作品タイトル不明
閑話:ライラ
ガタゴトと乗合馬車が街道を進む。向かう先はコントリア王国の東の端にあるケイドンの街。もうすぐ目的のケイドンの街に着くこともあり、乗客は多くはない。
――『神の私有地』って、どんなところだろう。
獣人の村の宿屋を開店させるべく、サントスは実家の冒険者向け宿屋『暁の星亭』に相談をしに行って、一緒に行くことになったのは、『暁の星亭』の従業員のライラとその祖父母。
以前、五月たちが宿に来た時に、接客をした女性だ。
ライラは十八歳になるが、まだ独身だ。
一時期、結婚の約束をしていた相手がいた。宿をよく利用していた冒険者だ。しかし、あくまで口約束。仕事で王都を離れて、よその土地で出会った女性と結婚したらしい、と元仲間の冒険者から教えられた。
それ以来、男性不信になってしまって、今に至る。
そんなライラだが、王都から一度も出たことがなかったので、せっかくの機会だからと、サントスの宿屋に行きたいと、自ら名乗り上げた。
大旦那であるサントスの父にダメだと言われるかと思ったが、あっさり認められた。
その理由は、ライラの祖父母にある。
馬車には他の乗客もいる中、二人は並んで座り、コクリコクリと居眠りをしている。
――よく、こんなに揺れる馬車で眠れるわ。
感心しながら二人を見つめる。
ライラの祖父母は、すでに現役を引退はしているものの、元は本家の高級宿屋の執事とメイド長だった。
この二人も一緒なら、ということで許されたのだ。
――おじいちゃんとおばあちゃんのおかげね。それに。
同じ馬車の中には、なぜか、サントスの父、アンドレまでが乗っている。
宿屋のほうは大丈夫なのかと思ったら、跡取り娘のオクサーナと旦那に任せれば大丈夫だと言って、同行してきたのだ。
――きっと、旦那様も『神の私有地』が気になるんだろうな。
今は目を閉じているものの、休憩のたびに商業ギルドで買ってきた地図を広げ、ワクワクした顔で見ていたのだ。
「そろそろケイドンの街に入るぞ」
護衛として馬に乗っているサントスが、馬車の中へと声をかけてきた。
ライラはその声に頷き、祖父母を起こすと同時に、乗合馬車はケイドンの街に入った。
――街道沿いにあった村や町より、ずっと大きい。
祖父母と、アンドレと一緒に馬車を降りたライラは、思っていたよりも立派な街に驚く。
「はぁ。着いたか」
「ケイドンなんて、何十年ぶりだか」
「年寄りには、長旅はキツイですねぇ」
三人が固まった身体を動かしている間にも、ライラは初めて見る街を観察しまくっている。
「親父、俺たちはギルドに寄って精算してくるから、そこのカフェででも待っててくれ」
「わかった」
サントスとセッティと分かれたライラたちは、サントスの言っていたカフェで一息つくことにした。
「この時間では、ケイドンで一泊でしょうか」
ライラが心配そうにアンドレに問いかける。
「うむ。しかし、サントスの様子だと、このまま向かうような感じだがな」
すでに昼は過ぎているおかげでカフェにはすぐに入れた四人だったが、これからのことを考えると、少しばかり不安になった。