作品タイトル不明
96話 ザックの失敗、本物勇者に完全敗北
テイマーのエレンに復讐心を燃やす、魔王軍幹部となった【嫉妬】のザック。
深夜。
彼がやってきたのは、エレンが拠点としているという、とある屋敷だ。
どうやらエレンに協力する魔族がいるらしい。
「見てろよエレぇン、てめえに地獄を見せてやるぜ……」
ザックは屋敷の裏に広がる森にいる。
木陰から顔を出し、屋敷の様子を見やる。
すでにエレンが眠っていることは、調査済みだ。
がちゃり、と屋敷の扉が開くと、誰かが出てくる。
「アスナぁ……相変わらず、いい女だなぁ……」
くくく、とザックが邪悪に笑う。
先ほど、彼女を呼び出したのだ。
嫉妬の権能、それは相手の姿形、能力までをも完璧にコピーする。
エレンの姿になってアスナの部屋へ行き、彼女に話があるといって、深夜に呼び出した次第だ。
「今からエレンの姿で近づいて、あの女を思う存分犯してやるぜぇ~……」
下卑た嗤いを浮かべながら、ザックは舌なめずりする。
「アスナぁ~……ああ、アスナぁ~……ようやくお前をおれのものにできるんだなぁ~……いひっ、いひひひひひっ!」
ザックは幼い頃から、アスナに懸想していた。
しかし突如現れたテイマーの少年に彼女を奪われてしまったのだ。
嫉妬の権能を使って、ザックはエレンへと変化する。
「この姿でてめぇを陵辱すれば、エレンへの好感度は駄々下がりだ! くくく……エレン、おれをコケにしたつけ、払ってもらうぜぇ~」
エレンが絶対にしないような邪悪な笑みを浮かべる。
「このおれのコピー能力は完璧だ! 絶対にバレるわけがねえ!」
「エレン? どこにいるの?」
アスナがキョロキョロと、少年を探している。
ザックはエレンの姿で、木の陰から躍り出る。
「ここだよ、アスナさん!」
ザックはニコニコしながら、アスナに近づく。
彼女は薄着だった。
見事な大きさの乳房を見て、ごくりと生唾を飲む。
脳内でこれから起こることを想像し、怪しい笑みを浮かべた。
「遅いじゃないか、何してたの?」
「……ちょっと、準備にね。それでエレン、なんのようかしら?」
完全にアスナは、今のザックをエレンと思い込んでいる様子だ。
内心でバカめ! とザックが馬鹿にする。
「あっちの森で魔族を見つけたんだ。一緒に殺すの手伝ってよ!」
「ふぅん……。どんな魔族だったの?」
「え……? っと、し、知らないよ! 魔族は悪! 皆殺しにしないとでしょ!」
何でそんな質問するのか疑問に思いながらも、エレンらしい回答をする。
彼は勇者で正義感が強い。
ならば魔族という悪を放っておくはずがない。
「……そう」
「さっ、いこうアスナさん!」
ザックが森へ行こうと、きびすを返した……そのときだ。
「あなただけが行きなさい」
「え……?」
ザシュッ……! とザックは背中に、鋭い痛みが走る。
「なっ!?」
振り返って、驚愕の表情を浮かべる。
アスナの手には剣が握られていた。
たった今、彼女はエレン(ザック)を斬りつけたのである。
「な、なにするのさ……アスナさん」
「気色悪い演技はやめなさい、外道! あなたはエレンじゃない!」
ザックは目を大きくむく。
「せやぁああああああ!」
超高速でアスナが接近してくる。
振り下ろされた剣を紙一重でなんとか回避し、ザックは距離を取る。
「ば、バカな……!? おれの変装は完璧なはず……なぜバレたんだ!?」
「確かに、声も姿もエレンそっくりよ。……けどね、バレバレ」
「なぜだ!?」
「だってあなたの魂が、とてつもなく汚れているから」
がつんっ、とハンマーで頭を殴られたような衝撃が走る。
「魂が……汚れてる……?」
「優しいエレンは、肌寒い季節の深夜に、女の子を呼び出したりなんて絶対にしないわ」
そう、勇者の彼は気遣いのできる男だ。
常に相手を思いやる、清い心の持ち主である。
一方でザックは、自分の罠にアスナをはめることばかり考えていた。
つまり、自分本位だった。
「それに あの子(エレン) は魔族の中にも善悪が存在することを知っている。……見た目はそっくりまねたつもりでしょうけど、あなたの言動は、すべて嘘っぱちよ!」
完璧な変装がバレ、ザックは動揺する。
「わたしのエレンを侮辱するのもいい加減になさい!」
ブチッ……! と血管が切れた音がする。
「わたしのエレン……だとぉおおおおおおおおおおお!」
体に纏っていた泥がこぼれ落ちて、ザックの姿があらわになる。
「! あなたは……ザック!」
「あんなやつのどこが良いって言うんだぁあああああああああ!」
泥は体積を爆発的に増やすと、無数の触手となってアスナに襲いかかる。
「なんて速い攻撃! それにこの数……さばききれない!」
超高速の斬撃で切り払うものの、触手の数が多すぎた。
ほどなくして、アスナは触手に捕縛されてしまう。
「くっ……!」
「ぐひゃひゃひゃひゃぁあ! あーすなぁー! 捕まっちまったなぁ……!」
触手を操って、彼女をザックの前に持ってくる。
彼女の服を掴むと、乱暴に引き裂く。
「ひっ……!」
「助けを呼んでみるかぁ? いいぜぇ? ただしこの姿を見たエレンくんは、どう思うかなぁ? 愛しのアスナさんが他の男と夜中に密会して! 肌をさらしてる姿を見てよぉ……!」
「なんて……卑劣なの! あなたは!」
「ひひひっ! 卑劣で結構だよぉ~? さぁ、ショータイムだ……今からてめえの初めてをもらうぜぇ~?」
触手が粘液を垂らしながら、アスナの体を這いずり回る。
「ひゃははっ! エレぇン! アスナの処女をもらうのは……このおれだぁ!」
そのときだった。
「そこまでだ!」
触手が一瞬にして灰になる。
触手に捕縛されていた彼女を、誰かが空中でキャッチした。
「てめえは!」「エレン!」
アスナは感極まった表情で、愛しい彼にギュッと抱きつく。
「エレン! エレン! 怖かった……!」
「大丈夫だよ、アスナさんっ。ぼくが、倒すから」
エレンは距離を取って、アスナを下ろす。
聖なる純白の剣を手に、ザックに相対する。
「ザック……どうしてここに?」
「決まってるだろぉ! 復讐だぁあ!」
触手を泥に変えて、身に纏う。
嫉妬の権能で、勇者エレンの姿へと変貌する。
「どぉだエレン! 見ろよこの力!」
彼の手には、エレンと同じ聖なる剣が握られている。
「相手の姿能力を完全コピー! これが嫉妬の権能の力だよぉ!」
血走った目でエレン達を見やる。
同じ姿形をしているけれど、まったく違う人のようだった。
「……あなたが、最近ぼくの姿で悪事を働いている、偽勇者なんだね、ザック」
ザックは鉱山奴隷を殺したように、各地で捕虜となっていた人間達を殺して回っていた。
そのウワサは、本物の勇者のもとにも届いていたのだ。
「そうだぁ! みーんなこの姿に騙されてよぉ、そいつらを殺すのはスカッとしたぜぇ!」
「……あなたは、魔に身も心も明け渡してしまったんだね」
エレンは聖剣をザックに向けて、敵意を込めていう。
「魔王軍幹部……嫉妬のザック! 勇者エレンが成敗する!」
「やって見やがれ! バカ勇者ぁあああああああああ!」
ダンッ……! とザックは地を蹴る。
超高速でエレンの周りを走って、翻弄する。
「どぉおおおおだぁああああ! 今のおれは身体能力も、スキルも! てめえ並みに強いんだよぉ!」
聖剣を構えて、エレンに斬りかかる。
キンッ……! と彼は剣で受ける。
「そぉら! 喰らえぇええええ!」
目にもとまらぬ斬撃を、しかしエレンは全て弾く。
「くっ! このぉお!」
何度打ち込んでも、全部剣で防がれる。
エレンはザックの動きを、完全に見切っていた。
「なぜだぁ! 今のおれはてめえと同じ強さなんだぞぉ!」
『愚か者め』
不死鳥カレンの声が響く。
『姿形は似ていようと、真に精霊に愛されているのはエレンただ一人。本物に精霊が力を貸している以上、力に差が出て当然じゃ、わかったか贋作』
「く、そがぁあああああ! 死ね! 【 不死鳥の火矢(フェニックス・アロー) 】!」
ザックの体から炎が噴出し、それは炎の矢となって射出される。
エレンは冷静に右手を前に出す。
「【 不死鳥の火矢(フェニックス・アロー) 】!」
勇者の出した炎の矢は、ザックのそれの何百倍も大きかった。
相手の矢を飲み込んで、そのままザックの体を焼く。
「ほぎゃぁああああああああああ!」
熱さと痛みで、ザックが無様に地面を転がる。
聖なる炎が、悪鬼となったザックの皮膚を焼く。
「痛えよォ……! いてえよぉおおおお!」
情けない悲鳴を上げるザック。
『姿をいかに似せようと、エレンの持つ清らかな魂まではマネできなかったようじゃな。本物と偽物のどちらが優れているかなんて、明白じゃ。この、汚い魂を持った、贋作の勇者が』
「ぢぐじょぉ~……ぢぐしょぉお~……!」
窮地を脱したアスナは、エレンの体にギュッと抱きつく。
「エレン……ありがとう。とってもかっこよかったわ」
目を潤ませて、アスナはエレンの頬にチュッ……とキスをする。
「優しいあなたが、大好きよ、エレン。……人間的な意味じゃなくて、女の子としてね」
エレンは顔を真っ赤にして、わたわたと慌てる。
「そ、そんなぁ~……アスナぁ~……アスナぁ~……」
炎に焼かれたザックの体は、ボロボロと崩れていく。
だが彼女はこちらに一瞥も向けない。
その目は愛しの彼しか映っていない。
「ちくしょぉ~……ちくしょぉおおお……」
勇者を完全にまねたはずだったのに、力でも負け、女も取られた。
同じ能力を持っていても、 本物(エレン) と 贋作(ザック) では、決定的な違いがあったのだ。
「くそぉ……ちくしょぉお……」
薄れゆく意識の中、幸せそうなふたりを見て、ザックは一人寂しく灰になるのだった。
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やはり本物は違うね! さっすがエレンだよ!
……さて。
恐れ多くもエレンの偽物を騙った愚かものには、ペナルティが必要だね。
まさか、これで死ねると思うなよ?
愚かな贋作の勇者……ザックくん?
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