軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十三話 断罪の起源(前編)

王太子レオンハルトを人質にし、聖女エリシアを解放した俺たちは、彼らを連れて「断罪迷宮デスホール」にやってきた。

一度ダンジョン攻略し、ダンジョンコアを回収していたので、「断罪迷宮」は、トラップも魔物もいないただの古代遺構になっており、再侵入は容易だった。

古代遺構の最奥に入り、ダンジョンコアを使うと、ダンジョンのトラップやモンスターが再現される。聖女エリシアにより、あの凶悪な「断罪聖獣」コンデム・ビーストも再び召喚される。

S級冒険者で「剣姫」クローデリアと「断罪の使徒」ユウマ・クレイの組み合わせがなければ、このダンジョンの攻略は不可能だ。

「真・反断罪戦線」のアジトとしての安全は保証されていると言っていい。

「まさか『断罪結社』のあなたたちに救われるとはね」

聖女エリシアが言った。

「あなたが『 反(アンチ) 断罪(・ヴァーティクト) 戦線(・フロント) 』で蒔いた種を、俺たちが守って、これから花開かせるんです」

俺は答える。

「『断罪の使徒』が断罪を否定するの?」

エリシアの問いに、俺は少し考える。

「俺は……断罪が好きで見物をしてきました。特に宰相ジークフリートの担当する断罪は必ず見物してきました。断罪で、悪を懲らしめる爽快さを感じ、自分は悪事をせずに正しく生きようと思えました。

俺はあなたのように、寛容にはなれません。『断罪』そのものをなくすべきだとは思いません。欲望のままに猟奇的な殺人を繰り返すような人間がいれば、法で裁き、同じような犯罪を防ぐ努力をすべきです。

ただ……今の王国は間違った断罪をしていると確信しています。『断罪』そのものをなくすのではなく、正しい『断罪』を取り戻したいのです。それが『断罪の使徒』としてすべきことだと思うのです」

「……そう。『反断罪戦線』は断罪そのものの廃止を目指すけれど、『真・反断罪戦線』は正しい断罪を取り戻すことを目指すのね。いずれにしても、王国の『断罪』が間違っているという認識は一致しているから、私たちは協力し合えるわね」

「そうです。そう思ってエリシア様を解放させていただいたのです」

エリシアが少し思案し、再び口を開く。

「あなたは王国の断罪の起源はご存知なのかしら?」

予想していなかった質問に俺は少し戸惑う。

「……断罪の起源ですか? 王家が、地上の安定的な統治のために、女神から与えられた能力だとか、そんなことは聞いたことがありますが……だからこそ、どんな断罪であれ、形式的にでも必ず王太子のような王家の方が必ず断罪の宣告を行っているのだと認識しています」

俺の答えに、エリシアはため息をついた。

「それは王家が捏造した神話よ。女神様は王家にそんな能力は与えていないわ。『断罪の使徒』のような、女神様の真正な能力とは違うのよ。

……やはりご存知ないでしょうね。隠された歴史ですから」

「何が仰りたいのですか?」

「今、王国で行われている『断罪』は、昔から正義の制度だったわけじゃないの。あなたが取り戻そうとしている 正(・) し(・) い(・) 断罪なんてものは存在しないの」

エリシアは静かな声で語り始めた。

「始まりは、大飢饉と内乱の時代よ。

その頃の王都は、大きな災害や戦災が続いたこともあり、貧しい人々が溢れて、略奪や暴動が相次いでいたわ。王家も聖教会も信用を失って、人々は誰を信じればいいのかわからなくなっていた。皆、不安と怒りでおかしくなっていたのね。

そこで、王と大司教が一人の辺境の大貴族を断罪したの。災害の規模が比較的小さかった辺境のその貴族が、金に物を言わせ、穀物を買い占め、私腹を肥やし、王都を飢えさせた大罪人としてね。罪状は広場で読み上げられ、その場でその大貴族は処刑された。人々は熱狂したわ。『悪が裁かれた』『自分たちの苦しみには元凶があった』『王国は正しい』と、人々はそう思った。辺境の差別が始まったのもその頃ね」

エリシアはそこで俺を見た。

「けれど、その大貴族は本当の黒幕じゃなかったの」

「……え?」

「本当は、王家側にも、聖教会側にも、責任を負うべき者がいた。けれど王国は、自分たちが生き延びるために、一人に罪を押しつけたの。民衆の怒りを全部その大貴族に押しつけて、『断罪』という見世物で秩序を取り戻したのよ」

俺は言葉を失った。

エリシアは続ける。

「つまり、王国の断罪の起源は、正義なんかじゃない。王国を守るための、最初の大きな嘘だったの」

「……」

「けれど、その嘘はあまりにうまくいってしまった。人々は、罪人が裁かれる光景を見ると安心するようになった。王家は、断罪すれば民は従うと学んだ。聖教会は、断罪すれば怒りの矛先を逸らせると学んだ。そうして断罪はこの王国の制度になったの」

エリシアの声は穏やかだった。しかし、俺にはその穏やかさが何か不気味だった。

「あなたの大好きな断罪も、その続きにすぎないのよ。最初の冤罪の上に積み重なった、王国の作った大きな虚構。罪人だろうと無実の者だろうと、その虚構の一部にされて、偽りの安定のために利用されているの。

……そのことを知っても、まだあなたは 正(・) し(・) い(・) 断罪を取り戻そうなんて思えるかしら」

エリシアの問いに、俺はすぐに答えることはできなかった。「断罪」が王国の都合で作られた虚構だと突然言われてすぐに受け入れられるはずもない。

「……すぐには、わかりません」

俺はそう答えるのがやっとだった。

断罪の起源が、王国最初の冤罪にあった。

もしそれが本当なら、俺はずっと、王国がついた最初の大きな嘘の続きを見物してきたことになる。

「なぜおまえがその話を知っているのだ。聖女エリシア……」

それまで黙って俺たちの話を聞いていた王太子レオンハルトが口を開いた。