軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話 偽聖女の断罪7

王国騎士団(ロイヤル・ナイツ) が王城での混乱を治め、一連の騒動の首謀者と見られる罪人たちの断罪が強行された。

王都の町では、いまだに偽聖女と偽聖騎士が増殖していたが、一刻も早く事件の真相を突き止め、事態を収束させるには、断罪しかないという王政府の判断だった。

王城前広場は異様な雰囲気だった。

偽聖女の祝福を逃れた王都の民衆が、逃げるように王城前広場へ押し寄せていた。

偽聖女や偽聖騎士たちが広場に入らないよう、王国騎士たちが目を光らせてはいたが、それでも偽聖女や偽聖騎士は断罪の場に紛れ込み、そこかしこで騒ぎが起きていた。

「聖女の祝福を受けなさい。でなければ死になさい」

偽聖女たちは笑顔でそんな物騒なことを言い回っていた。

俺はクローデリアにぴたりとくっつき、偽聖女や偽聖騎士を追い払ってもらっていた。

「ユウマ、ちょっとくっつきすぎよ」とクローデリアはこんな状況でもはにかんだように微笑むのだが、俺には余裕がなく、ただ「申し訳ございませんがお許しください」と繰り返すだけだった。

偽聖女たちの魔の手を逃れて生き延びて広場にたどり着いたのも、ある程度腕っぷしか何かでやつらを撃退できた人たちなのだろう。

「お二人は仲がよろしいんですね」

また一人の偽聖女らしき女が笑顔で声をかけてきた。

「ひぃっ! クローデリア様、助けて!」

もはや恥も外聞もなく、俺はクローデリアにしがみつく。

「ユウマ、安心して。その人はただのおっとり笑顔の私の知り合いよ」

「知り合いでも偽聖女だったらやられてしまいますよ。追っ払ってくださいっ」

そんなことくらいわかるでしょう!?と心の中で叫ぶ。

「偽聖女……そうね、エリシア、あなた偽聖女なのかしら」

「……世間的には偽聖女なのかしらね」

二人がよくわからない問答を始めるが……エリシア……どこかで聞いた名前ではあるな。

「偽聖女かもしれないけれど、とにかく大丈夫よ。ほら、私にくっついて」

「わ、わかりましたから。クローデリア様も俺から離れないでくださいね」

「本当に仲がよくていいわね。クローデリアにこんな親密な殿方ができるなんてうらやましいわ」

いちいち否定するのも面倒だが、エリシアと呼ばれたその女性の対応が偽聖女らしいものではなかったので、ようやく俺は少し落ち着いた。

「すみません、取り乱しました。あなたはどういった方なのですか?」

「私はただの平民よ。でも……」

エリシアが話をし始めようとしたところで、歓声が上がり、中断を余儀なくされる。

断罪の主役たちが登場したのだ。

広場の中心の断罪台に、聖騎士長ルーファス、「始まりの偽聖女」リュシア、そして大司教グレゴールが、王国騎士たちに縄で引かれてきた。

続けて、王太子レオンハルトと宰相ジークフリートが姿を現す。

そして、さっそくレオンハルトが口を開く。

「聖女リュシア・ノエル、ここにおまえとの婚約を……」

「お待ちください」

レオンハルトが言いかけたところにジークフリートが割って入った。

「レオンハルト殿下、大変申し訳ないのですが、一刻を争う事態なので、婚約破棄は後日に願います。

さて、皆様、ご存知のとおり、王都には現在、聖女と聖騎士が溢れかえっております。特に聖女が量産されるなどという事態は、歴史を振り返っても前代未聞の出来事です。

彼らが本物の『聖女』『聖騎士』なのであれば、扱いはまた変わったかもしれませんが、彼らは紛いものであり、まるで人格を乗っ取られているかのようです。つまり、このままでは彼らに王都が、いえ、王国自体が偽聖女と偽聖騎士に乗っ取られてしまいます」

そこでジークフリートは断罪台の偽聖女リュシアに目を向けた。

「リュシア様、直ちに偽聖女化の『呪い』を解除いただけますか? あなたに拒否権はない。拒否するのであれば直ちに斬首して強制的に解除させていただきます。偽聖女の蔓延を防ぐため、一刻の猶予も許されませんので」

リュシアはあの笑顔のまま、動じている様子はない。

「私を殺したければ殺していただいてけっこうです。何か勘違いされているようですけれど、それでも聖女化は止まりませんわよ」

「どういうことですか?」

ジークフリートが険しい顔でリュシアを睨む。

「聖女化はもう誰にも止められないということだ」

大司教グレゴールが口を開いた。

「グレゴール大司教、あなたがこの事件の首謀者だということはわかっています。どうすれば 偽(・) 聖女化が止められるのです?」

「言うわけがなかろう。わしを殺したらその手がかりも失われる。王政府にはもう打つ手はない。諦めろ」

グレゴールは淡々と応じた。

確かに見たところ、悪いことを考えそうなじいさんには見えないんだが。

一方のジークフリートは焦りを見せ始める。

「あなたは人徳者だったはずだ。それで大司教にもなったというのに、なぜこんなことを企てたのですか?」

そのジークフリートの問いに、グレゴールはなぜか悲しそうな表情を見せた。

「もちろん昨日今日の思いつきでやっていることではない。わしはもう疲れたんだ、この王都、この王国に」

「疲れた? あなたが疲れたからってなぜ王国を乗っ取ろうなどと考えるのですか?」

「勘違いするでない。わしはこの王国のためを思ってこうしているのだ。王族や貴族や大商人ばかりが権力と金を得て平民を見下し、王都の者どもは辺境の者や奴隷を見下し虐げる。誰もそれを疑問に思わず、私利私欲にまみれ、挙げ句の果てに間違いを犯してしまった者を『断罪』だなどと見せ物にまでして更生の機会すら与えない」

「断罪は王国の安定のためのものです。王国の問題は少しずつでも改善します。それに、たとえ王政府を転覆したところで、人がそう簡単に変わるものでは……」

そこでジークフリートは何かに気づいたように言葉を止めた。

「そうか、そういうことですか……」

何かに納得したジークフリートに、グレゴールが頷いた。

「そうだ、人は簡単には変わらん。だから変えるしかないのだよ。『呪い』でも使って強制的にな。変われない者は死んで退場してもらうしかない。

そうしてすべての者が人格者の聖女と聖騎士になれば、身分差も差別もなく、皆が互いを思いやる、完全に平等で平和な王国になるのだ」

「狂っている……」

ジークフリートが苦し紛れにそれだけ言い放った。

「何とでも言えばよい。狂うくらいでないとこの王国は変わらん。そろそろこの『断罪』の茶番も終わりだ」

大きなうねりが広場を襲おうとしている。

大声を張り上げる「群れ」が近づいてきている。

「聖女の治癒はいりませんかー!!!」「祝福をさせていただきまーす!!!」

そのふざけた大合唱が、俺を震え上がらせた。これは数の暴力で迫る究極の同調圧力だ。

気づくと「群れ」はすでに見えるところまで迫ってきていた。

満面の笑顔の偽聖女と偽聖騎士の群れが、広場につながる大通りいっぱいに広がり、巨大な洪水のように押し寄せてきた。

いくら精強な王国騎士団が全軍で当たったところで、洪水に一飲みにされて終わりだろう。

——聖教会の勝ちだ。

どこで間違えたんだ? いつからこの偽聖女の感染が始まっていたんだ?

それがわかったところでもう遅いか……

「万事休す!」

心で思ったことが声に出ちゃった。

「ユウマ、諦めないで! あなたのことは私が命をかけて必ず守るから」

クローデリアが叫ぶ。

「何を仰るんです? 俺みたいなモブ平民なんかより、あなたが生き残るべきです、クローデリア様。俺が盾になるから逃げて……ごふぅ」

クローデリアが俺の腹に拳をめりこませた。

「二度とそんなこと口にしないで」

痛い……普通にお腹がすごく痛い……

「しっかりして、ユウマ。あなたにしかできないことがあるでしょう?」

俺にしかできないこと……? ヤジと石投げ……?

……そうだ。どうせ死ぬなら、死ぬ前に、俺は俺が悪と思うやつに断罪のヤジと石をぶつけてやらなければ……死んでも死にきれない。

この大舞台こそ、断罪見物人として最後の一花を咲かせる絶好の場ではないか。

「目が覚めました、クローデリア様、ありがとうございます」

俺は石袋から石を取り出して握りしめた。

罪状は「人格を奪う呪いを広めた罪」だ。

人格を奪うなど、人を殺すより残酷なことではないか。

今、俺にできる精一杯の断罪の怒りを込めて投げつけてやる。

「俺たちの断罪を奪ってんじゃねえ! 怒りの『 断罪の石投げ(コンデム・ストーン) !』」

俺の怒りを乗せた石が放たれた。