作品タイトル不明
39.
文芸部部室には、なぜだか味噌汁の香りが漂っていた。
この部室にはポットが置いてあり、聖華がインスタント味噌汁を使ったのである。
奉太郎は聖華の作ったおにぎりを頬張る。
一口噛むと、ほろりと米が崩れる。
(コンビニおにぎりと全然違う……)
乱暴な言葉で言えばただの米の塊。
おにぎりなんて、どう作っても同じ味わいになるはずである。
だが、明確に、聖華のおにぎりは美味しいと感じた。
冷たい米の塊では決してない。
ほどよい塩味。パリパリの海苔。そして、柔らかいのだ。
「どうしてこんな美味しいの? 何か秘訣とかある?」
奉太郎は自分の言葉に自分で驚く。
食事の秘訣なんて、一度も人に聞いたことはなかった。
「そりゃあもう、あ」
「あ?」
聖華の顔が真っ赤に染まる。
……おそらく愛情とか、そういったことを言うのではないだろうかと、奉太郎は思った。
聖華は顔を真っ赤にしている。
愛情などという、露骨な愛情表現を避けているのだろう。
相手に好意が伝わってしまうがゆえの、照れ。
しかし奉太郎だけでなく、その場にいる誰もが見ても、彼を好きなことは明白だった。
照れる気持ちはわからないでもないが……
「根性! 根性ぎゅぎゅっと注入されてるからね!」
……なんとも微妙な返しだった。喜ぶでもない、感謝するでもない。
ユーモアにも欠けている。
現に深雪は呆れたように、深々とため息をついた。
その一方で、奉太郎だけは、楽しそうに笑う。
「そっか。根性入ってるから、美味しいんだね」
……無論そんなわけがない。
だが、気合を入れて弁当を作ってきてくれた。
それだけは伝わったし、それだけで十分だった。
「ありがとう」
「ふへへっ、どーいたしましてー!」