作品タイトル不明
40.
聖華の根性の入ったおにぎりを食べたあと……。
奉太郎はふと、深雪の手に持っている本が目に付く。
「もしかしてそれ、白馬王子の新刊?」
深雪の手には、一冊の単行本が握られていた。
真っ白な表紙に、『神に挑む』というタイトルが書かれた、シンプルな装丁。
「む? 白馬王子? なぁにそれ、白馬に乗った王子様? 童話?」
「……そう。新刊」
聖華を無視して深雪が答える。
奉太郎は少し前のめりになって尋ねる。
「まじか。いつ発売したの?」
「……先週」
「そっか。最近本屋行ってなかったから、気づかなかった。君も好きなの?」
「……ええ。せんもしの時から」
聖華が首をかしげる。
「せんもしってー?」
「ラノベで出たよねそれ……もしかしてデビュー時から追ってるの?」
「ねーえー」
「……ええ。良いわよね、白馬王子。感性だけで書いてないのが伝わってきて、それが良い」
「ちょっとー!」
「わかる」
「わからないよー!」
完全に、深雪と奉太郎から仲間はずれにされて、聖華は腹を立てたようだ。
ぷくっ、と頬を膨らませる。
「あたしでも分かるような言葉でしゃべってよー! もー!」
可愛らしい、嫉妬だった。
奉太郎はそう、聖華のそんな姿を見て可愛いと無意識に思ったのである。
好意がある故のシグナルだったのだが……悲しいかな、聖華には届かなかったらしい。
「ごめん、昼神さん。白馬王子っていうのは、作家のこと。凄く面白い本を書く人なんだ」
「……せんもしっていうのは、その人のデビュー作。阿智君もデビューから白馬王子を追ってるんだって」
二人の説明を聞いて、聖華はそれでやっと、話は理解できた。
できたのだが……。
「ぶー……。あたしにはわからん世界……」
読書なんてしない聖華にとっては、理解できぬ話であった。
自分の知らないところで、彼と盛り上がらないでほしかった。
「君も読書してみる?」
奉太郎は少し間を空けた。
考えたのは、彼女のこと。
彼女にも、自分の好きを、理解して欲しい。
そんな気持ちが、彼を少しだけ大胆にさせた。
「本……貸すけど」
彼からの、好意のこもったパスだ。
絶好球であった。
ど真ん中に、甘い球が入ってきたのだ。
この本の貸し借りから、さらに関係が深まる……。
「え、いいや。本読まないし」
……昼神聖華。
恋愛経験値が低過ぎるせいで、この絶好球をまさかの見逃し三振。
深雪は深々と、ため息をつくのだった。