作品タイトル不明
第928話 セバスとの唐揚げ攻防戦
子供たちを先に村に帰して、私は飲み物とソーセージの他に何か作っていくか、とログハウスのキッチンで腕を組んで悩んでいるところ。ちなみにマリンは子供たちと一緒に村に行っている。
たぶん花見は、あの子たちが戻った頃くらいから始まるに違いない。だいたい小一時間はかかるだろう。
……ドワーフたちが待てるかはわからないが。
「ん~、これは唐揚げでも作って行くか」
村でも菜の花で作る菜種油や、魔物の脂肪からとる油などもあるにはあるけれど、なかなか大量に使うことはないそうで、たまに私が持って行く唐揚げは、なかなかの人気だったりする。
タブレットの『収納』の中にある魔物の肉をチェックする。
エイデンたちがダンジョンで手に入れる肉は、すでに塊肉になっているので、私でも便利に使わせてもらっているんだが、なにせ、大きさが、 あちら(日本) の通常サイズとは桁違い。
同じ鶏系であっても、魔物の肉となると三倍くらい違うのだ。
――あった、あった。
私が『収納』から取り出したのは、すぐに使えるように、ジッパー付きのビニール袋(大)にぎゅうぎゅうに詰め込んだ味付け肉。確か、ワイルドコッコのモモ肉だったはず。
味付き肉に片栗粉と薄力粉を混ぜたものをまとわせて、底の深いフライパンで、どんどん
ほいほいとあげていく。
部屋の中は香ばしい匂いで充満してくると、マリンに置いていかれて少し拗ねて部屋の隅で寝ていたセバスが、のそりと立ち上がり、山盛りの唐揚げが載っているテーブルへとやってくる。
「メェェェ」
「え、あんた、食べるの?」
「メェェェ」
「ちょ、ちょっと!?」
慌てて魔道コンロを止めてキッチンから飛び出し、山盛りの皿を保護するために、上に持ち上げる。そんな私の周りを、黒羊がぐるぐる回る。
「あげるから、あげるから、ちょっと食べないでっ!」
「チッ」
――はぁ!? セバス(黒羊) のくせに、舌打ちした!?
「……舌打ちするような子には、やらないよ」
「メェェェ!」
私の言葉がショックだったのか、悲痛な鳴き声をあげる。その上、大きな黒い目から涙がポロリ。まさか、泣くほど? と焦る私。
「はぁ。わかった、わかった。別の皿に分けるからちょっと待って」
私の言葉に、すぐに涙が引っ込んだ。
――え、涙って、そんなに簡単に引っ込むの?
驚いている私に、ニヤリと笑うセバス。
「……あんた、いい性格してるね」
「メェェェ」
そこで自慢げに鳴くから、憎たらしい。
私は大きなため息をついて、紙皿を取り出して、そこにいくつか唐揚げを置いたのだが。
ペロリ
「は?」
「メェェェぇ!」
「はぁぁぁ!?」
あっという間に消えた唐揚げに、声をあげる私。
そんな私をよそに、セバスはテーブルに載っている唐揚げをロックオン。私をスルーしてテーブルへと近寄っていく。
「ちょ、ちょっと! ダメよっ! もうっ、精霊さんたち、セバスに食べさせないでっ!」
『まかせろ~!』
『セバスにくわせるなー』
ふよふよと唐揚げの皿が天井近くまで浮かんだ。
「セーバースー」
「……メェェェェ」
地を這うような私の声に、さすがのセバスも諦めた模様。
――あ、急がなきゃいけないのにっ。
私は再び肉を揚げるために、キッチンの中へと戻ったのであった。