます」
「ほんっと久しぶりっすね。レンくん、放っておくと全然連絡くれないから――悲しいっすよ」
出迎えた田嶋さんが冗談交じりとは言えあまり顔を見せないことに言及してきた。
――これは、まずい流れ?
「す、すみません。いろいろ忙しくて……」
「おい、いじめんな。真に受けてるだろ」
奥から黒澤さん。肩で笑っている。
「――それにしても、レン、お前は少し見ないうちにずいぶん“雰囲気”が変わったな。かなり強くなっただろう。まあ、まずは入れよ」
黒澤さんに促されて中に入りながら会話を続けた。
「そうですかね。まあ、多少は強くなった自覚はありますけど」
「今はレベル……5ぐらいか?」
「今はまだレベル4です。レベル5はまだまだ先ですね。かなり時間がかかりそうです」
「確かレンはレベリングはしてないよな」
「はい。今後もする予定はないですよ」
「それはすごいな。レベリングなしで二年足らずでレベル4、すでに一人前か――初期はともかくここ最近では珍しい。……いや、最近話題のルナもそうか」
名前を出したのは黒澤さん。何か探っているような目だ。ちらりと俺を窺う。恐らく知っているのだろう。
「そのルナに稽古をつけてもらってます」
「ああ、やっぱりその噂は本当だったのか。急に強くなっていいるようでびっくりしたが納得だ。俺も動画を見たがあいつの剣術は本物だ。しっかり学ぶといい。そしてレン、お前はもっと強くなれ」
「はい――でもルナのところで習っているのは広めないでくださいね。彼女に迷惑がかかるかもしれないので」
「ああそれは分かってる。ここだけの話だ」
「にしても、ルナとつながりがあるってのは強烈っすね。どこで知り合ったんっすか?」田嶋さんが横から聞いてきた。
「彼女は昔のゲーム仲間で連絡がきたんですよ。だから、まあ、たまたまですね。俺は全然知らなかったのですが、ひよりが有名人だって教えてくれてそこからとんとん拍子で話が進んで師匠になってもらうことになったんです」
「なるほど。それでお前が急に伸びたというわけか。今後も楽しみだな」と黒澤さんは頷いている。
そこへ、控えめにひよりが頭を下げた。
「お久しぶりです。ご無沙汰してしまって」
「ひよりちゃんも元気そうで何より。……ところで」
田嶋さんが、やけに身を乗り出してきた。
「二人で来たってことは、そして呼び捨てにしているということは……もしかして――何かそういう?関係あったりするの?」
「はい。俺とひよりは幼馴染で、今は付き合ってます」
「なんですと――!」
田嶋さんが椅子からずり落ちかけた。
「天川はハンターにもファン多いからな。最近見かけないって嘆いてる連中、結構いるぞ」と黒澤さんが言及する。
そっか。最近俺と一緒に活動しているからこっちでは逆に見かけなくなったわけだな。まあひよりはかわいいからファンが多くても納得だ。でもそれはライバルが多いということか?もしかして注意が必要か?
「なら、これも内緒でお願いします。変な噂が立つとひよりが困るので」
「了解。――俺の胸にしまっておく」
「それにしてもレンくん、忙しいって言っていたのにやることはやっているのね。裏切られた気分っすよ」
「田嶋さん、言い方がいやらしい!まだそんな関係じゃないですよ!」俺が言うとひよりも隣で真っ赤になっている。
「冗談だよ、冗談。これじゃ俺が悪者みたいじゃないっすか。ひよりちゃん、ごめんね」と田嶋さんは降参したかのように手を上げた。
和やかな空気が流れた――のだが、次の一拍で雰囲気が変わる。
「ねえレンくん、でもさ」と田嶋さん。
「それ以外にも、何か“秘密”にしてることないっすか?」
「俺も聞きたい。レン、まだ秘密あるよな」と黒澤さん。目が少し鋭い。まるで仕事の顔だ。
何だろう?秘密はあると言えばいろいろある。ありすぎる。どきりとする。胸の内側でいろんな単語が暴れた。でも言えない話ばかり。
――使役モンスターの人化、FSなどなど
ひよりが足先で俺の靴をちょんと突く。「落ち着いて」の合図だ。
「えっと……他に、何かありましたっけ?」
俺は笑ってみせた。
ひよりが横でうなだれている。どうやら演技がばればれっぽい。さあここはどうしたものか。
――まさか使役モンスターの人化が早くもばれた?どう説明すればいい?