作品タイトル不明
95話 【嫉妬】のザック
テイマーのエレンが、プライドを撃退した2週間後。
魔界にある、鉱山にて。
魔族にとらわれていた人間たちが、鉱山奴隷として、強制労働させられていた。
「聞いたか、新しい勇者様のうわさを!」
「ああ! たいそう強いお人なんだってな!」
奴隷となって働かされているはずの人間たちは、みな明るい表情を浮かべている。
「魔界に来た勇者様は、魔王討伐の旅をしながら、各地でとらわれている人間達を解放しているらしいぜ!」
「きっとおれたちのことも助けてくれる……いや、絶対助けに来てくれるさ!」
奴隷となった人間達は、死ぬまでキツい肉体労働を強いられる。
彼らの表情はずっと曇ったままだった。
しかし突如として現れた、勇者エレンの存在が、彼らに希望をもたらした。
と、そのときだった。
「てめえら! なにくっちゃベってやがるんだ!」
子爵級魔族が、鞭を持って鉱山奴隷達のもとへとやってくる。
「口じゃなくて手を動かせボケどもが!」
バシッ……! と鞭で奴隷達をたたく。
いつもなら、こんな日々がずっと続くのかと、奴隷達はみな暗い目をしていたはず。
だが今の彼らの目は、いつか勇者が救い出してくれるはず……という明るい未来を見据えていた。
「なんだその反抗的な目はぁ……!」
奴隷の態度が気に入らなかったのか、子爵級が鞭を振り上げる。
魔法で電流を流し、その鞭を振り下ろそうとする。
ザンッ……! とその鞭を誰かが切り捨てた。
「あっ、あなたは!?」
そこにいたのは、白い剣を持った、小柄な少年だ。
「あの剣は……聖なる剣! つまり、この御方が勇者エレン様だ!」
おおっ……! と鉱山奴隷達の目が輝く。
勇者の持つ聖なる純白の剣のことは、広く知れ渡っているのだ。
「ゆ、勇者だとぉ……! くそっ! 聞いてないぞ……!」
子爵級は大いに焦るが、勇者の姿を見て撤退する。
「勇者様! おれたちを助けに来てくださったんですね!」
「…………」
奴隷達が救いを求めて、勇者に集まってくる。
「子爵級魔族を追い払ってくださりありがとうございます!」
奴隷の一人が、勇者の手を掴んで、涙を流した……そのときだ。
ボトッ……!
「…………へ?」
目を丸くする奴隷、その視線の先には……自分の腕が落ちていた。
「へ? ……ぎ、ぎやぁああああああ! 腕が! おれの腕がぁあああ!」
切断された腕を押さえて、のたうち回る彼を、他の奴隷達が戸惑った表情で見やる。
「な、何が起きたんだ……?」
「まさか他に魔族が!? 勇者様たすけて!」
だがすがりつこうとした奴隷の腕も、瞬時に切り飛ばされる。
勇者の持つ、聖なる剣に、血がポタポタ……とたれた。
「ゆ、勇者様!? なにをなさっているんですか!?」
だが少年は無言で、剣を振るう。
その圧倒的な力を持って、その場にいた全員を無残に切り刻んだ。
「うう……どうして……」「勇者様……なんで……」
がくんっ、と奴隷達が倒れ伏す。
「ぷ……ぷすすす! ぷぎゃーーーーはっはっはぁあああああああ!」
勇者の顔が醜く歪む。
否……どろり、と溶けたチョコレートのように顔がゆがみ、ボタボタと地面に落ちる。
泥は顔だけでなく、体全身からボタボタとこぼれ落ちる。
そして、表層の泥が流れ落ちると、そこに立っていたのは……狂気の笑みを浮かべた男。
「見たかこの! 魔王軍幹部【嫉妬のザック】様の力はぁあああああああ!」
そう、かつてエレンのパーティのリーダーだった男、ザックだった。
「ぐひゃひゃひゃひゃぁ! やっぱすげえぜ! この【嫉妬】の権能はよぉお!」
ザックは倒れ伏す奴隷の山を見て邪悪に笑う。
「対象となる人物の今の姿! 強さをそのままコピーできるんだからよぉおお!」
背後から、子爵級の魔族が現れる。
「あ、あのぉ……あなた様は、幹部のかたですか?」
彼はふふんっ、と胸を張って言う。
「そう! 魔王様より嫉妬の力を見込まれて、特別な能力を与えられた新幹部・ザック様だ!」
「そ、そうだったのですね……大変失礼しました。しかし、ザック様」
「あー……? なんだよ?」
「鉱山奴隷を皆殺しにされては、困ります。採掘作業を行う人員が……」
チッ、とザックは舌打ちをする。
地面に落ちていた泥が、ミミズのように動き出す。
ザックの腕を覆うと、勇者の腕と聖剣に変わった。
「オラァ……!」
ザシュッ、とザックは聖剣で子爵級を切り捨てる。
「ざ、ザック様……な、なにを……?」
「おれに命令するんじゃあねえ! 死ね! 魔族! 死ねぇえええええ!」
聖なる剣で切り刻まれ、子爵級はあっという間に絶命する。
「ぶひゃひゃひゃひゃ! やっぱいいぜぇこの力! ムカつくやつを皆殺しにできるんだからよぉお!」
と、そのときだった。
「くすくす、かっこいいわぁ……ザックぅ~……」
鉱山の入り口に、妖艶な雰囲気を放つ【エルフの女性】が立っていた。
エルフ女は豊満な体つきを、黒衣で包んでいる。
「【 色欲(ラスト) 】! 見てたのかぁ……?」
「ええ、ザックぅ……ちゃあんと見ていたわぁ。あなた、とぉっても、す・て・き」
魔王軍幹部のひとり、色欲のラスト。
彼女のもとに、ザックがやってくると、ふたりは熱い抱擁と口づけをかわす。
「ラスト……あんたにゃ感謝してるんだぜぇ~? 牢屋で腐っていくだけのおれを、救ってくれて、しかも力まで授けてくれたんだからよぉ~」
ザックは以前、大量の蟻モンスターを解き放った罪で、牢屋に投獄されていたのだ。
牢屋に閉じ込められ、エレンの八面六臂の大活躍を耳にしながら、激しい嫉妬の炎にあぶられていた。
そのとき、この美しいラストがやってきて、ザックに手を差し伸べたのである。
「気にしないでザック。あなたには嫉妬の力を制御するだけの才能があった。あなたは選ばれた男なのよ」
耳元でラストにささやかれ、ザックは気色の悪い笑みを浮かべる。
「そうだ……おれは! おれは選ばれた男なんだぁ!」
……もっとも、魔王にとって、都合のいい人形に選ばれただけなのだが。
「さぁ、一緒にエレンを倒しましょう」
「ああ! あのムカつくガキに復讐してやるぇえええええええ!」
ラストはザックを抱きしめながら、邪悪に笑う。
「……アンタのこと、利用させてもらうわよザック。エレン……それにティナ、覚えておきなさいよ……!」
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ま、そんなこと、僕が許さないんだけどね。
しかしこのゴミども、まだ生きてたんだ。
しぶとい羽虫だね。
ま、僕のエレンに害をなそうとするものには、全員ペナルティって相場が決まっているから。
悪いけど、君らの復讐は果たせないよ。
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