作品タイトル不明
第六十二話 真・反断罪戦線
その日、王城前広場に集まった観衆はまばらだった。
行われる予定の断罪は、あまり重要な事件ではなく、大きな注目もされていなかった。そのため、警備にあたる 王国騎士(ロイヤル・ナイツ) も多くはなかった。
観衆が小さくざわめく。
今回の断罪の対象となる一人の女性が断罪台に上がってきたのだ。
続けて、王太子レオンハルトが登場する。宰相ジークフリートがいないことからも、断罪の格の低さが窺える。
レオンハルトは苛ついた様子で、断罪台に上がるなり、口を開く。
「伯爵令嬢シャルロッテ・グランベル。おまえとの婚約をここに破棄する」
成人してから無数の婚約と婚約破棄を繰り返す王太子は、もはや婚約破棄を目的に婚約しているとしか思えなかった。
「そして、おまえを侮辱罪でここに断罪する!」
観衆がまた小さくざわついた。
伯爵令嬢シャルロッテは静かにその宣告を受け入れているように見えた。
「おまえは、俺の婚約の依頼を受け入れなかったどころか、俺を愛することが絶対にできないなどと言いやがったのだ」
受け入れられなかった婚約をどうやって破棄したのだ?
「レオンハルト殿下、大変申し訳ないのですが……私は男性を愛することができないのです。それがいかに高貴な殿下であっても、何か汚らしく感じると言いますか……私は別に恋人もいて……私は自分の気持ちに嘘はつけないのです」
「この期に及んでまだ俺を侮辱するか!?」
レオンハルトは熱くなっているようだが、その熱意はまったく観衆に伝播しないようで、集まっていた観衆が帰り始めた。
人々は素直だ。面白くもない断罪に、自分の貴重な時間を使う気にはならないだろう。
——そんな観衆たちに、俺たちが面白いものを見せてやる。
「これが、俺たちからの戦線布告だ」
俺はひとり、小さく呟く。
【スキル: 断罪の石投げ(コンデム・ストーン) 】【効果:悪人に必中……スキル使用者が視認可能な範囲内で、設定した罪状に最も近い者が「悪人」とされる。同等の罪状の者が複数人いる場合はランダムの一人に当たる。該当者がいない場合は自らに石が向く】
設定する罪状は「民を虐げる罪」だ。
「 断罪の石投げ(コンデム・ストーン) !」
俺の手から放たれた石が、王太子レオンハルトにまっすぐ飛んでいく。
「痛い!」
石が頭に直撃したレオンハルトは体勢を崩す。
その背後に影が忍び寄り、レオンハルトの首元に短剣を突きつける。
その人物は深いフードが付きのマントをまとい、顔には鉄仮面をかぶっていた。
「ひぃいー!」
レオンハルトが情けない声を上げる。
「我々は『 真・反(トゥルー・アンチ・) 断罪(ヴァーティクト) 戦線(・フロント) 』だ! 聖女エリシアの意思を継ぎ、この王国を糾すために立ち上がった!」
仮面の人物が美しい声でそう宣言した。
「な、なんだ、おまえは? 俺が王太子とわかってやっているのか?」
「わかってやっているに決まっているだろう? バカなのか?」
「な、何だと? おまえも侮辱罪で断罪してやる! どいつもこいつもバカにしやがって! 王太子を何だと思っているのだ!」
「おまえという人間に価値を見いだすのは難しいが、私が最大限その生命を利用してやろう」
そして鉄仮面の人物が短剣に力を込めると、その刃がレオンハルトの首の皮膚を切る。
「死にたくなかったら大人しくしておけ。周りのやつらにも言い聞かせろ。何度も言うが、私はおまえの生命そのものには何の価値も見出さない。利用価値がないと判断したら即座に殺す」
「い、痛い。お、大人しくする。おまえらも言うことを聞け!」
王太子を救助すべく断罪台に上ろうとしていた騎士たちに向かって叫ぶ。
「お、おまえの要求は何だ? 何でも従うから俺を解放しろ」
レオンハルトは助かるために必死のようだ。
「まずは聖女エリシアを解放しろ」
鉄仮面の人物——クローデリアはそう要求した。