作品タイトル不明
受付嬢三年目・魔法世界の悪魔
「王を守れ! 騎士と兵士は応戦しろ! なるべく魔法は使うな!」
周りは騎士団長の声を合図に魔物ヘ向けて攻撃を仕掛け始めた。
さっきの光はこちらの魔法の光ではなく、シュテーダルが魔物をこの競技場に放つ際に目くらましとして放ったものだった。
牙の鋭い魔物や小さくてすばしっこい魔物、動物に似た魔物たちが競技場内に次々と押し寄せてくる。
肝心のシュテーダルはというと上空から私達を高みの見物とばかりに見下ろしていた。大口を叩いたわりには積極的でない。
「とりあえず君は制服をしっかりと着て。この際彼女の容体を気にしている暇はないよ」
なんで私が狙われねばならないのだ。
庇われるのは嫌なので、奴に背中を向けて襲ってくる敵をデアラブドスで殴り倒していると、制服を着ろと言われた。
身を守るというのもあるが、どうやら制服を着ていれば魔力を吸われないようで、さらに魔法だって気にせず使えるということになる。とにかく今はこの状況を打破しなければ。
あの制服は頭巾を被るだけでも威力を発揮するようなので、私はそれだけでもヘルドランさんから戻そうと彼女の方を見たけれど、ヘルドランさんにかけていた制服一式はそこから忽然と姿を消していた。
「制服がない……」
「ない?」
「ヘルドランさんに被せてた制服がそのままそっくりなくなってる」
どこに行ったんだ。
この混乱の中誰かの足に引っ掛かったとか、そこらへんに落ちているとかないだろうかと目を凝らして探してみるけれどどうしても見つからない。見つからないものを探していても仕方がないので目の前の魔物に集中するが、ロックマンも舌打ちをしながらもっと早く確保しておくんだったと悔しそうにした。
おそらくあの制服の性能を知ったシュテーダルがあの一瞬の光の中で持ち去ったのだろうと奴は言う。
手際が良すぎて開いた口が塞がらないどころか顎が外れそうだった。
これではヘルドランさんの体調も悪化する一方である。
それにしても何故、まだ試合中のあの時氷型のみ体力を奪われてしまっていたのだろうか。
「伯爵は競技場の外ではなく内側にいたんだろう。それで魔法を使用していた氷型だけを狙ったんだ。あとは恐らく全員の、大陸中の魔力を吸いとっているのはあの上の競技場。あれ自体が魔物と化している可能性がある」
「シュテーダルは氷の力だけがほしいってこと?」
「どうかな。でも魔法を使っているときのみ吸えるということは、何か条件が必要な魔法の類いだ。そうなると魔法陣に近いものが大陸全土に渡り敷かれているのかもしれない」
退魔の魔法陣の逆で、魔物ではなく人間に効くような魔法陣が敷かれている可能性があるとロックマンは言う。
それに各地に出没していた理由がその魔法陣を敷くためのものだとすれば、なくはない話だ。
「今の僕達は水が入ったグラスだ。そのグラスの中に、今どのくらいの水、魔力が入っているのかが問題になる。対するシュテーダルはその水を飲むほうだ」
「無暗に使えば飲まれて空っぽになるってことはわかるけど」
「それにしても、魔法を使わないのはちょっと無理があるか……」
騎士や兵士の人達が何とか剣や棒で戦っているものの、いつもの癖でついつい魔法を使ってしまう人が多い。だからかシュテーダルが言った通り、魔法を使えば使うほど魔力が吸われてしまったのか、一人、また一人と足元から氷漬けになって全身が固まってしまう人達が徐々に出てきた。ヴェスタヌ騎士団の隊服を着た人も、一人凍っているのを見かけた。このままではらちが明かないと魔法陣を敷こうとした私の手を、ロックマンの手が力強く掴んでくる。魔法を使うなということだろうが、一瞬でもこの場所から魔物を排除しなければ状況は変わらない。ロックマンの手を振りほどいてデアラブドスの先を地面につける。退魔の魔法陣を出そうと呪文をとなえて陣が広がっていくのを待った。けれど私の予想とは裏腹に、デアラブドスから魔法陣が出てこない。
「魔法陣もだせないようになってる!? なんなのあの魔物!」
「これも伯爵の知恵かな」
「むかつくぅぅ!!」
あの時ロックマンがあらかじめ張っていた防御の魔法陣が破れたのは、破れたのではなく張れなくなってしまったのかもしれない。
「アルウェス! これ以上魔物が入って来ないように俺が防御膜を張る! とにかく外に出せ!」
「交代で私も張るわよ」
騎士団長と所長が戦闘の中私達の近くまで来て指示を出す。王族の人達はそれぞれ従者や騎士達に守られながら自分達も応戦していた。もはや守られている場合ではないと判断したのだろう。平民も負けじと戦っているが、首を食いちぎられている人も何人かいる。治癒魔法で何とか出来たら良いが、私は治癒魔法が得意ではない。
「やっぱり無理!」
「あっ、こら」
それでも見たままではいられないので、ロックマンから離れて平民で丸腰の人達の中へと入っていった。魔法を使うなというのはやっぱり無理で、半分以上は棍棒で殴り払いながらも急ぎのため氷の蔓を場内に巡らせて、十体ほどの魔物を凍らせ粉々に砕く。
助かったありがとうと周りの人達から言われるけれど、血を流して倒れている人の傍で泣いている女の子が心配で近くに寄って行った。父親なのか、僅かに息があるけれどこれ以上血を流したら死んでしまう。
気休めだが治癒魔法を使ってどうにかしてみるしかない。
「ここは私に任せて大丈夫よ」
「――先生!? いらしてたんですか!」
魔法を使おうとした私の肩を叩いたのは、懐かしい――あの治癒の先生だった。
「観戦にね。観戦どころではなくなってしまったけれど、魔法を使いすぎては駄目よ。防御膜の中にいるからと言って魔力がなくならないってことじゃないらしいわね」
治癒の先生が少し離れたところで凍ってしまった人達の姿を見て顔を歪めた。
「彼が競技場に張ってくれていた防御膜が特別だったのかしら」
ロックマンの防御膜のせいでここにいる人間だけ吸えなかった、みたいなことをシュテーダルは言っていた。けれどそれももう張ることはできない。
さっきよりも凍っている人が多くなっている気がする。騎士団長の防御膜のお蔭で魔物が入って来なくはなったが、依然として中にいる魔物を倒さなくては安全とは言えない。競技場に入ってきた数が尋常ではなかったせいもあるが、とにかく騎士団長も魔法を使い続ければ倒れてしまうことは間違いない。所長も動ける限りでは協力をすると言っていたが、どれだけもつのだろう。幸い破魔士達がいるおかげで徐々に魔物は少なくなってきたが、それもどこまで保てるか。
それからどれだけ時間が経ったのか、最後の一体となった魔物をヴェスタヌの騎士であるボリズリーさんが剣で真っ二つに切り裂くと、辺りは静寂に包まれる。
今が何時かは分からない。
空はいつの間にか赤い色に染まっており、今が夜なのか朝なのかも知ることが出来なかった。