作品タイトル不明
88話 逃げてきた王女様
その日、トーカの街近辺の森にて。
ぼくたち【緋色の翼】は、モンスター討伐依頼を受けていた。
「ふぅ……ひとまずこれで大丈夫かな」
ぼくの目の前には、オーガの大群が倒れている。
たった今ぼくが討伐したばかりだ。
『さすが若様! B級モンスターのオーガの大群ですら、あなた様の前では紙同然! 見事でございます!』
「ありがとう、ラン。他のみんなの様子はどうだろう? アスナさん、ティナ?」
今回はオーガの大群が森に現れたと言うことで、二手に分かれて依頼をこなしている。
最近手に入れた【 念話(テレパシー) 】のスキルを使う。
『こっちも片付いたわ』
『ほんと、最近モンスターの数多くなってきてるわね』
敵の数もそうだけど、質も向上している。
オーガが辺境に、こんなにたくさんいること自体、異常なのだ。
『魔王が本格的に活動を開始したのかもしれないわね。エレンが幹部を単独撃破したことだし』
「だとしたら、早く魔王を倒さないとだね!」
そのときだった。
「きゃぁああああああ!」
どこからか、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「ラン、位置の特定を!」
『かしこまりました!』
フェンリルのランが耳と鼻を使って、悲鳴が聞こえてきた場所を特定する。
その情報がぼくの脳内へと直接流れてきた。
不死鳥の翼を生やし、ぼくは現場へと向かう。
『精霊の神子となったことで、使い魔である精霊とより深くつながれるようになったのじゃな。さすがエレンじゃ』
『ああ! 若様と深くつながれてる! 私のすべては若様のものです! わふぅうん♡』
不死鳥(カレン) と深く繋がることで、より自在に飛べるようになった。
そこにいたのは、ミノタウロスだ。
頭が牛の巨人が、棍棒を持って、女性を襲おうとしている。
「やめろぉっ!」
ぼくは高速で飛翔し、ミノタウロスの体めがけて跳び蹴りを食らわす。
そのまま貫通すると、バゴンッ! と大きな音とともに、ミノタウロスの土手っ腹に穴を開ける。
『すごいのじゃエレン! ただの蹴りでSランクのモンスターを討伐するとは!』
ぼくは襲われていた女性を見やる。
「大丈夫ですかっ!」
青いドレスを着た、とても美しい人だ。
彼女は小さな子供を守るようにして、胸に抱いていた。
「あ、あなたは……?」
「ぼくはエレン、冒険者です!」
「! あなた様が……あ……」
ぐらり、と女性が倒れそうになる。
ぼくは慌てて抱き留める。
彼女は体中ボロボロで、頭から血を流していた。
「大変だ! すぐに治療しないと……!」
不死鳥の癒やしの炎で、女性の傷を治す。
小さな女の子のケガもすぐに治せた。
「危ないところを、どうもありがとうございました」
女の子はペコッと頭を下げる。
どうやらお母さんと森に山菜を摘みに来ていたらしい。
アスナさんが、この子のお母さんらしき人を保護したらしいので、今から連れてくるとのこと。
「あの……もしかしてあなた様は、ナタリア姫様では、ないでしょうか……?」
「まぁ、ご存じですの、わたくしのこと?」
「もちろんです! とてもお優しい姫様とうかがっています!」
民から信頼の厚いお人だって、凄いウワサになっているんだよね。
わぁ……! すごい、本人だ……!
あ、握手してくれないかな……いやいや、今は仕事中だ!
「あなたにそういってもらえると、とても光栄ですわ、エレン様」
「さ、様なんてつけないでください! 恐れ多いです!」
「ではエレンとお呼びしますので、わたくしのことはナタリアとお呼びくださいまし」
「い、いいんですか……?」
もちろん、とナタリア姫がうなずく。
「それで、ナタリアはどうしてここにいるんですか?」
王女様がこんな辺境の、しかも森の中にいる理由がわからない。
「……とても一言では説明できないのですが、神に導かれ、あなたに会いに来たのです、エレン」
「は、はぁ……ぼくに会いに、ですか?」
ナタリア姫はいたく真面目な表情で、ぼくに言う。
「あなたに危機が迫っているのです」
彼女が語った内容は、とても信じられないようなものだった。
国王陛下が大臣と共謀し、ぼくを殺そうとしている……とのこと。
「わたくしはあなたに危機を伝えるべくここへと参上した次第なのです。……信じて、くれますか?」
「正直、なんとも言えません。けど、ぼくはあなたを信じます。あなたの目は嘘をついている人間の目じゃない。それに……」
と、そのときだった。
『見つけましたよ、ナタリア姫ぇ……?』
どこからか、男の声がした。
「その声は! カバイゴス!」
「なんだって!? いったいどこに……」
バサッ、と1羽のフクロウが枝の上に止まる。
『くくく……魔物使いのスキル、実に有用だ。こうして動物や魔物を使役することで、目標をすぐに見つけられるのですからねぇ……』
どうやらあのフクロウではなく、それを操っている大臣のカバイゴスがしゃべっているようだ。
『なっ!? エレン・バーンズ! なぜ姫と一緒にいる!』
「答える義理はない! 何のようだ、カバイゴス!」
彼が悪人であることは、ナタリアから聞いている。
ぼくは警戒心を強めて、フクロウを見やる。
『くっ……! エレンがいるのは想定外だったが……まあいい。用事があるのはそこの姫だけだ』
「わ、わたくしを始末するつもりですの……!」
『そのとおり、勘のいいあなたは邪魔ですからねぇ……』
そのときだった。
ガサ……ガサガサ……と森をかき分けて、ミノタウロスの大群が現れた。
それだけじゃない上空には 飛竜(ワイバーン) の群れ。
ぼくはすっかり、魔物に取り囲まれてしまった。
『エレン、取引をしましょう。姫を引き渡すのならば、あなたの命だけは助けてあげましょう』
「ふざけるな……! ぼくの答えはノーだ! ぼくはナタリア姫を守る!」
聖剣を手に取り、ぼくは構える。
「カバイゴス、ぼくはあなたを許さない! 証拠隠滅のために姫を殺そうとするなんて!」
『ほぅ、ナタリア姫から事情を聞いたのですか。しかしそこの女が嘘をついている可能性もありますが?』
「ぼくは彼女を信じる……だって、自分が傷付いても、民を守ろうとしていたんだ」
森の中で迷子になっている女の子を、ナタリア姫は守ろうとしてケガを負った。
「そんな優しい人が嘘なんてつくわけがない! それに! 姫様の言っていることが真実だから、おまえは彼女を殺そうとしている! それが彼女の証言が正しいことを裏付けているじゃないか!」
『チッ……まあいい。貴様らもろとも殺せば何も問題ないのですからねぇ……!』
ワイバーンが、ミノタウロスが、ぼくににじり寄ってくる。
女の子はキュッ、とナタリアに抱きつく。
姫もまた不安げな表情をしていた。
ぼくは振り返って、力強く言う。
「大丈夫! ぼくがふたりを守ります!」
『やれ! 魔物ども! 皆殺しにしろぉお!』
空から、地上から、魔物達がぼくに襲いかかってくる。
ふたりが目を閉じて、ぎゅっと体を縮める。
ぼくは彼女たちを守るために、この力を使う。
「カレン、ラン……いくよ!」
『うむ!』『御意!』
ぼくの前に、不死鳥と 神狼(フェンリル) が現れる。
彼女たちに手を伸ばして、魔力を流す。
するとカレンは巨大な火の鳥へと。
ランは巨大な氷の狼へと変貌する。
『アオォオオオオオオオン!』
ランが吠えると、地上一帯が瞬時に凍り付けになった。
『なっ!? なんだこの広範囲の強力な魔法は!』
『若様の力だ! さすがです!』
ぼくは精霊の神子となった。
精霊達の力を底上げする……つまり、進化させることができるようになったのである。
ランには新しく氷の力を授けた。
『見よ! これがエレンの力じゃぁあ!』
カレンは大空に舞い上がると、炎の翼を広げる。
熱波は空を埋め尽くすほどいた飛竜たちを、一瞬で灰に変えた。
『なぁ!? なんだこの桁外れな力はぁああああああああああ!?』
枝に止まっていたフクロウ(カバイゴス)が目をむいて叫ぶ。
「今のランは氷神狼、カレンは鳳凰にそれぞれ進化しているんだ」
『なっ!? どちらも伝説の神獣ではないですか! まさか、エレンの力は従魔も神獣へと進化させられるというのですかぁああああああ!』
『そのとおり! うむ、見事じゃエレンよ!』
ギリッ……とカバイゴスが歯がみする。
『こ、これで勝ったと思わぬことです! 姫、そしてエレン! かならずや貴様らを葬り去ってくれますからね!』
バサバサッ! とフクロウが飛び去っていく。
『殺さぬのか、エレンよ?』
「あのフクロウはカバイゴスが操っているだけだからね。罪はない」
ぼくはナタリア達に近づいて、笑いかける。
「もう大丈夫だよ!」
「エレン……エレン!」
だきっ! とナタリアが抱きついてくる。
「助けてくれてありがとう! あなたこそやはり、勇者にふさわしい、素晴らしい人格をお持ちになられた御方ですわぁ!」
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ふふっ、さすが僕のエレン!
あの数を瞬殺するなんてもーすごい! かっこいい!
それに演出も上手くいったかな。
姫のピンチに颯爽と現れて助ける、勇者の伝説にはこういうのも必要だもんね!
……さて、と。さっきのスゴイバカな大臣へのペナルティはしっかりしておかないとね。
それと、大臣に力を与えたであろうあいつにも釘刺しておかないと。
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