作品タイトル不明
受付嬢三年目編・大会一日目
「万年反抗期性悪二重人格娘」
「はん! よく言うじゃない」
「塞がらないのかなその口」
「この鬼畜金髪冷血外道…」
「よくまぁ口がぱくぱくと動くね。魚もびっくりだよ」
やれやれついに人間をやめたのか、と両腕を組みながら笑われる。
ムカッとするも、私は口喧嘩だけに留めた。
年頃の女に向かって「随分老けたね」なんて喧嘩を売っているも同然である。貴族女子達ほどではないものの、頬をうっすらと赤らめているヴェスタヌの女性騎士二人には、ボリズリーさんのほうが数倍かっこいいですよと言ってあげたいくらいだ。ボリズリーさんもなかなかの男前なので、やだ良い男が二人もどっちにしようかしら、と先輩がもう受付に誰も来ていないのを良いことに勝手に何かを妄想しはじめている。
黒い騎士服に身を包んだロックマンは、ちょうど登録表に名前を書いていたのか手に筆を持っていた。
ボリズリーさんに話しかけられたならそっちだけに集中すれば良いものを、何故わざわざ悪口を言われなくてはならないのか。実に理不尽である。
ロックマンの後ろには見たことのある騎士の人や、いつも彼に付いている彼女、ウェルディさんがいた。他にも女性が一人いる。
「貴女こんなところでも仕事してるのね。出張なの?」
「はい。出張みたいなものです」
「それにしてももうちょっと隊長に敬意ってものをはらえないのかしら」
「それはちょっと」
もう私がロックマンに何を言おうと気にしていないのか、彼女に怒られることはない。相変わらず失礼な方だこと、とチクリと言葉を刺されたが前ほどではなかった。どうやらウェルディさんも大会に参加するようである。
「女性に老けてるなんて、アルウェスは失礼だな。ね、お嬢さん」
「え、ええ」
「でもなるほど、貴女が……そうか」
変装していた、とボリズリーさんは言うが、もしかしてオルキニスの事件の時のことを言っているのかもしれない。
私の顔を見ては関心深げに指先で顎をなでている。
あの時はヴェスタヌの騎士団とも協力をしていたというから、ロックマンが私に変身している姿を見たことがあるのだろう。
受付はもうこの二組で終わりなので、話もそこそこに早く終わりにしてほしい。
ああでも、百選で選ばれているボリズリーさんを生で見れる良い機会だから、少しくらいいいかも……なんて考えは捨てておくことにしよう。
頬をぺちぺちと叩いて仕事へ気を取り戻す。ここが終わったら私は元の場所に行かなくては。
「ララ、大きくなれる?」
「あちらへ戻りますか?」
「うん」
正午の鐘もなり登録も終了したので、彼等ヴェスタヌの騎士団には中への案内を簡潔にしたのち、受付台を綺麗に片付けて閉めきった。
「ドーランはその六人でくるか。グロウブ団長は出ないのかい?」
「観戦が良いって言ってたよ。それよりそちらの女性陣は初めて見る顔だけど、紹介してくれる?」
「アルウェス隊長! 私達がいるんですから紹介なんて必要ありません!」
「そうですよ!」
けれど二組は中々中へ入って行かず、世間話なら競技者控え席ですれば良いのにしばらくそこにいた。
ロックマンは自分を見ている二人の女性の視線に気づいたのか、紹介してくれなどとウェルディさん達の前で言うものなので彼女達はたいそうご立腹である。騎士団の男性の他の面々はその様子を羨ましそうに見つめていた。わからないけど痛いほど伝わるその気持ち。
式典まではあと三十分くらいあるし、絶対に参加しなくてはいけない決まりはないからそこにずっといても構いはしないけれど、とヴェスタヌの登録表を箱に入れようと席を立つ。
「待って。水色髪のお嬢さん、今夜お食事でもどうでしょう」
「私ですか?」
登録表を片手に持ったまま、変な体勢で動きを止めた。まだ肩に乗っていたララがキュッと鳴く。
さっきまでロックマンと話していたボリズリーさんが、腰を屈めて私の顔を覗いてきたのだ。
うわ、と私はびっくりして数歩後ろに下がってしまう。
「失礼、私はサレンジャ・ボリズリーと言うんだが、お嬢さんの名前は?」
「ナナリー・ヘルと申しますが……」
「いやぁ、久しぶりに心踊るような女性を見つけたよ。アルウェスへの啖呵といい、あの威勢の良さ。貴女みたいな人は見たことがない」
これはたぶん褒められてはいない。
「そ、そうですか。ですが私はちょっと、夜は違う用があるので、ごめんなさい」
頭を下げて、そそくさと隣にいる先輩の所に行く。逃げられちゃったなと残念がっているのか面白がっているような声が聞こえたが、どちらにせよあのボリズリーさんからの誘いは畏れ多くて食事にもならないだろうことが目に見えている。
あとなんだろう、ロックマンと同じ匂いを感じる。
「ナナリーいいの? 食事くらい行ってきたら?」
「何言ってるんですか。先輩達と食べに行くほうがいいです。というか今日一緒に食べる約束したじゃないですか。酷い」
「やぁね忘れてるわけないじゃな~い」
「箱に登録表入れるのでいいですか? これが最後なので」
「最後は騎士団ばかりだったわね。裁判院の人の方にも一組シーラの騎士団がいたわ」
「そうなんで……?」
箱に入れる前に、すでにその中に入っていた登録表を眺めていると、ある一点の個所に目が止まる。
喋りかけて止まった私の様子を不思議がって、先輩がどうしたの? 何か間違いでもあった? と登録表に不備があるのを心配してか肩に手を置かれた。
「アーランド記三六四四年、花の季節二月目と六日……?」
「隊長さんの生年月日がどうかしたの?」
「三六六八から二十引いたとして残りの年数は――四?」
ドーラン王国騎士団の登録表を手に取り、彼等のいるところへ急いで駆け寄る。
「あんたコレ間違ってるけど」
「何が?」
「二十四歳ってなってるから」
まだ話しこんでいたロックマンの背中を問答無用で叩いた。同時に騎士団の面々が見てきて居心地が心底悪くなったが、初歩的な間違いを正してやった私をありがたく思うといい。
けれどそう言った途端、ゲ、といつかの私のように蛙が潰れたような声を奴が出した。
「げ?」
「いや」
意識せず思わずそれが出てしまったのか、すぐに口に手を当てて咳こんだようにごほんと喉を鳴らす。
なんだ今のは。