作品タイトル不明
第929話 赤ん坊の握力は侮れない
「さくらまいちるフフフフフ~♪」
有名な桜の歌を、鼻歌交じりでスーパーカブを走らせる。
まだ少しひんやりした空気を感じつつ、緑の木々の隙間から日差しがこぼれる道を走っている私……とセバス。
花見に行くのでお留守番をさせようと思ったら、ドアをしめようとした隙間からにょろりと出てきてしまったのだ。
そう、《《にょろり》》と。
もこもこの毛の中はガリガリなのかもしれない。食いしん坊だけど。
一瞬、キモッ、と思ったけれど、どうせセバスだし、と諦める。
仕方がないので、部屋に戻さなかったら、そのまま後ろをついてきている。スーパーカブの後を走ってるセバスの図。はたから見たら、どう見えるんだろう。
ご機嫌で立ち枯れの拠点を抜け、村の裏手の入口まで行ってスーパーカブを止めると、村の中から賑やかな声が聞こえてきた。
――うわ、もう始まってるのか。
私はスーパーカブをタブレットの『収納』にしまって村の中へと入る。
ドワーフたちの家の通りにズラリと並んだ桜並木。これまた見事に満開で、桜の木の下では、村人たちがすでに宴会を始めている。
「あ、サツキ様!」
一番最初に私に気付いて声をかけてきたのは、ハノエさん。ガズゥの弟のゲッシュを抱えながら、串に刺さった肉の塊を食べている。
「サツキ様~」
「ここどうぞ~」
ビニールシート代わりなのか、大判の布を地面に敷いているところに、ママ軍団はまとまっているようだ。
同じくテオの妹のターナを抱えているテオママのラナさんと、マルの弟の双子のミコルかモコルのどっちかを抱えているマルママのマナさんが、手を振っている。
私はマナさんが空けてくれた隣の場所に座る。
「この子は?」
もちもちの手が嬉しそうに私に伸びてきたので、どっちかな、と問いかけながら、人差し指を差し出そうとしたら。
「あ、サツキ様! ダメです!」
なぜかマナさんが慌てて子供を抱えて身を引いた。
「うえっ!?」
思わず、驚いて私も身体をそらせてしまう。
「す、すみません。ミコルってば、手加減がわからないみたいで、色々やらかしちゃってて」
マナさんが抱えていたのはミコルだった。マコルはどうしたのかと思ったら、父親のヘデンさんと一緒にいるようだ。
マナさんいわく、最近急に握る力が強くなった双子。すでに木製のスプーンを数本折っているらしい。
「え、獣人の赤ちゃんって、そんなにパワフル?」
「いいえ、ゲッシュもターナもそんなことはないんですよ。なぜか、この子たちだけが、妙にパワフルで」
ハノエさんも苦笑い。
「うちの子が強いのならわかるんですけどねぇ」
そういうのはラナさん。
確かに、テオパパのガイシャさんも立派な体格だし、ガズゥほどではないけれど、テオも大きくなってるのを思うと、妹でもターナは強くなりそうと思ってしまう。
『それはねぇ~』
『ぎゅうにゅういっぱいのんでるから~』
「は?」
精霊たちの言葉に固まる私。
『さつきのやまのくさをたべてそだってるうしたちのちちだもの~』
『ききめ、ばつぐん!』
『ばつぐんー』
「いやいやいや、そんなのゲッシュとターナだって」
「ん? どうかしました?」
ハノエさんが聞いてきたので、精霊たちの言葉を伝えると。
「なんですって」
「それ、本当!?」
慌てるハノエさんとラナさん。
母乳で育てるのが獣人族では一般的なのだけれど、マナさんは双子に飲ませられるほどの母乳が出ないらしく、牛乳とも併用してたらしい。
「今からでも間に合うかしら」
「いや、それはわからないけど……飲ませてみたら?」
「そうね」
「やってみる価値はあるわ」
真剣な顔の二人だけれど、木製スプーン折っちゃう赤ちゃんでいいのかな、とちょっと心配になった私である。