軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受付嬢三年目・魔法世界の悪魔

「団長! もうおやめください!」

「私が代わるわ! しっかりしなさいグロウブ!」

防御膜を張り続けていてくれた騎士団長は、競技場の真ん中で騎士の人に支えられていた。そして身体を横たわらせられると騎士団長の足元が透明の結晶で囲まれていくのが目に入った。

王様やゼノン王子が彼の下へ駆け寄っていく。魔物が中から居なくなるまでずっと魔法を使い続けてくれたのだ。所長は騎士団長の代わりとなって防御膜を張りだす。彼女の周りにもまた、アルケスさんやゾゾさん、観戦に来ていたハリス姉さんが集まっていた。良かった、皆無事だったみたいだ。ただその一方で、膜の外側には中に入れない魔物達が喉を唸らせて私達を狙っている。

「ナナリー!」

「良かった無事でしたのね」

「ニケ! マリス!」

眉根を寄せていると、こちらへ駆け寄ってきたニケとマリスに抱きしめられる。

二人はミスリナ王女を守っていたようで、あとは他の有能な騎士に任せてきたのだと息を切らしながら話していた。

「みんな怪我してない?」

「大丈夫か!」

ベンジャミンにサタナースも無事だったのか、私達を見つけてはホッとしたとばかりに安堵のため息を吐いていた。四人ともこの中にいて良かった。

「何をしている氷型の魔法使い達! 外に出て戦うのだ!」

「お前達の力があの魔物に効くことは事前の情報で分かっている!」

「われらを見殺しにする気か!」

おそらく大臣と呼ばれる王宮の重鎮たちが、騎士に守られながら私達氷の魔法使いを名指しにして膜の外を指さした。氷型の魔法使いと言っても、私の知る氷型の人達はほとんどこの場にいないか、ディーンさんのように倒れてしまっている。誰が氷型なのか見た目だけでは皆判別できないため、直前までロックマンと試合をしていた私に視線が集まった。

「そ、そこの娘を寄越せば我々には手だししないと言っていたではないかっ。一度あの魔物に娘をひき渡し、安全が確保されたうえで態勢を整えたほうがいい!」

高価な衣装に身を包む、髭を伸ばした大臣の一人に指をさされる。

確かにそういう手もあるかもしれないが、それで完璧に安全が確保できるのかは甚だ疑問だ。氷の攻撃が効くというならば、今は一つでもその手を失えない。こうなってしまった以上、もはや確実にあの魔物を倒す手立てを考えた方が得策である。

人質にされる身として意見させてもらおうと一歩踏み出した私だったが、大きな手がそれを引き留めた。私の腕を掴む手の先を見れば、離れていたはずのロックマンがそこにいた。そして少し前へさかのぼったように、私をその背に隠す。

「黙れ。老いぼれが」

奴は大臣達を見て一蹴した。野太く、低い、そして冷血な音を持った声だった。

背を向けられているのでどんな顔をしているのか見えないが、言われた大臣達の顔を見ると怪物にでも襲われたかのような青ざめた表情をしている。ロックマンの声が魔物の鳴き声より恐ろしいものだということはよくわかった。そう、彼らにとっては恐ろしく感じたのだろう。

けれど私のこの、むず痒い気持ちは何だろうか。

「ふざけんな! コイツ一人で行かせようってんならテメェらから動けなくしてやる!」

「ナル君よく言った!」

サタナースとベンジャミンに手を引っ張られ、所長達のいる方へと連れて行かれた。後ろではマリスやニケも大臣たちに食って掛かっているような声が聞こえる。

彼らの言葉に少しだけ涙が出そうになった。ごめんと言うと、どうってことねーよとベンジャミンと笑いながらサタナースが私の頭を小突く。

「俺に一つ提案がある」

遅れてロックマンやニケとマリスがこの場へ来たのを見計らってか、サタナースがそう切り出した。

「あの親玉がいなくならない限り、魔物を倒しても増え続けるだけだ。危険を冒してでも外に出て叩くしかない。そこで――」

「騎士を半分外に出す」

いつの間にかゼノン王子が私達の輪に入っていた。その後ろにはボリズリーさん、ドーラン騎士団の面々が揃っている。

「半分も出しちゃっていいんですか?」

ベンジャミンは目を大きく見開いてゼノン王子の発言に食いついた。

「ここで問答していても時間がない。俺達の体力は確実に減っているんだ。一か八か勝負に出るしか、他に選択肢はない」

ゼノン王子は上にいるシュテーダルを渋い顔で見上げる。騎士団長が倒れた今、指揮をとるのは今年副団長となった彼しかいない。

「僕達が魔法を無暗に使えばアイツは自分の力になると言ったが、ならそれをこっちが勝ればいい」

「でも相手は大陸中の人間の魔力を吸い取っているんでしょう? 私達がそれに勝れますの?」

ロックマンの強気な言葉にマリスがたじろいだ。

「でもそれには、やっぱり氷の魔法使いの協力が必要不可欠だ。まわりの魔物は僕達が引き受けて、その間にシュテーダルへ攻撃をしてもらうしかない」

奴はその中でも唯一確実に攻撃を与えられることが可能と考えられる氷型の人間を、すぐさま集めるように部下に指示している。マリスはロックマンから中で引き続き王女を守るようにと頼まれたため、私たちと別れてこの場から離れた。

その間にも全員使い魔を召喚して移動手段を確保し、私もララの背に再び乗る。

「ナナリー、私の制服を貸してあげるから着なさい」

ララに乗った私の背中にゾゾさんが手をそえる。

「でもそれだとゾゾさんが危ないです!」

「私は中でアルケス達と皆の安全を守ることにするわ。任せたわよ」

ゾゾさんが指を鳴らして、私と服を交換する。

二股の白の短い下衣に、丈の短い靴、袖が長い上衣。ヒラヒラした袖を揺らしてゾゾさんを見れば、彼女は私のワンピースを着ていて、お互いに違和感が拭えないせいか笑ってしまった。

氷の魔法使いを集めると言ったが、ディーンさんヘルドランさんの腰から足先はすでに氷漬けとなっていて、とても動ける状態ではなかった。試合中魔法を使っていた氷型の破魔士たちの体調も思わしくなく、彼らの中で動けそうな者は一人もいなかった。騎士団や兵士の中からは合わせて二人ほどが外に行けそうだとゼノン王子が連れてきてくれたが、集まったのは私を合わせて三人である。何というか、控えめに言っても足りない気がする。

「まぁまぁ、いざって時は守ってあげるから安心しなよ」

「あんたに守られたくないわよ!」

不安げな表情をしたのが悪かったのか、ビビってるの? 大丈夫? とロックマンに馬鹿にされた。ビビってるは余計である。

それでも今できることをするしかないので、競技場の中心に集まって準備を始めた。

「俺は中に残る。彼女に限界が来たら膜を張り直すよ」

ボリズリーさんは、所長が万が一倒れてしまったときのためにと、中に残ることを決める。

「氷型は今三人しかいない。会議で話した通りにはいかなかったが、どうやら最終的には貴女の力にかけるしかないようだ」

私の肩をポンとボリズリーさんが軽く叩いた。

最終的に私の力にかけるとは、随分期待されている気がするけれど、騎士の二人も同じ氷型なのになぜ私だけなのか。

ロックマンにもシュテーダルが狙うのは私だと言われたが、あまり納得ができない。

「お前の魔力は高い。あの魔物が求めるくらい、始祖級と言っても間違いないだろう」

「でもロックマンほど魔力で苦労したとかないですし……あ」

ゼノン王子と話していたら口が滑った。チビになった時のことを誤魔化していたのに、バレてしまったら元も子もない。

ロックマンは特別その発言を気にはしていないのか、ゼノン王子を見ていた。

「気づかないのも無理はないが、あの頃、なぜアルウェスがお前に容赦なく魔法を使っていたかわかるか?」

「学校でですか?」

「普通に考えてみて変だとは思わないか。女を殴り飛ばしたり髪を燃やしたり、貴族に生まれた男がやることじゃない」

「……」

確かにそうだが。

「お前の髪色が変わった時点で、その辺の魔法使いより魔力は高かったろうことは予想できる。正確には器がまだ小さい故に溢れだしてしまっていたから髪や瞳にまで影響が出たんだろうな」

「あの、でもそれは」

「喧嘩であれなんであれ、感情をぶつけるのは暴走を防ぐことにも繋がる。さんざん魔力に悩まされてきたアイツのことだ。今思えば、力をある程度抜いてやっていたんだろう」

だから先生も喧嘩を止めたりしなかったのではないかと、ゼノン王子は懐かしそうに目を細めた。

「何であれ、俺もお前たちの喧嘩を止めなかったのはアイツも楽しそうにしていたからな」

今の会話はロックマンにも聞こえているはず。

「そうなの?」

「なわけないでしょ。誰が好き好んでそんなことをするんだ」

憶測も大概にしろ、とバッサリ否定された。

確かにそうだけど、こいつとやり合うようになったのは魔法型が分かってからだ。それまでの半年ぐらいは嫌みを言うくらいだった。

それが何故か魔法型が判明してからというもの、私の怒りを沸点に到達させては授業中だろうとなんだろうと魔法をぶつけていた。

私はよく怒ったりムカついたりしてもペストクライブを起こしたことがないと思っていたけれど、もしその喧嘩のせいで発散していたのだとしたら……。

いやいやいやそんなまさか。

「こっちを見ないでくれないか気持ちの悪い」

「気持ち悪いって言うな!」

「とにかく、一度に行くぞ。全員いいか」

「オオオー!!」

ゼノン王子の合図で私達は使い魔たちと共に膜の外に出た。