作品タイトル不明
92話 グリード、闇カジノが潰れて破滅
テイマーのエレンによって、グリードが撃退された。
その日の夜。
魔界にある、【闇カジノ】にて。
「クソがぁ……! あのガキ……あのガキぃいいいいいいい!」
ここは闇カジノの2階にある、VIPルームだ。
ガラス張りの壁からは、1階のカジノの様子がうかがえる。
「殺す……! このグリード様をこけにしやがったあの 人間(サル) をぶち殺してやる……!」
グリードは尊大な態度の一方で、狡猾な男でもあった。
自分が死ぬリスクを勘案し、あの現場にいたのは、スキルでコピーしたグリードだったのだ。
本体はこの闇カジノのVIPルームにいたので無事だったのである。
「まぁいい……今日はクズどもの様子を見て、溜飲をさげるとするか……」
グリードはガラスに近づく。
1階に広がるのは、巨大なカジノ。
ルーレット、ポーカー、スロット、パチンコ等。
数多くのギャンブルが、そこかしこで行われている。
『くそっ! でろっ! でろよぉ!』
『なんでだよぉおおお! なんででないんだよぉおおおおお!』
『勝たなきゃ誰かの養分! やるしかねえんだ……!』
カジノでは金ほしさに、魔族達が目の色を変えてギャンブルに興じている。
「くくく……バカな奴らだ。てめえらが一生かかっても儲かることはねえんだよバーカ!」
一攫千金を狙って、なけなしの金を叩く魔族達を見て、グリードは愉悦に浸る。
と、そのときだった。
「グリード様ぁあああああ!」
ドアがバタン! と開き、男の魔族が入ってきた。
「あ゛ー……んだよてめえ……」
「お願いします! 妻と子供を帰してください!」
「チッ……債務者のクズか」
彼は工房を営んでいる。
借金をこさえ、返せなくなったのでそのかたに妻と子供を奪われたのだ。
魔族は泣きながらグリードの前にひざまづくと、深々と頭を下げた。
「おねがいします! おれのことは好きにしていい! だから妻と子供だけは! どうかご勘弁ください!」
「…………ふぅ」
グリードはポケットからたばこを取り出して、深く吸い込み、白い息を債務者の魔族に吹きかける。
「嫌だよバーーーーーーーーカ!」
グリードは債務者を蹴飛ばす。
「男をどうこうする趣味はねえんだよ。だいいち借金はてめえの自業自得じゃあねえか」
「そ、それは……」
「帰れクズ。近くに寄るんじゃあねえ、クズが移るだろうが。おい、こいつを外に追い出せ」
VIPルームの入り口で待機していた黒服達が、債務者の両腕を掴んで引きずる。
「い、いやだ……! 返して! 妻を! 子供を! 返してくれよぉおおお!」
「チッ……! うるせえな。おいちょっと黙らせてやれ」
「「ハッ……!」」
黒服達が債務者魔族を、殴る蹴るしてボコボコにする。
一通り痛めつけられ、債務者はボロぞうきんのように転がる。
「うう……かえしてくれぇ~……」
「そうしてほしきゃあ、金を稼ぐことだな。ほらよ、このコインやるよ」
カジノで使われているコインを、ポケットから取り出し、債務者に投げてよこす。
「てめえのようなクズが大金を稼ぐ方法はただひとつ、カジノで一発当てることだけだろ? やってみろよ、そのコイン1枚で」
グリードは立ち上がって、ガラス張りの壁を指さす。
「あそこにゃスロットを初めとして数多くのギャンブルがある。1発当てて大金持ちも夢じゃあねえ。妻と子を取り返したいなら、頑張るしかねえんじゃねーの、お父さん?」
ふらり……と債務者は立ち上がる。
「やってやる……絶対、大当たりを出してやる……!」
「その意気だなぁ……おい、下に案内してやれ」
黒服の1人が、債務者を連れてVIPルームを出て行く。
「くくく……ぐひゃひゃ……ひゃーーーひゃっひゃっひゃーーーーー!」
グリードは目に涙を浮かべながら、高らかに笑う。
「大当たりなんてでるわけねえだろばーーーーーーーか!」
邪悪な笑みを浮かべていう。
「カジノはカジノ側が絶対勝つようにできてるんだよボケがぁ……!」
このカジノにあるギャンブルの多くは、運に左右されると思われているが実は違う。
カジノ側が出目を、魔法でコントロールしているのだ。
つまり、インチキカジノなのである。
「バカな小市民どもだ。一攫千金を夢見て金を投じてるつもりだろうが……残念! オレ様に金を貢いでいるのとかわりねえんだよバーーーーーカ! ぎゃはははははーーーーーーー!」
グリードはガラス張りの壁の前に立ち、ギャンブルに興じる人たちを見下ろす。
「あー愉快愉快! バカどもをだまして金を巻き上げるのはなぁ……!」
眼下では、破産して涙を流すもの、一発逆転の夢が破れて崩れ落ちるもの。
たくさんの人たちが、絶望の表情を浮かべている。
「オレ様は強欲の男! 金も女も地位も名誉も! こうして弱者から吸い上げて全てを手に入れるんだ!」
泣きわめく債務者となった魔族達を見下ろしながら、ゲラゲラと笑う。
「さぁ一攫千金を夢見たクズども! 絶対に当たらないギャンブルに無駄金をついやして、破産しろぉおおお! ひゃーーーはっはっはぁあああああああ!」
眼下のカジノに、新しい客が入ってくる。
それは、先ほど追い返した債務者の男だ。
「お、来た来た~。またクズが破滅する姿が見られるぜぇ~」
先ほどの債務者は、もらった1枚のコインを胸に抱き、スロットへと向かう。
「ハッ……! たった1枚のコインで、スロットが当たるわけねえだろバカが」
ポケットからたばこを取り出してふかす。
「あのコインはいわば呼び水。あの1枚で絶対に当たる訳ねえ。けどギャンブルにはまったバカは、次こそ当たる! 次こそ……って無理して借金を重ねるんだよ」
より金を絞るために、グリードは彼にコインを渡したのだ。
「さぁ破滅の開始だ。希望にすがりついて絶望する様をじっくりと拝ませてくれよぉ……?」
債務者の魔族はスロットの前に座る。
コインを投入して、スロットが回る。
「くくく……バカじゃねえの。当たるわけねえっつーの。1枚で、絶対に当たるわけねえんだよ」
債務者はスロットのボタンを押す。
【7】
「お、やるじゃあねえか。7があと2つ出たら大当たりだぜぇ~? もっとも! 出るわけねえがなぁ!」
だが……スロットの表示は、こうなっていた。
【777】
「……………………は?」
『いやったあぁああああああああああ! 大当たりだぁああああああああああ!』
債務者魔族は涙を流しながら、天を仰ぐ。
『ありがとう! 神様! ありがとうございますぅうう!』
グリードは呆然と、大当たりを当てた魔族を見やる。
スロットからは大量のコインが吐き出されていた。
「ど、どうなってるんだ……?」
そのときだった。
『ぐ、グリード様! 大変でございます!』
1階のカジノを仕切っているスタッフから、通信の魔法が入った。
「どうした!?」
『あちこちで大当たりが! 次から次に債務者達が、あたりを引き当てています!』
「なっ!? なんだってぇええええ!?」
グリードはガラスにへばりついて、カジノを見回す。
『当たった! 当たったぁあああああ!』
『感謝! 圧倒的感謝ぁああああ!』
あちこちで利用者達が涙を流している。
スロット台からはすべて、大量のコインが吐き出される。
ルーレットでは全員が当てていた。
それだけじゃない、用意したすべてのいかさまギャンブルにおいて、客達全員が大当たりを引き当てたのだ。
「そ、そんなバカな! おい、ちゃんとイカサマの設定をしたんだろうなぁ!」
グリードは部下に当たり散らす。
『も、もちろん……100%大当たりは出ないように細工を施しています……』
「じゃあなんで!? あのクズどもは当てたんだよぉおおおお!」
『わ、わかりません……急に全員が、超幸運を手に入れたとしか考えられないかと……』
「んなこと起きるわけねえだろぉおおおおおおお!」
グリードが半狂乱になっていると、一階から怒声が聞こえてきた。
『おい! これで借金はチャラだろ! はやく妻と子供を返せ!』
『そうだ! 当てたんだから金をよこせよ!』
大量の客達が、グリードにむかって声を荒らげる。
「この……債務者どもがぁ……! 調子に乗りやがってぇ!」
グリードはガラスの壁をぶち破って、1階に降りる。
「てめえら調子に乗るんじゃねえ! 金はやらねえ! 絶対にな!」
「ざけんな! ぶっ殺すぞ!」
債務者達は怒りの表情を浮かべると、グリードめがけて殴りかかってくる。
「ハッ……! バカどもが! オレ様は魔王軍幹部強欲のグリードだぞ! てめえらごとき債務者のザコに負けるわけが……ぐぇえええええええええ!」
グリードがあっさりと殴り飛ばされる。
「はえ……? なん、で……?」
「ふざけるな! 妻と子は返してもらうぞ!」
彼を殴ったのは、さきほどVIPルームでコインを与えた魔族だった。
「大当たりを引き当てたんだ! 借金はチャラだろ! 返せねえっていうんだったら、力尽くで奪ってやる! いくぞ、みんな!」
「「「おう!」」」
大量の客達が、グリードのいたVIPルームへと向かおうとする。
「て、てめえら待ちやがれ!」
引き止めようとするグリード。
だが客達はどごっ! ばきっ! と彼を殴りつける。
「なんでだぁ!? 力が……力がでねえ! どうなってやがるぅう!」
不滅のコピー能力も、幹部クラスの魔力も膂力も、なぜか発揮できなかった。
押し寄せる債務者達の波にのまれて、グリードはボロぞうきんのように転がる。
「金があったぞ! もらっていくからな!」
「そっちの宝石をかたにもらってくからな!」
大当たりを当てた以上、カジノは彼らに金を渡さなければいけない。
客達はグリードのため込んだ財宝を奪っていく。
だがそれは、ギャンブルに勝ったことによる正当な見返り。
スタッフの黒服たちも、とめようにもとめられない。
カジノは勝者の彼らに、金を払わなければいけないからだ。
「やめ……やめろぉ……オレ様の財宝を……奪うんじゃあねえ……」
そのときだった。
「おいここか! すごい出るカジノってやつは!」
「めちゃくちゃ気前がいいんだってな! すげえ大当たりがバンバン出るってウワサだぜ!」
ぞろぞろと……大量の客が入ってきたのだ。
さぁ……とグリードが青い顔になる。
「や、やめろおぉ……! 来るな! 来るなぁああああああああ!」
だが客はカジノのウワサを聞きつけて、次から次へとやってくる。
そして大当たりを当てて、大量のコインを吐き出す。
「金よこせ!」「ねえなら無理やりでももらってくからな!」
止めどなく客がやってきては、大当たりを引き当てて、大量の金をグリードのもとから奪っていく。
「奪うなぁ……オレ様から……なにもうばうんじゃねえよぉ~……かえしてくれよぉ~……」
惨めになくグリードを、ひとりの魔族が見下ろす。
妻と子を取り戻した魔族が、フンッ……! とバカにしたように鼻を鳴らす。
「人から散々奪っておいてなにを言ってるんだ。因果応報だろうが」
「そ、そんなぁ~……」
力なく、グリードがうなだれる。
その様を、遠くから精霊王ルルイエが見下ろしていた。
「ま、こんなもんか」
そこへ、フードをかぶった人物が音もなく現れる。
「ふくろう、いたのか?」
うやうやしく頭を下げる。
「……さすがルルイエ様。運を操作し、大当たりしかでないようにするとは」
「用件はなに? 用がないならさっさと消えなよ」
「……つれないことをおっしゃられないでください。昔はあんなにも私のことを……」
ルルイエは殺気を込めて、ふくろうを見やる。
突風が吹き、風の刃がふくろうをズタズタに引き裂く。
「昔のことは忘れたよ。今はエレン一筋なんだ。君のことなんて嫌いだ。とっと失せろ」
「……失礼いたしました」
フードが切り刻まれると……そこにいたのは、【赤い目をした女】だった。
「チッ……。見れば見るほど不愉快な顔だよ。整形でもしてくれないかい?」
「……それは承服しかねます。この顔は、いや、【この体】はとても気に入っているのです」
「フンッ! まあいい。早く消えなよ。その気になれば君なんて1秒でミンチにできるんだから」
赤い目の女は、くつくつと笑う。
「……ご冗談を。殺せないでしょう、あなたは、私の【この体】を」
「……チッ」
ふくろうは跪いて報告する。
「……魔王の居場所は特定いたしました。こちらの地図をご確認ください」
ルルイエはふくろうから地図を受け取る。
「そりゃご苦労様。で? なにが欲しい?」
「……別に欲しいものなどございません。あなた様とエレン様のお役に立てれば私はそれで十分幸せなのです」
「はいはいそりゃあどうも。もういいよ、さっさと消えろ」
「……失礼いたします」
立ち上がって、赤い目の女、ふくろうがその場を後にしようとする。
「ふくろう、わかってると思うけど、絶対にエレンの前に姿を現すんじゃあないよ」
ルルイエは真剣な表情で、ふくろうに忠告する。
「その顔であの子の前に現れるようなマネしたら……そのときは、魂ごと消し飛ばしてやるからな」
「……委細、承知しました」
そう言って彼女は微笑むと、その場から音もなく消える。
「チッ……忌々しい存在だ。あーあ、あんな出来損ない、作り出さなきゃ良かった」
まあいいや、とルルイエは言う。
「やっぱり偽物よりも本物♡ エレンが一番さ♡ さあさあエレン♡ 頑張って魔王をちゃちゃっと倒して英雄になってくれよ♡」