軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97話 贋作勇者ザックの末路

テイマーのエレンによって、ザックは撃退された。

話はその数時間後。

ザックは人間界にいた。

「くそ……くそくそくそぉお! くっそぉおおおおおおおお!」

【トーカの町】のほどちかく、森の中で……ザックは歯がみする。

彼はエレンに完全敗北を喰らった。

しかしなんとか細胞のひとかけらが残っていたので、そこから復活したのだ。

魔族は人間と比べ高い再生能力を持つ。

幹部クラスの上位魔族となれば、たとえ肉片1つからでも復活できるのだ。

「あの野郎……エレンのクソ野郎! アスナのくそびっちがッ! よくも……よくもよくもよくも! おれに恥をかかせてくれたなぁああああああああ!」

パワーアップしたはずなのに力勝負で負け、愛する女の心は取られてしまった。

ザックは悔しさと嫉妬で体がちぎれそうになる。

「こうなったら……エレン、てめえの評判を落としてやるよぉ……!」

ザックは再び、【嫉妬】の権能を発動させ、エレンの姿へと変身する。

「てめえが魔界に行ってる間によぉ……! この勇者エレンの姿で悪事の限りを尽くしてやるぜぇ……! そうすりゃ人間界に帰ってきたとき、てめえの居場所はどこにもないなぁ! ぎゃははははははぁあ!」

もはやザックは正常な思考を持ち合わせていなかった。

勇者エレンへの復讐しか考えていなかった。

とはいえ真正面から挑まないところは、さすがの負け犬っぷりと言えた。

やることがただの嫌がらせという時点で、彼の程度が知れるというものだった。

「手始めによぉ! てめえの活動の拠点をぶっ潰してやるぜぇ!」

エレンの姿となったザックは、不死鳥の翼を広げる。

嫉妬の権能は、相手の姿・能力を完全コピーする。

威力では劣るものの、エレンの炎も再現が可能なのだ。

空中へと飛び上がり、トーカの街を見下ろす。

「さぁああああて! ショー! タぁあああああイム!」

バサッ……! と炎の翼を広げる。

トーカの街へ入ろうとする、商人の馬車が見えた。

「手始めに丸焦げにしてやんぜぇええええええええええ!」

バサッ! とザックが翼を羽ばたかせる。

【 不死鳥の羽撃(フェニックス・ブロウ) 】

熱風が発生し、広範囲を焼き尽くす。

「うわぁああああああああ!」

不死鳥の炎が商人を、馬車ごと燃やす。

「ひゃはははぁ! 苦しめ苦しめぇええ!」

馬車が転倒し、商人が転げ落ちる。

炎は収まったものの、酷い火傷を負っていた。

ザックは商人の前に降り立ち、ニヤニヤ嗤いを浮かべながら言う。

「エレン様のお帰りだぞぉ……! 魔王との戦いでストレスがマッハだからなぁ、てめえを殺してストレス解消させてもらうぜぇ!」

ぼぐっ! とザックは商人の腹を蹴飛ばす。

「おら勇者に蹴られるんだ光栄だろぉ!」

と、そのときだ。

「ふざ……けるな! 偽物!」

商人がエレンの姿をした、ザックを見て……ハッキリと言う。

「なっ!? だ、誰が偽物だ! おれは本物だぞぉ! この姿を見てわっかんねえのかよぉ!」

「確かにエレン様そっくりだ……けど! おまえは違う! あきらかに別人だ! 姿形だけが似てるだけの、ただの小悪党だ!」

まただ、アスナの時と同じだ。

また、自分がエレンでないと、一瞬で看破されてしまった。

「エレン様は世のため人のために力を使う清き心の勇者だ! おまえなんてただ勇者のフリしてるだけの愚か者だ!」

「だ、だまれぇええええ!」

ごぉ……! とザックの体から不死鳥の炎が吹き上がる。

「殺す! こうなったら……てめえごと街を吹っ飛ばしてやる!」

バッ……! とザックは右手を伸ばしていう。

「【 不死鳥の火矢(フェニックス・アロー) 】!」

超高温の炎が矢となって、商人とトーカの街を消し飛ばそうとする。

激しい爆発と熱風。

「ひゃはははぁ! 燃えろ燃えろォ……! エレン様の炎だぞぉ……!」

だが、爆発による煙が収まると……。

「なっ!? む、無傷だとぉおおお!?」

トーカの街は、最強の炎の矢を受けても、傷一つ負っていない。

それどころか、火事すら起こっていなかった。

「い、いったいどうなってやがる!」

「……それは、私の結界が働いたからです」

商人の前に、いつの間にか美しい女が立っていた。

「なんだてめぇは!?」

「……私はクレア。勇者エレン様より、この地を守るように言いつかった、聖女クレアよ!」

聖女の前には、聖なる光の結界が張られている。

それは街全体を完全に覆っており、ザックの攻撃を防いだのだ。

「せ、聖女様……!」

救世主の登場に、感涙にむせび泣く商人。

クレアは微笑むと、治癒の魔法を商人と荷物を引いていた馬車にかける。

「……さぁ早く、街に戻って。危機を知らせるのです!」

「させるかよぉおおおおおおお!」

不死鳥の炎で、ザックは攻撃する。

だがその炎は、聖女の聖結界の前にはまるで歯が立たなかった。

「なぜだぁ!? どうしてだぁ!? 勇者(おれ) の 炎(ちから) は最強のはずだろぉおおおおおおお!? なぁ!」

しかしクレアは、ザックに蔑んだ目を向ける。

「……気持ち悪い。話しかけないでください、この贋作」

「てめえもか!? てめえもおれをエレンとなぜ呼ばないんだよぉおおおおお!」

炎でメチャクチャに攻撃するが、まったく効いていない。

「……あなたは何もかもが偽物です。性格も、炎も。おまえのそれはエレン様に遠く及ばないのです」

「ちくしょおおおおおおおお!」

ちょうどそのとき、商人がトーカの街の冒険者を引き連れて、戻ってきた。

「聖女様を守れ!」「勇者様の街をあんな偽物なんかに好きにさせるか!」「野郎ども! 意地を見せるぞぉ!」

冒険者達が襲いかかってくる。

その鬼気迫る表情にたじろぐザック。

「く、くそ! 喰らえ炎を!」

右手を前に向けてザックが叫ぶ。

だが……先ほどまでと打って変わって、炎は全く発生しない。

「なぜだぁあああああああああ!?」

「チャンスだ! この贋作野郎をぼっこぼこにしてやるぞ!!」

「「「了解!」」」

トーカの冒険者たちは、 贋作勇者(ザック) を袋だたきにする。

「死ね、偽物!」「くたばれ悪魔!」「エレン様のふりするなんて2億年早いんだよ!」「てめえみたいなクズがエレン様に勝てるとでも思ったか!?」

罵声を浴びせられながら、ザックは冒険者達からボコボコにされる。

「な、ぜだよぉ~……この姿は……エレンじゃないかぁ~……どうして、誰も……信じてくれないんだよぉ~……」

「……哀れな偽勇者、あなたに教えてあげましょう」

クレアが近づいてくると、冒険者達は殴るのをやめる。

「……エレン様が勇者なのは、なにも強大な力を持っているからだけではありません」

敬虔なる神の使いのように、クレアをはじめとして、トーカの冒険者達も目を閉じてうなずく。

「……勇者の力を持っているから勇者なのではありません。それにふさわしい心を持っているから、エレン様は誰もが認める勇者となったのです」

真正面から、ザックは人格を否定された。

ザックは愕然とした表情を浮かべる。

「おれは……おれはエレンだぁ! 勇者エレンだぁああああああああ!」

バッ……! と右手をクレアに向けて、不死鳥の炎を使おうとした……そのときだ。

ボッ……! と突如として、ザックの体が炎に包まれたのである。怒りで炎のコントロールを誤ったのだ。

「あんぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!」

不死鳥の炎は、魔を焼き尽くす聖なる焔。

それは、魔族となったザックにとっては、猛毒に等しい。

「痛゛い゛よ゛ォ゛おおおおおおおお! 熱゛い゛よ゛ォ゛おおおおおおお!」

ゴロゴロと転がり回ると、体から泥が落ちる。

エレンから、元のザックの姿へと戻った。

「こいつザックじゃねえか! 冒険者の!」

「蟻事件の主犯格じゃんか! 今度はエレン様を騙っておれたちを騙そうとしたのか!」

「うっわ最低! クズ! 死ねよ!」

炎で焼かれるザックを、しかし誰一人として助けようとしない。

それどころかザックとわかるやいなや、さらなる罵声を浴びせてくる。

「たすけてぇえええ! たすけてよぉおおおおおおおおお!」

「誰が助けるもんか! 自業自得だ! そのまま焼け死ね!」

ザックは体を焼かれながら、自分の人望のなさに涙を流す。

集まっている冒険者の中には、知り合いや友達もいた。

だが誰一人だって助けてくれない。

「あついよぉおおおお! いたいよぉおおおお! 死にたくないよぉおおおお!」

……ザックの肌はボロボロと、不死鳥の炎に焼かれて塵となっていく。

だが、魔族の再生能力が、崩れた肌を元通りにする。

炎が体を焼き、魔族の再生能力で元に戻る。

延々と、死と再生を繰り返される。

聖なる炎は、魔族にとって耐えがたい痛みと苦しみを発生させる。

「さっさとくたばれこの悪魔!」

「ぢぐじょぉおおおおおおおお!」

ザックは救援を諦めて、不死鳥の翼を広げて飛ぶ。

超スピードで飛べば炎が消えると思った。

だがいっさい消えることはなく、ザックに苦しみを与え続ける。

「火! 火が! どうやったら!? 消せる……そぉだぁあああああああ!」

ザックが超スピード向かったのは、トーカから離れた場所にある、大海原。

彼は海の中へと飛び込む。

不死鳥の炎が、海の水で消える……はずもなかった。

「なぁああああああぜぇええええええええええだぁああああああああああ!?」

燃え盛る不死鳥の炎は、海水程度では消えないのである。

「ぐぞぉ……! 脱出だぁあああ!」

だが足掻き藻掻いても、海上へと向かうことができない。

体がまるで鉛になったみたいに重くなり、海底へと沈んでいく。

「ぐぶぢぃいいいいいい! だずげでぇええええええええ!」

海中で呼吸もできない苦しみ。

魔族の肌を聖なる炎であぶられ続ける苦しみ。

死にたいのに、死ぬことができない。

体はどんどんと、誰の手も届かぬ海底へと沈んでいく。

「いやだ……いやだぁあああ……このまま……しずむのは……いやだよぉおお……」

…… 勇者(エレン) の姿をしていても、誰もザックを助けるものはいない。

そう、エレンは決して、勇者だからチヤホヤされていたわけじゃないのだ。

「どこで……おれは……まちがえたんだよぉ~……」

暗い海底へ沈みながら、ザックは後悔する。

「なにが……いけなかったんだ? どうして、こんな目に遭うんだ……おれが、なにをしたっていうんだよぉ~……」

潰えぬ永遠の炎に身を焼かれながら、苦痛と孤独に打ち震えていた……そのときだ。

「それはね、君がエレンを追放したのがそもそもの間違いだったんだよ」

沈みゆくザックとともに、海底へと降りていく白髪の女性がいた。

彼女はザックを、まるで虫けらか何かを見るような目で見ている。

「自分の仲間をゴミのように切り捨てた。その報いを君は受けているんだ」

「おれの……せいって……いうのかよぉ~……」

白髪の女性はうなずくと、クスクスと笑う。

「じゃあね哀れな贋作の勇者。君はこのまま海底に沈み、不死鳥の炎に身を焼かれながら、永遠の孤独と苦しみを味わうがいい」

そう言って、白髪の女性は突如として消えさる。

「エレン……えれぇん……ごめんよぉ……」

海底に沈みながら、ザックは涙を流す。

「酷いことしてわるかったよぉ~……だから、おれもすくってくれよぉ~……なぁ……勇者なんだろぉ~……」

……だが、救いをもとめる声が、勇者に届くことは決して無かった。

エレンに嫉妬し、偽物の力を振るった元勇者は……暗い絶望の底へと、落ちていったのだった。