作品タイトル不明
閑話:ライラ(2)
サントスとセッティは、ライラが思っていたよりも早くに戻ってきた。
「お待たせ。行ける?」
「サントス……まさか、この時間から移動するんではないだろうな」
サントスの父、アンドレが呆れたように聞く。アンドレは待っている間、内心、宿屋を押さえないで大丈夫なのかと心配していたくらいだった。
「移動するよ。迎えが途中まで来てるんだから」
「は?」
「……今朝方、村には私が伝達の魔法陣を使って連絡を入れた」
「さ、さすが、セッティ様」
伝達の魔法陣は、ある程度の魔力がないと使えないし、彼らのような平民では手が出ないくらい高価な物という認識が一般的。それをあっさり使ってしまうセッティに、ライラの祖父が感心の声をあげる。
実際は魔法について学んだ者であれば自作できてしまうし、セッティが使った魔法陣も、彼が自分で作った物だったりする。
「親父たち、街を出て、少し歩くけど、大丈夫か?」
「ずっと馬車の座席に座りっぱなしだったのだ。少しくらいなら問題はない」
「ゆっくりであれば、私たちも大丈夫ですよ」
元気なアンドレと祖父母に、ライラは少し驚く。
「ライラは?」
サントスが心配そうに聞いてきた。
「は、はいっ。全然、全然大丈夫です!」
荷物の類は、すべてセッティのマジックバッグで預かって貰っていたので、アンドレたち四人とも大した荷物もなく身軽だ。多少歩くくらい、なんともない、と思った。
そして六人はケイドンの街を徒歩で出て、ビヨルンテ獣王国方面に向かう街道を歩くこと、四十分。
その間、乗合馬車や何組かの旅人とすれ違ったり、追い越されたりした。年配者がいるので、歩く速度は速くはない。
街道の周辺は荒地が広がっているのだが、少し先に脇にこんもりした林が見えてきた。
「よし、あそこで少し休憩だ」
サントスの声に、ホッとする宿屋組の四人。
王都に住んでいた時は、せいぜい歩いても十分程度。王都内を走る乗合馬車もあるので、四十分も歩くことはなかった。
それもあってか、一番若いライラですら歩き疲れてしまった。
林の中の少し開けた場所で、サントスは自分のマジックバッグから折り畳みの小さな椅子を人数分取り出し、全員に座らせた。
これは五月の村のドワーフたちが作った簡易の折り畳みの椅子。グルターレ商会の護衛で立ち寄った時に、買い込んでおいた物だ。
――移動中の休憩の時も思ったけど、これって便利だな。
ライラは他の乗客たちが地べたに座ったり、倒木や岩の上に腰かけたりしていたのを思い出す。
素材が何なのかまではわからないけれど、かなり軽い金属で、ライラでも簡単に折り畳みすることも、持ち運ぶこともできた。
――きっと高い物なんだろうな。まぁ、私が普段使うことなんて、ないだろうけど。
そんなことを考えながら、魔道具の水筒から水を飲んで一息いれているところに、ガタガタと馬車の走る音が聞こえてきた。
聞こえてくる方向は、街道のほうからではない。
「お、迎えが来たな」
サントスが立ち上がり、馬車の音のするほうへと目を向けた。