作品タイトル不明
第六十六話 王国宰相ジークフリート
俺はひとり断罪迷宮デスホールのアジトを出て、その足で宰相府を訪れた。
王国への断罪を決行する前に、どうしても宰相ジークフリートに会っておかなければならないと思っていた。
「どこに行っていたんだ、おまえは? クローデリア様はどうした? 大変なことになっているのだぞ」
ジークフリートが慌てた様子で、俺の顔を見るなり声をかけてきた。
「王太子誘拐のことですか?」
「知っているなら話が早い。断罪中に『真・反断罪戦線』を名乗る輩に誘拐されたのだ。くだらない断罪で俺も立ち会っていなかったのだが……。ともかく、『断罪結社』出動だ。ユウマ、おまえのスキルで犯人を見つけるのだ」
俺はそのジークフリートの命令に答えない。
「何だ? 嫌なのか?」
「……ジークフリート様。あなたは北方辺境伯事件の真相を知っているのではないですか?」
「何だ、急に。今はそれどころじゃないんだ」
「いえ、とても大事なことなのです。俺は王太子があの事件に関わったことを知っています。あなたも王家がどれだけ非道なことをしているのか知らないはずがない。それでも王太子を救えと言うのですか?」
ジークフリートは驚いた表情をし、何か言おうとしてやめ、諦めたような顔をした。
「ああ、知っている。あの王太子も、何なら国王フリードリヒもクズ野郎だ」
ジークフリートはとても王国宰相とは思えない暴言を吐いた。
「では……」
俺は期待を込めて、ジークフリートに王国への断罪の協力を申し出ようとしたが、ジークフリートがそれを遮る。
「だがな、私はこの王国の宰相で、王家に忠誠を誓った身なのだ。どんなクズ野郎だろうが、誘拐された王太子を放っておくことはできん」
「そうですか……」
そこまで忠誠心のあるジークフリートに、王国の断罪を持ちかけるなど野暮だな。
「わかりました。残念ですが、俺は協力できません。……心配しなくても、王太子はまもなく戻ってきますよ」
「……ユウマ、おまえ何を企んでいるのだ?」
「俺はただ間違った断罪をこれ以上見たくないだけです」
「王国に逆らうつもりならただでは済まんぞ。一平民ごときに何ができると思っているのだ」
「……」
「私は私のやり方で、少しずつでも王国を正すつもりだ。ユウマ、考えなおせ。今ならまだ引き返せるぞ」
「あなたがのんびりやっている間に出ている犠牲者についてはどうするつもりですか? そんなことしている間に、南方辺境伯は王国に殺されてしまったんですよ!」
「……話し合う余地もなさそうだな」
その瞬間、ジークフリートとの決別が決定的となったことを悟った。
俺はそれ以上何も言わずに、ジークフリートに背を向けた。
「待て、ユウマ!」
振り返ると、ジークフリートは今までに見たこともない優しい顔をしていて、俺は少なからず驚いた。
「今までありがとう。おまえは本当に多くの人々を救ってくれた」
ジークフリートにここまで直接的に感謝されたことがあっただろうか……。
俺は急に、目頭が熱くなるのを感じた。
「そしておまえは『 断罪(ヴァーティクト) 結社(・オーダー) 』をクビだ!」
俺はその解雇通告に答える。
「念願叶いました。断罪の場でのあなたは私の憧れでしたが、上司としては最低でしたよ。……どうか、お元気で」
俺はジークフリートに向けて、無理やり笑顔を作った。
それが、「断罪結社」メンバーとしてのユウマ・クレイが、最後に交わした宰相ジークフリートとの言葉だった。