作品タイトル不明
閑話:ライラ(3)
凄い勢いで大きな黒っぽい馬車が、ドッドッドッと土煙をあげながら、ライラたちがいるほうに向かってきていた。
五月のゴーレム馬車だ。
御者台のところには、ドゴールとザックスが乗っている。
「お、大きい……」
目の前に停まった馬車を見て、ライラは思わず呟く。
しかも馬車を引いているのが、生きた馬ではなく、ゴーレムなのにも驚いたライラたちは、あんぐりと口を開けて見上げてしまう。
「おう、サントス、待たせたか」
御者台から降りて声をかけたドゴール。ザックスもすぐに飛び降りて、ドゴールの隣に並ぶ。
十七歳になるザックスは、ケイドンの街にいた頃とは違い、村の美味しい物を食べたおかげか、がっしりとした体つきになり、その上、この冬は急に背が伸びて、サントスと背の高さも変わらないくらいになっている。
亡くなった父親に似たのか、なかなか端正な顔立ちのザックスに、ライラも、少しだけドキッとする。
「いえ、それほど待ってないっす。ほぼ、ドンピシャ。……って、なんですか、この馬車」
「ハッハッハ。サツキ様が迎えに行くなら、これを使えってな」
「はぁ……なんか、さすがっすね」
「(それに、途中から早くなったんだが……ありゃぁ、精霊様たちかもしれんな)」
「(ゲッ、それは色々気を付けないと)」
「(ああ、余計なことすんなよ?)」
途中からボソボソと話している二人をよそに、ザックスがライラに気付いて、驚いた顔をした。
――知ってる人だったかしら? なんとなく見覚えがあるような。
首を傾げたライラを見て、ポッと顔を赤らめたザックス。
「あ、あの、荷物は」
「俺が持ってるから大丈夫だ」
エルフのセッティが手をあげる。
「あ、そうですか。じゃあ、馬車の中に……どうぞ」
ここは雇い主であるサントスの父、アンドレが最初に乗るべきでは、と思ったが、肝心のアンドレはドゴールたちと楽しそうに会話中。
ザックスが最初に手を伸ばしたのは、ライラ……ではなく、ライラの祖母だった。
「まぁ、ありがとう」
嬉しそうにザックスの手をとり、馬車の中に入ると、「まぁ! 素敵!」と喜びの声があがった。その後を祖父が入り、祖母同様に凄い、凄いと楽しそうな声が聞こえてくる。
「あの、ど、どうぞ」
照れくさそうに手を差し出してきたザックスに、やはり見覚えがあると感じたライラ。
「私、あなたと会ったことがあるかしら?」
「!? あ、はいっ、去年の秋に、一度、サツキ様たちと一緒に王都に行った際に」
「サツキ様……ああ!」
自分が接客した相手である黒髪の女性のことはすぐに思い出した。その場にいた家族連れの中に、確かにザックスに似た面影の少年がいたような気がするライラ。
「え、でも、随分と背が」
「はい。この冬に急に伸びまして……」
「ライラ、まだ乗らないのか」
会話の途中で声をかけてきたのはアンドレ。
「あ、はい、乗ります」
ザックスの手を借り、馬車へと乗り込んだライラ。
――ちょっと、素敵かも。
頬を染めて馬車に乗り込んだライラを見た、祖父母とアンドレ。
ライラの失恋を知っている三人は、これは、いい感じになるのでは、と少しばかり期待したのは言うまでもない。