作品タイトル不明
閑話:サントス(2)
その場で食事をしていた全員(セッティ以外)が、サントスへ驚きの目を向ける。
「ある所?」
「あんたがやるの?」
「冗談でしょ」
「いやいやいや」
続々と驚きの声と、否定の声をあげる。
「宿屋の手伝いもほとんどしなかったあんたが?」
オクサーナが呆れた声で言う。
「い、いや、冒険者になる前には手伝ってたじゃん」
「ハッ、そんなの十才くらいの話でしょ?」
「……サントス兄ちゃん、それは大した手伝いしてないんじゃない」
「ぐっ」
甥の言葉が、サントスにとどめを刺す。
白い目で見るオクサーナそっくりの顔立ちの甥は十二歳。すでに跡継ぎとして宿の仕事を手伝っている。その彼が十歳の頃の自分の手伝いを思い出して言うのだから、本当に大した仕事はしていないのだろう。
「いや、だから、その、宿屋をやるにあたって、色々相談したくて来たんじゃん」
「はぁ」
軽々しく言うサントスに、父は大きなため息をつく。
「そりゃ、俺にいきなりは無理なのはわかってるよ。だから、誰か手伝ってもらえないかと思ってさ」
「……場所は」
ジロリと睨む父。
「いや、あの、えーと」
獣人の村のことをどこまで言っていいものか迷い、セッティへと目を向ける。
周囲には見えてはいないけれど、セッティには村から二人の風の精霊がついてきている。サントスはセッティから聞いていたので、少しだけビビッていたりする。
精霊二人は小さく頷く。
「はぁ……ドゴールが結婚する相手の村だ」
全員がセッティに目が向いてしまったので、セッティも深いため息をついて答える。
「その村の場所は」
それだけでは納得のいかない父が、具体的な場所を促す。
「東の外れのケイドンの街は知ってるか?」
「ああ」
「その先にある村さ」
「……そんな所に村が……あ、もしかして」
父は自分の兄たち(長男は本家でもある貴族向けの宿、次男は裕福な商人向けの宿)から聞いた、様々な噂話を思い出す。
「そこは『神の私有地』と言われる場所じゃないか?」
父の言葉にギョッとする面々。一方でサントスの強張った表情を見て、父は、なるほど、という顔になり、ニヤニヤしながら言いだす。
「確か、前に、王太子とその婚約者一行が避暑に行っただとか、エクスデーロ前公爵が孫娘と一緒に向かった場所だとか、色々と噂になってたなぁ」
「え、そんな場所があるの?」
オクサーナが興味津々で問いかける。
「いや、その」
「主人」
慌てるサントスに、セッティが厳しい声で父のほうを制する。父はセッティの声に、ビクリとする。
「それ以上はやめておけ」
「……」
「お前の命だけでは済まなくなるぞ」
実際、精霊二人は『うるさいなぁ』『ちょっとしつこい』とブツブツ文句を言いだしていたのだ。彼らの行動は、下手をすれば一族郎党が犠牲となる。
「な、何を言うの。セッティさん。脅かさないでよ」
「……オクサーナ。冗談ではない」
セッティの真面目な声に、オクサーナはごくりと唾をのみこむ。
せっかくの楽しい雰囲気の食卓が一変、緊張感漂う場になってしまった。
「と、とにかく、そういうわけだから、真面目に手伝ってくれる人を紹介して欲しいんだ」
「……わかった」
サントスの言葉に返事をした父は、難しい顔をしながら食事を続けた。