軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93話 母の面影、ふくろうの女

ぼくらが魔界へと出発する日になった。

その日の朝。

ぼくは 神狼(ラン) とともに、トーカの街近くの森へと、散歩に来ていた。

「魔界に行ったらしばらく散歩に来れないからね」

『さすが若様! お優しい御方! 大好き! 好き好き~♡ わふううん♡』

隣を歩くランが、スリスリとぼくの足に頬ずりする。

「……ぼくたちまた、散歩に来れるよね」

思わず立ち止まるぼくに、ランが見上げていう。

『若様、緊張なさっておられるのですか?』

「うん……失敗できない旅だからね。それに、行き先が未知の世界だし」

ランは人間の姿になると、ぼくの前に跪く。

「若様、あなた様は最強の勇者でございます。もっと自信をお持ちください」

彼女は微笑んで言う。

「それに私やカレン、多くの仲間が貴方の旅路を全力でサポートいたします」

「そう……だね。みんないるもんね。ありがとう、ラン。元気出たよ!」

「それはようございました。……ただ、不安になる気持ちは理解できます。さすがに魔界の情報が少なすぎますからね」

「そうだね。せめて 道案内(ガイド) がいればなって思うけど……魔界を知っているアーシアちゃん連れていくわけにはいかないし」

魔王の娘、アーシアちゃんはトーカの街に残ることになった。

トーカには聖女クレアさんがいる。

彼女の聖なる結界の中にいるのが、一番安心だもんね。

「ガイド役は現地で確保するしかありませんね」

「けど人間に協力してくれる、魔族のガイドなんているかな……」

と、そのときだった。

「きゃぁあああああああ!」

……女性の悲鳴が、森の奥から響いた。

「ラン、いこう!」

神狼の姿に戻ったランとともに、ぼくは森のなかを駆け抜ける。

『さすが若様、今から魔王討伐のたびに向かうにもかかわらず、救いを求めるもののもとへ向かうなんて! 素敵です!』

彼女に道案内してもらって、ぼくらは現場へと到着する。

「女性が魔族に襲われているようです!」

フードを被った旅人が、犬の魔族に襲われそうになっている。

「たぁあああああああ!」

ぼくは聖剣を手にとびかかり、魔族を一刀両断する。

『さすが若様! もはやこの程度の魔族など、一刀のもとに倒すなんて!』

ぼくは聖剣をおさめて、倒れている彼女に手を伸ばす。

「大丈夫ですか?」

「……ええ、ありがとうございます」

尻餅をついていた旅人の手を引っ張り、持ち上げる。

パサッ……と彼女の被っていたフードが、取れる。

「…………え?」

「か、【カルラ】様!?」

ぼくも、そしてランも目をむく。

そこにいたのは、【赤い目】をした、妙齢の女性だ。

背は高く、少しパサついた長い髪を、三つ編みにしている。

豊満な乳房にお尻、そして……パッチリとした二重まぶたと、 紅玉(ルビー) の瞳。

「母……さん?」

おじいさんからもらった写真に写っていた、カルラ母さんと、彼女はそっくりだった。

「カルラ様! カルラ様ぁあああああ!」

ランは人間の姿になると、旅人に飛びつく。

彼女のことを、ぎゅっと抱きしめる。

一方で、ぼくはどうしていいか、わからなかった。

ぼくは物心つくときから、ジョエルおじいさんとランとふたりで暮らしていた。

母さんは生まれたときからいなかったから、顔を見たことがない。

……逆に言えば、ランはぼくの生まれる前、つまり母さんを知っている。

「……あの、申し訳ございません。私は、カルラという名前ではありません」

「「え……?」」

ランが女性から、離れる。

「た、大変失礼いたしました……! あまりにも、似たお人がいましたもので……」

「ランがご迷惑をおかけして、すみませんっ!」

ぼくらが頭を下げると、母さんそっくりの旅人は、いえいえと笑顔で首を振る。

「……他人のそら似、ということはよくありますので。それにあなたは命を救ってくれた恩人、謝る必要などありません」

ややあって。

「……申し遅れました。 私(わたくし) はふくろ……いえ、【アウル】と申します」

母さんそっくりの旅人、アウルさんがそう自己紹介する。

「ぼくはエレン。こっちは従者のランです。魔族に襲われるなんて……なにかあったのですか?」

アウルさんはうなずく。

「……実は私、魔界から亡命しようと、こちらにやってきたのです」

「ということは……アウルさんは魔族なんですか?」

そう言えば、アウルさんの耳は少し尖っていた。

「……ええ。しかし人間に敵対する意思はございません。なのでどうか、命だけはお助けください」

「安心してください! 命を取ろうとなんて思ってませんから!」

なにも魔族はみんな敵ってわけじゃない。

アーシアちゃんやアウルさんみたいな、穏やかに暮らしたいだけの魔族もいるんだ。

「悪人じゃないあなたを殺そうなんてつもり毛頭ないです!」

「……ああ、エレン様。ありがとうございます。あなた様はなんとお優しい御方でしょう」

アウルさんが涙を流しながら、ぼくの手を掴んで言った。

近くで見れば見るほど、写真で見た母さんと、そっくりの顔をしている。

でも……本当のお母さんと会ったことも話したこともないから、似てる人以上の感想は沸いてこなかった。

「しかし魔界から亡命する魔族を、なぜ魔族が狙っていたのですか?」

ランの問いに、アウルさんが答える。

「……実は現在、魔界は厳戒態勢を取っているのです。これより人間界から、とても強い勇者が来るとのことで」

勇者、つまりぼくのことだ。

「……魔族達はみな、魔界防衛に回されており、人間界への進出は厳禁とされているのです」

「アウル様のように、亡命を企てる魔族を逃がさないように、監視がいるのですね」

たしかに好戦的じゃない魔族にとって、勇者との戦闘は死を意味するからね。

逃げたいと思う気持ちは、よくわかる。

「……逃亡者の管理は、魔王軍幹部のひとり、【プライド】が行っています。先ほどの魔族はプライドの部下です」

「プライド……幹部、か」

部下がやられた以上、向こうがこっちに攻めてくる可能性は高い。

注意しておかないとね。

「……エレン様、お逃げください」

「え? 急にどうしたんですか、アウルさん」

「……私と一緒にいると幹部との戦いに巻き込まれてしまいます。あなた様のような、将来有望なかたの未来を摘むマネをしたくありません」

ぼくのことを心配してくれているようだ。

アウルさん、優しい人だなぁ!

と、そのときだった。

「見つけたぞぉおおおお!」

頭上にゲートが開いて、巨体が墜ちてくる。

ぼくはアウルさんをお姫様抱っこして、その場から一瞬で離れる。

ずぅうん、と地面をならしながら、巨大な魔族が落ちてきた。

3メートルほどの、浅黒い肌をした巨人だった。

鬼を彷彿とさせる、荒々しいフォルム。

「……気をつけてください! こいつがプライドです!」

プライドはギロッ、とアウルさんを見下ろす。

「見つけたぞぉ、臆病者のクソ野郎がぁ!」

殺意を向けられ、彼女が青い顔をして震える。

「安心して、アウルさん。ぼくが貴女を守りますから……!」

ぼくはアウルさんをランの背中に乗せて、下がらせる。

「ハッ……! 守るぅ~……? ぶはははははっ! てめえみたいなちんけなガキが! この魔王軍1の怪力、プライド様に勝てるとでも思っているのかぁ……!」

「ああ! オマエなんてちっとも怖くない!」

ぼくは聖剣を構えて立つ。

「戦いたくない人を無理やり戦わせるような、思いやりに欠けた最低なヤツに、ぼくは負けない!」

「いきがるんじゃねえ羽虫が! 死ねやごらぁ……!」

プライドが握りこぶしを作る。

ボッ……! と彼の拳が、真っ赤に燃える。

「食らええええええええええ!」

高速で、巨大なこぶしがぼくに向かってくる。

その拳をぼくは跳んで避ける。

地面に突き刺さると、その瞬間、周囲にあった物が【消滅】した。

地面も、草花も、木々も、すべてが一瞬にして消し飛んだのである。

「ぶはははっ! 見たかおれの【乖離拳】! 触れたものを全て! 分子レベルで分解する破壊の拳!」

敵が凶悪な笑みを浮かべる。

「さらに……ぬぅううん!」

プライドが気合いを入れると、彼の背中から20本の腕が生える。

「どぉおだぁああ! この20の腕から放たれる! 乖離拳の嵐! これを受けたら周囲一帯軽く消し飛ぶぜぇ~?」

「……え、エレン様。お逃げください! 私のせいで、あなた様が死ぬ必要はございません!」

ぼくは彼女を見て、首を振る。

「それはできない……ぼくはみんなを守るんだ」

プライドを見ても、ぼくの闘志はくじけない。

「戦えない人たちを、理不尽な暴力から守る。それが、力を持った人の義務だって……あこがれの人から教えてもらったから!」

ぼくの根源には、いつだってアスナさんの正義の心がある。

「来い! このぼくが、勇者エレンが相手だ!」

「ハッ……! 勇者がなんだ! 死ねぇ! 【10倍乖離拳】!」

まるで滝のながれのごとく、凄まじい勢いで連打が浴びせられる。

けれどぼくは、その拳の1つを、片手で受け止めた。

「なっ!? そんなバカな! 万物を破壊する乖離拳だぞ!?」

結局のところ、乖離拳とは奇跡(魔法やスキル)の力を使っている。

精霊の神子は、その奇跡の力を打ち消すことができる。

ぼくにとってはただのパンチだ!

「せやぁあああああああ!」

ぼくは彼を背負い投げする。

プライドが空中に放り投げられる。

「食らえ……進化した不死鳥の矢を!」

ぼくは精霊の神子となったことで、さらなる不死鳥の力を引き出せるようになった。

体から吹き上げる、膨大な量の炎が、手のひらの中に集束されていく。

「【 不死鳥の超新星矢(フェニックス・ノヴァ) 】!」

超圧縮された炎が、紅い光点となって射出される。

それは空中のプライドの体にぶつかる。

その瞬間、圧縮された炎が一気に解放。

空中で凄まじい爆発を起こす。

激しい熱波は一瞬でプライドの体を焼く。

空にかかっていた分厚い雲を一瞬で蒸発させ、青い空へと変える。

熱波による地上への被害は、ぼくが風の結界を張ることで防いだ。

「さすがです若様! 素晴らしい威力の一撃! まさに星の誕生を彷彿とさせる見事な攻撃でした!」

ぴょんぴょん、とランがぼくに抱きついて跳ぶ。

「……エレン様」

アウルさんが、ぼくの前に跪いて、涙を流す。

「ど、どうしたんですかっ? 怪我でもしたんですかっ?」

「……いいえ、違います。感動したのです」

ガシッ! とぼくの腕を掴んで、アウルさんが涙を流す。

「神にも等しいその力を、私利私欲のためでなく、正義のために使うその心意気! 素晴らしいと思います!」

「そんな……ぼくは当然のことをしているまでです」

「……ああ! なんて素晴らしい! このような強大な力を持ちながらも、その謙虚な姿勢を崩さぬとは! あなた様の精神は神をも超越した、まさに救世主にふさわしい御方です!」

「あ、ありがとうございます……」

ちょっとびっくりするくらい褒められすぎて、戸惑ってしまう。

「……エレン様! いえ、勇者様! お願いがあります!」

「な、なんでしょう……?」

「……あなた様の仲間に入れてください!」

頭を下げて、アウルさんが言う。

「私は魔界をよく知っております! ガイドできます! だから、お願いします!」

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……寸前で逃げたプライドへのペナルティは実行する。

ふくろう、あとで、ツラかせ。

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