軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

94話 プライド、逃亡者を逃がして制裁

テイマーのエレンが、幹部のプライドを撃退した、数日後。

魔界に存在する、地下の収容所にて。

ここは逃亡を図ったものたちが、集められている。

地下の監獄のような場所だ。

巨大な縦穴の壁には、無数の牢屋がある。

そこに魔族達が収容されていた。

「起きろクズども! トレーニングの時間だ!」

プライドが声を張り上げると、牢屋の扉が開く。

のろのろとした足取りで、彼らは縦穴の中央に集められる。

「新人もいるようだから貴様らに説明してやる! おれはおまえら貧弱で軟弱なゴミ魔族どもを立派な戦士へと鍛え上げるために、わざわざ時間を割いてやっているのだ!」

プライドは逃亡者たちを見回す。

「てめえらみたいなひ弱なモヤシどもは本来生きてる価値もないゴミ! 魔王様からも処分していいと言われている! てめえら死にたくなきゃ、文字通り必死になってトレーニングに励み、一人前の戦士になるんだ! いいな!?」

「「「…………」」」

「返事をしろクズども!」

プライドは集めた逃亡者のひとりに、鉄拳制裁を加える。

「さぁ! 今日はまず腕立て伏せ10000回だ!」

さぁ……と逃亡者たちの顔色が青くなる。

「そ、そんな……」「10000回なんてできっこない……」

集められているのは、下級の魔族ばかりだ。

彼らは人間よりパワーがあるものの、それでも10000回もの腕立て伏せなんてできるはずもない。

「なんだその情けないツラは!」

逃亡者の一人を、プライドがまた殴りつける。

「いいか!? できないとか弱音をほざいているからできないのだ! そんな腐った根性をしているから逃亡なんてバカなことをするのだ!」

フンッ! とプライドは逃亡者たちを見回して蔑んだ目を向ける。

「やれといったらやれ! やらないなら今この場で殺す! できなくても殺す!」

「「「そんなぁ……」」」

理不尽な仕打ちに涙を流しながらも、しかし逃亡者達は必死になって、体力トレーニングをする。

無論10000回などできるはずもなく、数十分後にはみな倒れ伏す。

「何勝手に寝ているクズどもが!」

プライドは殴る蹴るの暴行を加える。

「誰が休んでいいと言った!? 逃亡者のクズに休みなど不要! 休む暇があるなら1回でも多く腕立て伏せをして自分を鍛えろ!」

「う……ぐす……無理ですよぉ~……」

魔族の一人が、情けない声を上げながら涙を流す。

「あぁ!? 泣き言言ってるんじゃあねえぞごらぁ!」

プライドは彼に近づいて、頭をぐしゃっと踏みつける。

「おら! おら! 腕立てやれ! やるんだよぉ!」

まるで憂さ晴らしをするかのように、プライドが魔族を踏みつける。

……事実、ストレスを発散していた。

プライドは先日のエレンとの戦闘で、完全に敗北した。

強力な一撃を受け、塵になったプライド。

しかし寸前にゲートが開いて、かろうじて生き残ったのだ。

プライドは敵前逃亡の事実を魔王に伏せている。

報告すればどんな制裁を喰らうかわからないからだ。

まさか、逃亡者を取り仕切っている自分が、逃亡したなんて……言えるわけがない。

「あのクソガキ! 今度会ったらぎったんぎったんにしてやる!」

「ぷ、プライド様……もうおやめください!」

「彼はもう……死んでおります……」

踏みつけすぎたせいで、逃亡者の一人が死亡していた。

頭が完全に潰れて、ぴくりとも動いていなかった。

「見ろ! この脆弱さを! とても魔族とは思えんなァ……!」

魔族一人を殺したというのに、プライドは何の悪びれもないように言う。

「たかが踏まれただけで死ぬとは! なんたる脆弱! なんたる虚弱! まるで虫けらのようじゃあないか! こんな風にはなりたくないものだなぁ! がははははっ!」

すると逃亡者のひとりが、仲間の死に涙を流す。

「ひどい……あんまりだ……」

「酷いものか! こいつが弱いのがいけないのだ!」

「弱いことは……そんなに悪いことなのですかッ!」

そんな逃亡者を、プライドはフンッ……! と小馬鹿にしたように言う。

「そうだ! 弱さは罪だ! 我ら魔族は力持つもの! 力なき存在はゴミクズ当然! いいかバカども! よぉく聞けぇ!」

事切れた死体を、プライドが何度も踏みつける。

「力こそ正義! 力なき魔族に価値はない! こいつのように死にたくなくば、必死で鍛えるのだ!」

逃亡者の魔族達は、プライドに反抗しようとするが……しかし、できない。

彼らが弱いことは厳然たる事実。

魔族が弱肉強食の社会であることもまた然り。

「さぁ……! 腕立て伏せの次は【大岩持ち上げ】だ!」

縦穴にはいくつも、巨大な岩石がおいてある。

それらは自分たちの10倍もの大きさの岩だった。

「む、無理です……こんなの持ち上げられません……」

「ふんっ! 軟弱ものどもめ! こんな岩赤子でも持ち上げられるわ! それができぬ貴様らは赤子以下のクズだ! 生まれてくる価値もない底辺のゴミだ!」

プライドは岩の1つに近づく。

「いいか、よぉく見ておけ。ふぅんぬっ!」

彼は巨岩を、片手で軽々と持ち上げる。

「どぉだぁ……! この程度簡単にできるだろぉ? 貴様らもさっさと持ち上げるのだっ!」

「で、できませんよぉ……」

にやにやとプライドが嫌らしく嗤いながら、彼らを見下す。

人間ごとき弱者に返り討ちに遭って、ベコベコに凹んでいたプライドは、こうして弱者をいたぶることで徐々に回復していった。

「まったく軟弱だなぁ貴様ら! ほれ、こんな軽い岩なんて、お手玉だってできるぞぉ! ほれほれほれぇ~!」

……と、岩をポンポンと空中に投げ、キャッチしようとした、そのときだ。

ずしっ、と急に岩が重くなったのだ。

「なっ!? なんだ急に……ぐぇええええええええええ!」

ぐしゃっ! と大岩がプライドの体を押しつぶしたのだ。

「ぐっ! なんだ!? 急に重くなって……この! くそ! 持ち上がらねえ……!」

よく見ると、プライドの体はしぼんでいた。

彼は身体強化の魔法を使って、筋肉量と膂力を増強していたのだ。

「なんだこいつ……? なんか、しぼんでね?」

「ひょっとして本当はひ弱なのに、魔法で強く大きく見せてたのか……?」

「ぷっ……! だっせぇ……!」

かぁ……とプライドは顔を赤くする。

「くっ! う、うるせえええ!」

「あんだけ力自慢しておいて正体はこんな弱いヤツなんて! あーあ、なぁにが力こそが正義だよ!」

「「「「ぎゃはははははっ!」」」」

逃亡者達から馬鹿にされて、プライドは自分の自尊心を傷つけられた。

「この! くそっ! なぜだ!? なぜ急に強化魔法が使えなくなったのだぁあああああああ!?」

……さもありなん、奇跡の力を、精霊の王が剥奪したからである。

「よし! 今のうちだ! みんな、逃げるぞ!」

「「「「おう!」」」」

逃亡者達は一目散に、収容施設から逃げ出す。

「まっ! 待てお前ら! そんなこと許されるとでも思ってるのか!?」

プライドの言葉を、しかし無視して逃亡者達は逃げる。

牢屋に入っている他の魔族達も救い出し、ぞろぞろと収容施設から出て行く。

「ま、待て! 待ちやがれ! てめえらを鍛えてやった恩義も忘れて! おれを助けずさっさと逃げるなんて、恥ずかしくないのか!?」

魔族たちは立ち止まり、蔑んだ目をプライドに向ける。

「鍛えてくれなんて頼んでねえよ!」

「だれがてめえなんて助けるかばーか!」

「一生そうやって下敷きになってやがれ!」

「それが嫌ならご自慢の筋肉とやらで持ち上げて追いかけてくるんだなぁ!」

逃亡者達はそう言い残すと、プライドを置いて全員で逃げていく。

「マズいまずいまずいぞ……! これを魔王様に知られてしまったら……!」

と、そのときだった。

「何をしておるのだ……プライド……?」

ブンッ! とプライドの目の前に、騒ぎを聞きつけた魔王が転移してきたのだ。

「ま、魔王様!?」

「なんじゃ……その格好は? おぬし、わしを愚弄しておるのか……?」

岩に下敷きになった状態のプライドを見て、魔王が不愉快そうに顔をしかめる。

「め、滅相もない! ふんっ! ふんっ! この……! 動けっ!」

だがいくら頑張っても強化魔法は発動しないし、岩もびくともしない。

無様な姿をさらしていると、魔王がビキッ! と額に血管を浮かべる。

「貴様やはりわしを馬鹿にしておるな!」

「そ、そんなことは決してありません!」

「しかもなんだぁ……? 収容していた逃亡者どもはどこへいった!?」

「そ、それはぁ~……」

「エレンとか言うガキの元へ逃げたあの魔族の姿もないぞ!? よもや取り逃がしたのか!?」

「あ……あう……その……あの……」

もはや釈明の余地は無かった。

魔王は右手を前に出す。

「貴様を幹部の座から追放する!」

「そ、そんな!? 待ってください!」

「黙れ! 貴様は一生地下にでも潜っておれ!」

魔王が魔法を発動させる。

地面に大穴が空いて、プライドは岩ごと奈落へと落ちていった。

光の届かぬ穴のなかで、プライドは必死になって魔王に訴える。

「お願いします魔王様! やり直すチャンスをください!」

「ならぬ! この使えぬ貧弱なゴミが! 死ぬまでそこでそうしてろ!」

魔王は転移して、その場からいなくなる。

誰も助けてくれず、岩をどけることもできず、地下の冷たい空間でひとり、プライドはむせび泣く。

「だれかぁ~……おれをたすけてくれよぉ~……誰かぁ~……だれかぁあああ~……」

だがプライドの情けない声は、穴の中をむなしく響くだけで、誰にも届かないのだった。

その様子を、くすくすと見下ろす女が一人。

「……バカな人ですね。人に優しくしないからこうなるのです」

「おい」

すぐそばに、ルルイエが立っている。

彼女の胸ぐらを掴んで、ねじり上げていう。

「どういうこと? 僕、忠告したよね? エレンの前に姿を現すなって」

ルルイエはそのまま宙に浮かび、ふくろうを穴の上まで持って行く。

「……申し訳ございません。ですが、魔界でのガイド役は必須かと思いまして」

「黙れ。口答えするな」

ぱっ、とルルイエが手を離す。

ふくろうはプライドのいる穴へと真っ逆さまに落ちていく。

だが……。

「……突然落とすとは、いやはや短気な御方ですね」

振り返ると、穴の縁でふくろうが平然と立っているではないか。

「……精霊王自らお作りになられたこの体、よもやこの程度で死ぬとは思っておられないでしょう?」

「チッ……!」

ふくろうはきびすを返して、宙に浮く。

「いいか、過度な接触は控えろ。魔王の元にエレンを送り届ける。それ以上のことは僕が許さない。いいな?」

「……承知いたしました」

ルルイエはふくろうを振り返って言う。

「おまえさ、何がしたいわけ?」

「……私はただ、エレン様が英雄になるお手伝いをしたいだけでございます」

「うさんくさっ。まったく信用ならないよ」

「……左様でございますか。しかしエレン様を敬愛する気持ちは本物です。あなたがエレン様に抱くのと、同じくらいには」

ビキッ……! とルルイエのこめかみに血管が浮かぶ。

パチンッ、と精霊王が指を鳴らす。

その瞬間、周辺一帯に大嵐が発生した。

逆巻く渦には、無数の真空の刃が混じっている。

地下の施設ごと、ふくろうをズタズタに引き裂く。

嵐は施設の天井をぶち破り、天を貫き、周囲にある全てを粉みじんに帰す。

崩壊した天井は、プライドのいる大穴ごと、施設を完全に、地下に沈めた。

「……やはりルルイエ様はお優しい、カルラ様の体を傷付けないために、手を抜いてくださるなんて」

ルルイエの背後にはふくろうが立っている。

「僕の抱くエレンへの愛が、おまえと同じだと? 僕を愚弄するのも大概にしろよ?」

凄まじい大魔法の直撃を受けたにもかかわらず、ふくろうは五体満足だった。

ぺこっ、とルルイエの前でうやうやしく頭を下げる。

「……ご不快にさせてしまい申し訳ございません。以後、気をつけます」

そう言ってふくろうは、夜の闇に消えるのだった。