軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 偽聖女の断罪8

俺の手から放たれた石は断罪台上の巨悪に一直線……と思いきや、初速の勢いのまま、すぐ目の前にいた女の後頭部にぶつかった。

女は頭を手で押さえてこちらを振り返った。

「痛いっ! 何すんのよ!」

……いや、それだけ? 俺の怒りの全力投球の石が「痛い」だけで済むものなの? 頭蓋骨陥没してもおかしくないくらいの勢いだったよ? クローデリアほどじゃないにしても防御力が高め?

「ごめんなさい……」

とりあえず謝るしかないな……。

ん? この女の顔、どこかで見たことがあるな……

「セラフィナ? 私を陥れようとした、あの元祖偽聖女?」

そうだ……こいつのせいでクローデリアは国家反逆罪の冤罪で死罪にされかけたのだ。

「クローデリア! あんたの仕業? 何の恨みがあってこんなことするのよ」

死罪にされかけて恨みがないほうがおかしいだろう……

あの時は藁人形の「呪い」を捏造して、クローデリアをはめようとしていたな……。

「……あ! たぶん、こいつが元凶です。クローデリア様!」

「そのようね。エリシア、お願いできる? 必要なら斬るわ」

「何なのよ、あんたたち。悪いけど、私は弱くな……ごふぅっ」

クローデリアが剣を一閃し、セラフィナが気絶した。

「峰打ちよ」

「そもそもこいつ脱獄してここにいるんですよね? 拘束しておかないとだめですね」

「そうね、でも今はのんびりしていられないわ」

偽聖女と偽聖騎士の大群はもう広場に入ってきていた。このままでは全滅しかねない。

「エリシア、どう?」

クローデリアがエリシアに問いかけると、エリシアが気絶したセラフィナに近づいた。

「うん、この女が呪いの発信をしているので間違いなさそうね」

「何とかなる?」

「そうね」

エリシアがセラフィナの額に手をかざし、詠唱を始めた。

「 解呪(デスペル) 」

エリシアの手のひらから強い光が放たれ、セラフィナに注がれた。素人の俺が見ても尋常ではない 魔力(マナ) 量の魔法だ。

「さすが元聖女ね」

元聖女? 偽聖女じゃなくて? ……あ!

「まさかエリシア・ブランシェ? 伝説の聖女? まだ生きていたんですか?」

「そうよ。表舞台からは遠ざかっていたけれど、あの聖女エリシアよ」

それならこの魔力も納得だが……。

やがてエリシアの解呪を受けていたセラフィナの体から無数の光の筋が放出され始めた。

「セラフィナの魔力回路を見つけた。一斉解呪を始めるわ」

無数の光の筋は、迫る偽聖女、偽聖騎士たち一人一人に届いた。彼らにだけでなく、光の筋はあらゆる方向に伸びていった。

偽聖女と偽聖騎士たちの行進は止まった。

あの不快な「祝福」の押し付けの合唱も止まった。

先ほどまで偽聖女・偽聖騎士だった者たちが我に返り、戸惑ったように周りを見回していた。

「やったのか……?」

俺の口から言葉がこぼれた。

「うん、『解呪』は無事に完了したわ」

エリシアが宣言した。

俺とクローデリアは思わず飛び上がって抱きしめ合った。

「クローデリア様のおかげです。ありがとうございます! これで王都がもとに戻るんですね!」

「何を言っているの、ユウマ? 王国を救ったのはあなたとエリシアじゃない」

クローデリアがそう言って笑顔を向ける。俺はともかく、確かにエリシアはすごかった。これこそ本物の聖女だ。

「本当に仲が良いのね。妬けちゃうわ」

エリシアも微笑んだ。

「いえ、そういうのではないですから!」

今度こそ俺はちゃんと否定してやった。モブ平民が公爵令嬢とどうにかなるなどありえない。

「でも地下牢にいたはずのセラフィナがどうやって呪いを広めたんですかね?」

セラフィナがここで観衆に紛れていたこと自体も驚きだったが、どうやって犯行を行ったのかはより大きな疑問だ。

「おそらく私の断罪のときの『 祝福(ブレス・) 共有(シェア) 』か、あるいはどこかでリュシアに偽聖女の呪いが感染したのでしょう。そしてリュシアも同様に断罪のときに『祝福共有』でそれを広めたのね。私はただ不快なだけで済んだけれど、魔法防御耐性が低い人は簡単に感染してしまったでしょうね。まるで断罪の場を利用したみたい」

光だけ出てたと思ったら呪いをぶちまけていたのか。なんてやつだ。

「最初は女性だけが感染していたのに、呪いは伝染するたびに強くなって、変異したのね。男性にまで感染するようになってしまって、偽聖騎士まで生まれるようになったのよ」

変異を続ける偽聖女ウィルスか。

「そんなのを一度に解呪してしまうなんて、エリシア様はすごいですね」

「ただ魔力が強いだけの平民よ。大したことじゃないわ。今回はセラフィナの魔力回路が、間接的にでも感染した人たちに接続されるタイプの魔法だったみたいなの。それで追跡が簡単だっただけ」

「そんな芸当ができるのはエリシアだけよ」

クローデリアがそう言うが、俺も同意だ。どんな上級神官であろうとあんな解呪はできないだろう。

「どういうことだ? 何が起きた?」

大司教グレゴールは断罪台上から成り行きを眺めていたはずだ。偽聖女と偽聖騎士の大行進はさぞ壮観だったことだろう。

それだけに、その行進を止められて愕然とする大司教を見るのは断罪見物に勝るとも劣らない爽快感だった。

「あなたたちの企みは終わりよ」

クローデリアが声を張り上げて言った。

その言葉に反応し、グレゴールがこちらを向いた。

「『剣姫』クローデリアか……。おまえ一人であの解呪ができるはずがない」

グレゴールがクローデリアの周囲を見回し、俺と目が合う……かと思ったらすぐ視線を外し、また別のところで止まった。

「『偽りの聖女』エリシア……。おまえがやったんだな……。『剣姫』と『聖女』が繋がっていたとは誤算だった」

一応、俺も少しだけ貢献したと思います。

「仕方がない、改めてやり直すとするか。わしもそう簡単に事が成るとは思っておらんわ」

やり直す? この状況で何を言っているんだ?

もう企みがバレた時点で終わりじゃないか。

まさか死に戻り的なこと?

大司教が一人で死に戻ったところで、この世界線の俺たちは、大司教の企みに勝ったんだ。他の世界線の俺たちのことまで気にすることはないか。

そうだ、俺たちは勝ったんだ。

「大司教は引っ込めー!」

俺が一声上げると、観衆たちが続いて歓声を上げ、大司教への罵声を飛ばした。

そうだ、俺たちはまた皆で悪の断罪をするんだ。それが俺たちが大好きな正義なんだ。

だが、断罪台上で罵声を浴びる大司教は、不気味に笑った。