作品タイトル不明
受付嬢三年目編・大会一日目
ドーランの快晴日数は他国よりも比較的多く、雨の日は年間を通して少ない。
作物が育つのには雨も必要なのであまりいいことではないのだけど、何か特別な行事やお祭りがあるときは障害もなくありがたいので、やはり晴れの日は好きだ。
雨には特別な成分が含まれているそうで、魔法使い達が出す水とは全く違う。
その成分には植物や土を元気にする、成長剤のような役割があるそうで、干上った畑に魔法で出した水を撒いても、ただ濡れるだけで意味はないのらしい。
しかし水の魔法使いと地の魔法使いの魔法を組み合わせた特別な水は、その成分を見事に再現することが出来るらしく、しばしば市場や雑貨店で大きめの瓶に入って売っているのを見かける。
そう言えば西の山は水の魔法使いが管理していると聞いたことがあるが、そういうことも含めて任されているのだろう。
さて雨談義はここまでにして仕事の話に戻る。
今日も晴天に恵まれたドーランの青空の下、競技場の島には大陸中から人々が押し寄せていた。
観客から貴族から破魔士まで、さまざまな人種が入り乱れている。
花の王国といわれているのを知ってか知らずか、石と煉瓦と鉄で作り上げられたこの島には、その無機質な感じを打ち消そうとしたのか、地の魔法使いが咲かせたらしき花や植物がいたるところから生えていた。
まだ花の季節じゃないのに花の季節みたいで変な感じがする。
「あそこ、抜けたとこー!」
「はい」
ララの背中に乗って、天井の無いコロッセウムの上を通過していく。
観客席の五階まではほぼ埋め尽くされていて、今日の式典だけでこんな風になるのならば、明日はどれだけの人が来るのだろうと苦笑いになる。
どうかあぶれる人が出ずに無事に入りきりますように。
競技場を通過して反対側に辿り着いた。
ララの背中から飛び降りて、彼女には手のひらくらいの大きさになってもらう。肩に乗っててもらおう。
こっちの受付はまだまだ人であふれていた。
参加者の受付は今日の正午まで。大聖の鐘が鳴るまでとなる。
あと三時間を切ったが、まだまだ参加者希望の六人組は来るだろう。
「だぁから、あと一人は遅れてるんだって」
「六名揃ってからでないと登録は出来ないので、揃ってからお願いします」
「氷型の方はどちらになりますか?」
「俺が氷型だ!」
「セーメイオンの呪文をお願いします」
「……」
三列の長い行列をしばし眺める。
大会においての受付は二種類あり、一つは私がさっきまでやっていたものと、もう一つ参加者を受け付けるもの。
人数を多く受け付けるのはもちろん観客用の方ではあるのだが、ひと癖もふた癖もありそうなのはどうやらこっちの受付なようだ。
六人揃ってからが基本だというのに足りない状態で意地でも通そうとする組や、氷型ではないのに嘘をついて参加しようとする魔法使いなど、どちらにせよ受け付けられない組が三割はいる様子。
良い大人なのだからいい加減諦めたらどうかと思うが、この五年これに出るのが夢で必死に頑張ったんだと力説している偽氷男が泣いているのを見ると、五人でも出させてあげたらいいのではと思わなくもないが、決まりごとは守らなくてはいけないので先輩がべしっと蹴散らしている。さすがだ。
そもそも五年も頑張ったのに、当日に嘘をついて氷型を名乗るとは何事か。
頑張る方向を間違えているだろう。誰か気づかせてあげてくれ。
「ああよかったナナリー! あなたそっちで登録受付お願いできる?」
「分かりました!」
順番で詰まっていた後列の方に声を掛け、空いている台に登録表を置いて席に着く。
参加者を対象に行うことは三つ。
六人いるかどうか。
セーメイオンを発動してもらい、本当に六人別々の型であるのかどうか。
名前、生年月日の記入。
大会に参加出来るのは十八歳以上の大人、つまり成人を迎えている男女に限られている為、この署名は必須。
登録表に書かれた情報はのちに対戦を組むことにおいても使われるし、自動的に魔法契約書にもなっているので、十八歳未満なのに偽りの年齢を記入すれば、対戦表にも組まれない。
また十八歳以上であっても年齢を誤魔化そうとすれば同じことになる。
先輩や王国裁判院の人達がテキパキと厄介な参加者たち相手に捌いているのを横目に、新しく出来た列の受付を私も始めた。
「組名は『ロストアバンティオ』ですね」
「ああ!」
「左から順にセーメイオンの呪文をお願いします」
六人が受付台の前で横並びになり、片手を私に向けて差し出す。
左から順に呪文が唱えられていけば、見事に六人の型は別々。
ありがとうございますとお礼を述べたあとは、登録表を差し出してそれぞれ自分の名前を記入してもらい、年齢と型も書いてもらう。
「では登録されましたので、奥にお進みください。私の後ろにある入り口から一階の競技者控え席の方に繋がっています。混みあいますので、奥の方から詰めて席に座ってください。これが案内図になります」
「やった! ありがとうお姉さん!」
「行って来まーす!」
元気よく手を振り中へと入っていく彼等を見届けて、次の組、またその次の組、と登録をしていく。
幸いズルをしようとする人もおらず、ただ、人数が足りていないけど参加はできますか? と聞いてくる組が多かった。
氷型がいないんですと泣きそうな目で訴えられるも、決まりならやっぱりしょうがないかと諦めて帰っていく人がほとんどである。
そんなにも氷がいないのかと、隣の受付台との間に置いてある箱の中に処理された登録表を入れているので、そこをチラと覗いて確認してみれば、未だ箱の三分の一も満たされてはいなかった。だいたい50組というところだろう。
大陸中から参加者が来ているわりには少ない。
それから終盤に差し掛かり、私の列にはあと三組ほどしか並んでいなかった。
一つ隣の裁判院の人が担当しているところでは、つい先程までハーレ魔導所の組が登録をしていた。
アルケスさんが寝坊してしまったらしく、時間ギリギリで焦ったのだとゾゾさんが彼を小突きながら呆れていた。やる気が全く感じられないのよと同じく大会に出る別の先輩からも叱咤されていたのを思い出す。
女四人の男二で肩身が狭いのか、後ろの入り口に入って行くときに「すいません」とアルケスさんのほうが年上なのに小さな声で謝っていた。いつもの威厳とだらしなさはどこに行ったのか。
サタナース達の姿も見られなかったけれど、私がくる前にもう終わっていたのかもしれない。
「組名は『ヴェスタヌ騎士団』ですね」
気を取り直して、次の組と向き合う。
ぞろぞろと緑色の騎士服を着用した男女混合の六人組。セーメイオンをしてもらい登録表に記入してもらった組名を読み上げて、改めて彼等を見る。
「ありがとう――…おっと? お嬢さん、見たことあるなぁ」
「はい?」
黄土色の髪をした男の人にそう言われる。どこかで会ったことがあるのだろうかと思い登録表を再度確認してみれば、名前は……ボリズリー?
登録表に書かれた名前を見て、目を丸くする。
ヴェスタヌの騎士団。ボリズリー。
そこまで名乗られればもうじゅうぶんこの人が誰なのか分かる。
現代の崇高なる百選にまた今年も選ばれた、超超超凄い魔法使いだ。
口をパクパクさせて驚いている私を見て何を思ったのかボリズリーさんは、ああ、とひらめいたような声をあげて隣の受付を見る。
「アルウェスがしていた変装じゃないか?」
ボリズリーさんは私から向かって右側、先輩が今受け付けている集団に顔を向けて声をかけた。
今日は一つだけ良いことがあった。
いつもなら訳のわからない確率で遭遇し、あまつさえ関わりたくもないのに何がそうさせるのか何かと接触することが多く、こういう場では何故か必ずと言っていいほど私の列に並んでいそうだった奴が、今日は見事に私から反れて隣の受付で登録を行っていたのだ。別に自意識過剰でもなく本当にこういう時の遭遇率が高かったので、不覚にも見かけた時は仕事中だというのに拳を膝の上で握って歓喜したくらいである。
だからこのままこの騎士団の登録が終わればさっさとこの場をあとにして元の観客受付まで戻ろうとしていたのに。
なんで、なんでなの。
なんで声をかけるんだ。
「半年ぶりに見たけど随分老けたんじゃない? 君」
「くたばれ万年色ボケ極悪猫被りド変態野郎」
隣で登録をしていたドーラン王騎士団の集団に地団駄を踏みたくなった。