作品タイトル不明
42.
放課後、聖華は奉太郎と一緒に、自分らのマンションへと向かっていた。
聖華は終始ご機嫌な表情で、奉太郎の隣を歩いている。
(本の貸し借りっていう最強つながりカードを手に入れたあたし、もはや付き合うのは秒読みですか~♪)
まったくそんなことはないし、むしろお付き合いは始まってもいない。
しかし聖華の中では、奉太郎とはそんなに努力せずとも、いずれ付き合えるだろうという気持ちでいた。
(ふふふ~ん。まあもう焦るこたぁないよねー! ゆっくりじっくりと関係を深めていって、奉太郎くんからの告白を待てばよいのだ! はー、奉太郎くん好き好きらぶ~)
と、浮かれる聖華を余所に、奉太郎が途中で足を止めた。
ちょうど、マンションが目の前にあった。
「どうしたの? って……あれ?」
自分らが通う、アルピコ学園の制服を着た、小柄な女子がこちらに近づいてきた。
「……みさお」
(みさお……みさお!? え、下の名前呼び!? うそぉお!)
塩尻みさおは奉太郎を見て、「よっ、奉太郎」と気安く話しかける。
(あ、あたしの奉太郎君と、下の名前で!? え、え、えー! なにそれ! どういうこと!?)
別に聖華と付き合ってるわけでもないし、自分のでもなんでもないのだが……。
奉太郎は、若干焦りといらだちのこもった声で言う。
「おまえ、何してるんだよ。こんなとこで」
「初めまして昼神さん。アタシは塩尻みさお。奉太郎のことは昔からよーく知ってる間柄なんだ」
「おいっ」
奉太郎を無視して、みさおが聖華に話し出す。
(む、むむ、昔から知ってるって……あ、あー! お、幼なじみってこと……幼なじみ!? ラブコメじゃ定番の、あの!?)
恋仲に発展することはあんまないけど、でも主人公をよく知ってる、近しい間柄。
それが、幼なじみ。
(ほ、奉太郎君にこんな可愛い幼なじみがいたなんて……こ、これ……もたもたしてたら、取られちゃうんじゃっ)
さっきまではすでに、勝ったなと楽観的に構えていた聖華。
だが可愛い幼なじみの登場で、再び彼女の中に緊張が走る。
……一方、奉太郎のいらだちは限界に達し、みさおの手を引いて、その場から離れる。
「……おまえ、何の用だ?」
いたずらや、意地悪の類いだったら、奉太郎は本気でキレてるところだった。
しかしみさおはあっけらかんと言う。
「尻を叩きに来たんだよ。あんたとあの子の」
「……? どういうことだ」
「もう付き合うならさっさと付き合いなよ。なに、もたもたやってんのさ」
みさおの言ってることの真意がわからず、奉太郎は首をかしげる。
だが、不思議と、感情の高ぶりが引いていくのがわかった。
「ねえ、奉太郎。あんた、アタシがあの子の前に現れて、意味深なことを言って……どう思った?」
「どう……って。それは……」
「焦ったでしょ? 勘違いされたくないって、思ったでしょ」
「っ!」
……みさおの言う通りだった。
聖華に、みさおとの関係を誤解してほしくないと、そう思った。
だから焦ったし、だから……キレかけていたのである。
「自覚できた?」
この幼なじみは、発破をかけに来たのだ。
奉太郎はそこでようやく、みさおの真意に気づいた。
もたもたしてる自分の尻を蹴りにきたのである。
「好きならさくっと告っとけ。女から告らせるなんて、だっさいマネすんなよ」
みさおはニカッと笑うと、手を振って、その場を後にする。
「ありがとう、みさお」
「いーってこった。ほな、ばいなら~……」
……みさおは決して後ろを振り返らなかった。
まるで、今の顔を見られたくないとでも、思ってるようだった。