軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27.

湯気が立ち込める浴室に、ちゃぷん、と軽やかな水音が響いた。

「ぬふふふふ、ぬふふっふ。うえへへへへ……っ」

湯船の縁に顎を乗せ、昼神聖華はだらしない笑い声を漏らしていた。

お湯の温かさに包まれながら、先ほどまでの阿智奉太郎との甘い時間を思い返し、顔から火が出そうなほどニヤニヤしている。

彼が自分の部屋でくつろぎ、並んですき焼きを食べ、さらには寝顔まで見守ってくれていたという事実。

見えない尻尾が、お湯の中でバシャバシャと激しく水しぶきを上げるほどに、今の彼女は有頂天だった。

(自慢したいっ! この幸せを、誰かに自慢したすぎるっ!)

胸の奥で爆発しそうな喜びを持て余し、聖華は防水ケースに入れたスマートフォンを手に取った。

メッセージアプリを開き、唯一の親友である茅野深雪のトーク画面をタップする。

『ねえねえ! みゆきん、起きてるー? あたし、今ちょーご機嫌なんだー! なんでだと思うー?』

夜更けのウザ絡みである。

しかし、ほどなくして画面に「既読」がつき、短い返信がポコンと表示された。

『阿智くんと何かあったの?』

「そーなのっ!」

浴室に響き渡るような大きな声で叫び、聖華は猛烈な勢いでフリック入力を開始した。

夕方に変な男子に絡まれて彼に助けてもらったこと、そのお礼ですき焼きを一緒に食べたこと、そして彼が遅くまで残っていてくれたこと。

溢れ出す感情のままに、『でねでねでねー!』と怒涛の長文メッセージを送りつけまくる。

しばらくの間、深雪からの返信は途絶えた。

さすがにウザすぎただろうかと少し不安になり、聖華が見えない耳をペタンと伏せたその時、画面が光った。

『良かった』

『最近あなた、元気なかったから』

その短いメッセージを見た瞬間、聖華の指先がピタリと止まった。

浮かれていた頭が、スッと冷たい水に浸されたように静まる。

深雪の言う通りだった。

聖華はここ最近、ずっと元気がなかった。

学年が上がるにつれて、聖華の豊満な身体を狙って近づいてくる男子の数は目に見えて増えていた。

「誰にでもヤラせる」という根も葉もない悪い噂が一人歩きし、今日のように露骨な下心を向けてくる連中に、心底疲弊していたのだ。

聖華は、メッセージアプリの通話履歴をスクロールする。

奉太郎と関わるようになる前は、夜な夜な深雪に電話をかけ、泣きながら愚痴を聞いてもらうことがかなりの頻度であった。

派手な見た目で強がっていても、中身はただの純情な女の子だ。無遠慮な悪意や性的な視線に、傷つかないわけがなかった。

『私に愚痴らなくなった。それは、彼のおかげでしょ』

深雪からの追撃のメッセージに、聖華は湯船の中でギュッと膝を抱え込んだ。

「うん……」

ポツリと、お湯に溶けるような小さな声がこぼれる。

彼が隣にいてくれるようになってから、嫌な噂も、男子からの視線も、以前ほど気にならなくなった。

どんな噂があろうと、奉太郎だけは絶対に色眼鏡で自分を見ない。ただ「昼神聖華」という一人の人間として、真っ直ぐに向き合ってくれる。

その事実が、どれだけ聖華の心を救い、温めてくれていることか。

『好きなんだね、彼のこと』

画面に浮かび上がった決定的な一言に、聖華の頬がカァッと熱を持った。

お湯のせいだけではない。心臓が早鐘のように打ち鳴らされ、胸の奥がキュンと甘く締め付けられる。

聖華は、そのメッセージには返事をしなかった。

しかし、文字を入力せずとも、画面の向こうの親友には間違いなく伝わっているはずだ。

これほどまでに彼を求めてやまない熱情は、もう言葉にするまでもないのだから。

スマートフォンを胸に抱きしめ、聖華はお湯の中に顔の半分を沈めた。

ぶくぶくと泡を立てながら、ぬへへ、というだらしない笑みが再び漏れ出す。

静かな浴室の夜は、純情ギャルの甘い恋心と共に、どこまでも深く更けていくのだった。